2025年09月

このピンクの時計が、スタイルエディターでありYG信者の例外となった経緯を説明する。

変則的な審美的判断というものが存在する。それはワードローブの論理や生来のスタイル感覚といった、先入観に捉われないファッションの選択である。これらの選択は単なる(物質的な)魅力としてしか分類できない。このサルトリアリズムの判断の逸脱は、ジュ・ヌ・セ・クワ(言葉で表現できない魅力という意味のフランス語)、エネルギー、あるいは出会った瞬間に感じるような感覚に集約される。フランス語ではそれを“ひと目ぼれ(un coup de foudre)”と言い、直訳すると“稲妻の一撃”になる。この新しいローズゴールド製のロイヤル オークを初めて手にしたとき、そう感じたかどうかは確信が持てないが、アドレナリンのようなものは少し感じた。時計との“初デート”ではそれがとても感じられる。
 このように、直感的なワードローブという計算外の決定は、定期的に私の身に起こる。これを説明する必要があると感じているのは、まあ、私のような筋金入りのイエローゴールド好きが、トレイから完全なRGウォッチを手に取り、ましてや新しいRGロイヤル オークの記事を書く理由をどうやって説明すればいいのか、ほかにはないからだ。

 ピンクがかったゴールドへの嫌悪感は、この2年間で穏やかな嫌悪感へと和らいだ。RGは私が礼儀正しく我慢して耐えて、飲み込んで、対処できる、小さな柑橘類の果皮のようなものだ。苦いが、とてもひりつくほどではない。私がヴィンテージローズゴールドを好むようになったのは、ピンク・オン・ピンクのRef.1518が、ローズゴールドのなかでも優れた品種だったからだ。ヴィンテージRGは淡くて柔らかい。現代のRGは派手でけばけばしいと感じる。もちろん、RGのロレックス Ref.6062の外観は賞賛するが、RGのパンテールまたはエバーローズのデイデイトは気持ちだけ貰っておきたい。スイスの時計メディアによると、大陸ではRGが主流だという。彼らはイエローを“グラニー・ゴールド(おばあちゃんのゴールド)”と呼ぶ。
 ここニューヨークの小さなバブルで、YGは18歳から35歳の層にとっては無敵のチャンピオンだ。それはおそらく、TikTokでトレンドになっている#aesthetic(豪華で派手であり、ゴールドや宝石を多用したスタイル)と結びついているからだろうが、NYCが常にイエローゴールドのメッカだったからでもある。キャナルストリートや47番街に出かけて、90年代や00年代のラップミュージックのスーパースターたちへ捧げられた写真を見てみるといい。彼らのほとんどが、YGで装飾をしている。ティト・ザ・ジュエラーがビギー・スモールズ(ノトーリアス・B.I.G.)に贈ったチェーン、ネームプレートのネックレスを身につけたティーンエイジャーの少女たち、巨大なドアノッカーのイヤリングや金の塊の指輪を身につけた女性など、すべてニューヨークのジュエリー文化に組み込まれた、重要な参考資料である。
 新しいRGを見せられると、思わず目が点になる。私やファッション好きの仲間には向いていない。1970年代のような華やかさ(エルサ・ペレッティ)も、80年代のような華やかさ(映画『カジノ』でブルガリをまとったシャロン・ストーン)も、90年代のようなクールな自信(ラン・ディーエムシーのドゥーキーチェーンネックレス)もない。私の仲間のあいだではYGへの熱狂が広がっており、近い将来それが変わる兆しも見えない。
 さて、ピンクゴールド(またはRGなどどんな名前でもいい。それ自体が議論になるから)の予期せぬ展開だ! 今週初め、私は彼らの最新作をプレビューするために、APハウスへ少旅行をした。37mmのフロステッドイエローゴールドにスモークダイヤルが付いたものを試着するなど、いつものようにプレスの朝食ルーティンをこなした。部屋の光を追いかけながら、手首につけた同じ時計の写真を何百万枚も撮る。その結果、そこにいた20人が同じ日にInstagramへ投稿するような、“新作のなかでこれがいちばんのお気に入りだ”と言わんばかりのごく普通の写真が出来上がる。


 私はグリーンジュースをすすりながら、毎週のように時計イベントで顔を合わせるジャーナリストたちが詰まった部屋で、緊張しながらも世間話をした。文字盤の色や次の展示会についての話はこれ以上しないで! そして彼女を見つけた。黒いベルベット張りのトレイの上で、34mmのピンク・オン・ピンクロイヤル オークが孤独に光り輝いている。この時計はシンプルで純粋だった。マーケティングによる神秘性も時計的なギミックもない。シンプルな自動巻きのロイヤル オークだ。その色の組み合わせはとてもインパクトがあり、私の目には珊瑚のオアシスのように見えた。そう、私たちは誰もが何百万本ものロイヤル オークを見てきたし、“ああ、またロイヤル オークか。なんて斬新なんだ”というおなじみの文句を知っている。しかしクラシックに勝るものはない。ロレックスのGMTに文句を言う人はいないだろう? シャネルのフラップバッグやグッチのローファーのように、定番なのだ。これらのファッションアクセサリーの柱は、何百万もの色合いや質感、サイズで提供されるが、夢のようなピンク・オン・ピンクウォッチが完璧に実現したとき、再び新鮮に映るのだ。

 このロイヤル オークの魔法は、とてもジューシーなグランド タペストリー模様の文字盤にある。肉厚なコーラルピンクの色合いは、ピンクのフィナンシャル・タイムズ誌、ピンクのスキットルズ、ピンクのディオール リップオイル 001番、そして映画『バットマン リターンズ』のセリーナ・カイルが住むピンクのアパートなど、私が精神的に結びついているピンクの色合いを思い出させてくれた。文字盤はトロピカルな色合いで、かつて流行したミレニアルピンクやソフィア・コッポラのピンクとはかけ離れており、むしろコッポラ監督の映画『マリー・アントワネット』に登場するシルクの靴や公爵夫人のサテンガウンと合わせやすい、より堂々とした色合いである。バブルガムピンクの懐疑主義者でも満足するピンクの色合いだと思う。
 そして、どんな人がこの時計を身につけるのか想像してみた。フランス・リビエラでバカンスを過ごす女性が、地中海の暖かく浅いターコイズブルーの海に浸かりながら、さりげなく手首につけるのだろうか? 彼女は、最もファッショナブルな黄金をまとった友人たちといるときでさえ、パリッとした白いカフタンの袖をそっと引っ張り、誇らしげにほんの少しのピンクの輝きを見せるような女性だ。もしかしたら美しく装飾されたドリス・ヴァン・ノッテンのスーツを着こなす男性の手首にも似合うかもしれない。そんな彼のスタイルセンスは独創的でありながら、常にセンスよく仕上げられていることだ。



 もしかしたら、その小さなサイズによりPGが受け入れられたのかもしれない。それとも野暮ったさを感じさせないロイヤル オークのグラフィックのおかげか? ル・ブラッシュにあるオーデマ ピゲ ミュージアムには、ピンクマザー オブ パールダイヤルとインダイヤルを備えた、ネオヴィンテージのプラチナ&RG製QPが、ガラスケースのなかに展示されている。マシュマロのような美しい色であるが、(レイアウト的に間違いなく)忙しない。プラチナの八角形の枠の中に、何層にも重なったストーン、さまざまな色合いのクリーミーなピンク、そして小さく繊細なダイヤモンドインデックスが、Ref.25686RPのRGのニュアンスを際立たせている。
 その点本モデルの色は一貫している。ピンクダイヤルがピンクの金属を打ち消し、黄色みを帯びている。まるでパントーンカラーの帯を見ているようで、色合いを読み解こうとすると目がかすんでしまうが、それでも各色に名前があるほど(パントーンのサーモンローズ15-1626 TPGと、ピーチベリーニ20-0050 TPM)、十分に対照的だ。まるでピンク・オン・ピンクのだまし合いだが、私はそれに引っかかってしまった。

 だから、私は常に納得することを望んでいる。それがピンクの時計であってもだ。むしろたったひとつの目新しさ(人間ではなく物)だけで、自分の意見などあらゆる固有の意見が変わることを歓迎している。美しいものを楽しむためなら、自分の美的信念が木っ端微塵になることもいとわない。そしてそれはすべて、誰かが非常に巧妙に、正確なローズの色合いを完璧なピンクダイヤルと組み合わせたことによって、強情なYG信者でさえもピンクに手を出す人間に変えてしまった。
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オートマティック。Ref.77450OR.OO.1361OR.01。直径34mm、厚さ8.8mmのローズゴールド製ケースにローズゴールド製ブレスレット。反射防止加工のサファイア風防、サファイア製シースルーバック。グランド タペストリー模様のピンクダイヤル。自動巻きCal.5800搭載、時・分・センターセコンド、日付表示。約50時間パワーリザーブ、50m防水。価格は748万円(税込)

ロレックス GMTマスター II Ref.126710GRNR ブラックのセラミックベゼルを搭載した新作が登場。

ロレックス GMTマスター II Ref.126710GRNR ブラックのセラミックベゼルを搭載した新作が登場。

“コーク”や“ブルーベリー”のロレックスGMTマスター IIが出るというまことしやかな噂が飛び交うなか、私たちは今日、ロレックスでグレーとブラックのベゼルを備えた新しいSS製Ref.126710GRNRというまったく異なるモデルを発見した。この時計はブランドのほかのラインナップと同じサイズとムーブメントを備えており、直径40mmのケースにオイスター、またはジュビリーブレスレットの選択肢を用意している。価格は154万円(税込)だ。

この新作におけるもうひとつの目玉は、グリーンであしらわれたGMTマスター IIの文字と24時間針である。これらが、文字盤上でさりげないアクセントとなっている。これは、2007年のバーゼルで発表されたオリジナルのブラックオンリーのセラミックベゼルモデル、Ref.116710LNを彷彿とさせる。あれから17年も経ったなんて、信じられるだろうか?

我々の考え
率直に言って、私は“コーク”ベゼルの大ファンというわけではないため、今年それが見られないからといって特に悲しくはない。そして今作は、オリジナルのブラックベゼルのGMTマスター II、Ref.116710LNの黒と青、青と赤の色のコントラストが好みに合わず“派手”過ぎると考える人にとって、ちょうどいい控えめな選択肢だと思った。歴史的な結びつきを感じさせるペプシのアイデアも気に入っているが、自分のフォトジャーナリスト時代を振り返ってみると、あんなに人目を引く時計はつけたくないと常々感じていたように思う。“バットマン”だって、かなり目立つ。それに対して、この時計は実にステルス的だ。

新しいベゼルの組み合わせは、地球を揺るがすような衝撃的なものではない。だが、少なくともオリジナルのブラックベゼルよりは実用的で見やすく、そもそもGMTを使ううえでそれなりに重要な部分であるデイ&ナイトの区分がある。なお、ロレックスのサイトを見たときにもうひとつ目立っていたのは、スティール製のGMTマスター II “ペプシ ”が、生産終了の噂があるにもかかわらずまだ掲載されていたことだ。もしペプシがあなたの理想であったなら(私がそうであったように)、その夢は生きている。

基本情報
ブランド: ロレックス(Rolex)
モデル名: GMTマスター II
型番: 126710GRNR

直径: 40mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: 黒
インデックス: ホワイトゴールドのアプライド
夜光: 針とインデックスにクロマライトを採用
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: オイスターまたはジュビリー


ムーブメント情報
キャリバー: 3285
機能: 時・分・秒表示、デイト表示、GMT(時針単独調整機能付き)
パワーリザーブ: 70時間
巻き上げ方式: 自動巻き
クロノメーター認定: COSC

価格 & 発売時期
価格: 154万円(税込)