グレーグラデーションダイヤルの新作にも踏襲されている。

オリエントスターはM45 F7 メカニカルムーンフェイズにおいて、印象的なグレーグラデーションをダイヤルにあしらったRK-AY0122N(オリエント公式オンラインストア限定)、RK-AY0123N(プレステージショップ限定、コードバンの替えバンド付き)を2024年6月27日(木)に投入することを発表した。M45は2023年にオリエントスターで新設された“Mコレクションズ”のなかのいちコレクションで、ブランドが長年継承してきた伸びやかなラグやリーフ針を備えたクラシックな顔立ちを特徴としている。なお、M45はおうし座の散開星団すばる(プレアデス)の別名でもあり、2023年4月には神秘的な星団すばるの姿をブルーグラデーションダイヤルで表現したモデルで話題を呼んだ。同作は12時位置のパワーリザーブ、6時位置のデイト表示付きムーンフェイズなど従来のM45 F7 メカニカルムーンフェイズの特徴は押さえながら、手の込んだグラデーションダイヤルを生かすように、9時位置のオープンハートやミニッツトラックまで排除された非常にフラットな顔立ちに仕上げられていた。そしてそのデザインは、今回のグレーグラデーションダイヤルの新作にも踏襲されている。


 新作RK-AY0122NとRK-AY0123Nはともに、2023年のブルーグラデーションモデルと同じく星団すばるをテーマとしている。だが、今回モチーフとしたのは月とすばるが重なる掩蔽(えんぺい)という現象だという。掩蔽は月やすばるに限らず天体が別の天体を覆う現象を指す(特に月によるものを星食という)もので、南の空にひときわ明るく青く輝く星団すばるが月によって少しずつ隠れて暗くなっていく様子はさぞ見応えがあるだろう。ブルーグラデーションモデルがダイヤル全体で“光”を強調していたのに対して、今作は対象的に“影”を表現しているのだ。それを示すかのように、3時位置のブランドロゴ、ムーンフェイズの月はモノトーンであしらわれている。プリントで施されたインデックスもブラックで統一されていて、写真のうえではダイヤルに馴染んでいるように見える。

 なお、星団すばるのきらめきを表現するべく、今回のグレーグラデーションモデルにもブルーモデルのときと同様に高度な技術が用いられた。まずは、無数に散らばる星々を型打ち模様によってダイヤル表面に刻印。そのうえで、独自に調合された塗料を、専用の機器で色の濃さを調整しながらグラデーションになるように塗布している。さらに、その塗装面に分厚く透明な層を作り出すラッピング塗装を施すことで、吸い込まれるような宇宙の広がりと星の輝きをダイヤル上に表現している。

 

 ケースは既存のムーンフェイズモデルと変わらず直径41mm、厚さ13.8mmで、全体にブラックメッキが施されている。ムーブメントは50時間以上のパワーリザーブを備えた自社製のCal.F7M65で、スケルトンバックからその姿を確認することが可能だ。RK-AY0122N、RK-AY0123Nともに時計本体そのものは同じだが、プレステージショップ限定となるRK-AY0123Nにはコードバン製の替えバンドが付属。価格は前者が33万円(税込)の60本限定で、後者が34万1000円(税込)の140本限定となっている。わずか1万円ほどの差額で使い勝手のいい20mm幅のコードバン製替えバンドが付いてくるというのは、個人的にかなりお得だと思ってしまうがいかがだろう?

ファースト・インプレッション
実際に光の下で手に取ってみると分かるが、写真で見る以上に判読性はしっかり確保されている。針、インデックス、ダイヤルをワントーンで揃えた時計では、時刻を読み取るのにしばしば苦労することがある。だが、新作M45 F7 メカニカルムーンフェイズでは、セイコーエプソンならではの高いプリント技術と細部の仕上げによってこの問題をクリアしているのだ。


 ブラックのローマンインデックスは、複数回に分けて行われる重ね印刷によって施されている。文字の細い箇所はプリントで潰れないように隙間を空けるなどの細かい調整が重ねられ、グレーのダイヤルから浮かび上がるような陰影を持つ立体的なインデックスが生み出された。ダイヤルのふちにあしらわれた、輝く星を思わせるシルバーのドットも視認性の向上にひと役買っている。そして、そのインデックスを指し示す針にもひと手間加えられている。グレーのメッキが施されたリーフ針は左右で鏡面と筋目に磨き分けられ、光を受けることでその存在をひときわ強く主張する。今回の新作では星団すばるの“影”が表現されたようだと上で述べたが、細部のあしらいによって逆に光を感じられるデザインに仕上がっているようにも思えた。こと判読性においては、2023年のブルーグラデーションモデルよりも優れているように見える。


 もちろん、この時計における主役は、複雑な製造工程によって仕上げられたグレーグラデーションダイヤルである。ブラックメッキのケースも夜空を思わせ、ダイヤル上に緻密な型打ちで表された星々は手首のうえで美しく輝く。だが、そんなコンセプチュアルなデザインのなかに時計としての機能美も同居させるバランス感、技術力は素直に素晴らしいと思う。同タイミングでリリースされたM34 F8 デイトに見られるように、セイコーエプソンとしてのダイヤル表現の幅は拡大の一途を辿っている。もしかしたらまた来年になるかもしれないが、今度は星団すばるをテーマにどのような顔に仕上げてくるのだろう。個人的には秋の田沢湖をテーマとしたM45 F7のような色合いで、夕景に浮かび上がってくる星団すばるなんていうのもロマンチックでいいと思うのだが……、その答え合わせができる日を楽しみにしておこうと思う。

基本情報
ブランド: オリエントスター(Orient Star)
モデル名: M45 F7 メカニカルムーンフェイズ(F45 F7 Mechanical Moon Phase)
型番: RK-AY0122N、RK-AY0123N(コードバン製替えベルト付き)

直径: 41mm
ラグからラグまで: 49mm
厚さ: 13.8mm
ケース素材: ステンレススティール(SUS316L)、黒色メッキ
文字盤色: グレーグラデーション
インデックス: プリント、ローマンインデックス
夜光: なし
防水性能: 5気圧
ストラップ/ブレスレット: プッシュ三つ折式クラスプ付きワニ革ストラップ、RK-AY0123Nはコードバン製替えバンドも付属

ムーブメント情報
キャリバー: F7M65
機能: 時・分・秒表示、12時位置にパワーリザーブインジケーター、デイト表示とムーンフェイズ
パワーリザーブ: 50時間以上
巻き上げ方式: 自動巻き(手巻き付き)
振動数: 2万1600振動/時
石数: 22
追加情報: 秒針停止機能付き

価格 & 発売時期
価格: 税込33万円(RK-AY0122N)、税込34万1000円(RK-AY0123N)

時計の価格と価値、そして900万ドルの切手にまつわる不可思議な話

ポール・ニューマンが所有し、娘のボーイフレンドに贈ったポール・ニューマン デイトナは過剰な評価をされていると言われているが、その非難が本質的に正しいことは否定できない。実際、PNPND(簡潔にするために、ポール・ニューマンのポール・ニューマン デイトナを省略してこう呼ぶことにする)が大げさに持ち上げらてれいる状況自体が、この時計をこの時計あらしめているのだと言える。その過大評価を度外視すると、少し特徴的な外観に当時の製造技術を踏まえた良質な作り、そしてどこにでもあるような信頼性の高いクロノグラフムーブメントを備え、それが計時技術の進化を象徴しているという点で(時計史的に)興味深い、ミッドセンチュリーに大量生産された風変わりな趣向のスポーツウォッチというだけのものになってしまう。つまり過剰な評価という後ろ盾がなければ、この時計はあらゆる点で当時におけるその他多くの(実際何十万とある)時計とさほど変わらないのだ。もちろん、それらの時計はオークションで1700万ドル(当時の相場で約20億円)はおろか、17万ドルでさえ落札されることはない。

Paul Newman Daytona
 ヴィンテージウォッチ収集の趣味に真剣に取り組んでいる人ならおそらく誰でも知っているように、PNPNDとはまるで嵐のような存在だった。PNPNDはロレックスの特定のモデルを対象とした説明し難い熱狂の先駆けであり、その元祖ともいえる存在だった。しかし、この時計は米国芸能界の重鎮にゆかりのある時計でもあり(ポール・ニューマンはハリウッドによくいるタイプの美少年ではなかったが、役として求められればそのように演じることもできた)、そしてそれ自体がアメリカ文化を象徴するピースの一部にもなっている。もしあなたが腕時計に始まり、ハリウッドにまつわる名品、ポール・ニューマンの思い出の品まで幅広いジャンルをカバーするコレクターであったなら、 おそらくこの時計にも少なからず興味を持つことだろうと思う。

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 エキゾチックダイヤルデイトナのデザインそのものが、この時計が高値で取引されていることに少しでも関係しているか否かという質問の答えは、誰に尋ねるかによって変わるだろう。私はそのデザイン自体に、奇抜さ以上のものを見出せないでいる。しかし、私が敬意を抱いている人たち(そのなかには、時計デザインの価値を決定づけるベンチマークとして、またほかの時計コレクターの手本として、大いに評価されている人物もいる)は、真顔でこの時計を“史上もっとも美しい時計のひとつ”と評し、またそのように書いてもいる(もしジョージ・ダニエルズのスペース・トラベラーが文字を読むことができたなら、白目をむいて鏡の前に駆け寄り、白雪姫に出てくる女王のように本当に一番美しいのは誰なのかを尋ねることだろう)。

 PNPNDに限らず、このところ時計オークションで記録的な価格が次々と発表されていることが話題になっているが、その議論の中心にはふたつの問いかけがある。ひとつは“本当にその価値はあるのか?”、そしてもうひとつは “時計収集においてあまりよくないことなのでは?”ということである。

Rolex Reference 6200
ロレックス サブマリーナー Ref.6200

 まずは後者の疑問から見てみよう。まったく魅力を感じないと誰もが思っていた時計が眉をひそめるような高額で売れるたときによく聞くのが(言い方はさまざまだが、基本的な内容は同じだ)、「時計収集の楽しみを台無しにしやがって!」という主張である。最近だと今月(2017年11月)初めに取り上げた“納屋で見つけた”スピードマスターがそれに当てはまるが、そのほかにもいくつもの例がある。PNPNDが記録を打ち立てたのと同じフィリップスのオークションで、ロレックス サブマリーナー Ref.6200(初年度サブ)が57万9000ドル(当時のレートで約6540万円)で落札されたことには、まだほとんどの人が気づいていないようだ。もし、そもそもあなたがこのような取引を馬鹿げていると思っているとしても、これがPNPNDに1700万ドルを支払うのと同じくらい非常識な話だとは私は思えない。

 さて、これらの出来事は時計コレクターたちに悪影響を与えるものなのだろうか? まあ、事実そうなのかもしれない。ロレックスやパテック フィリップのような一流メーカーの時計の価格は新品、ヴィンテージを問わず上昇の一途をたどっている。10年、15年前でも、良質なヴィンテージウォッチは決して安いものではなかった。しかしヴィンテージウォッチの収集に莫大な資金が流れ込むようになったことで、ゲームの流れが変わったのは事実だ。私が時計に興味を持ち始めたころは、時計雑誌は雑誌売り場で鉄道模型や人形収集、切手収集の雑誌と一緒に並べられていた。それのころと比べ、状況が劇的に変化しているのは明らかだ。

Aurel Bacs Phillips Paul Newman Auction
ポール・ニューマン所有のポール・ニューマン デイトナ。その入札競争の渦中にあるオーレル・バックス(Aurel Bacs)氏。

 とりわけ収集価値があるモデルのオークション価格が驚くほど高騰しているのは(一部の記録的な例に限らず、一般的なオークションの価格も含めてだ)資産家でもなければ確かに問題で、10年前には比較的購入しやすいコレクターズアイテムだったものが多くの人にとってもはや手の届かないものになってしまっている(もちろん、10年、20年前にそういったモデルを手に入れていて、今売ろうとしているとしたら、それこそ時計収集における最高の喜びのひとつと言えるだろう)。それが必ずしもいいことなのか悪いことなのかはわからないが、時計収集の本質は根本的に変わってしまった。かつてはやや風変わりかつ難解で、たまに金がかかるが基本的に人目につきにくい趣味であったものが、現在ではメディアを舞台にした大掛かりなサーカスと化している。多くのサーカスがそうであるように、この状況は興行主にとっては好都合なものだが、権力の連鎖の下に行けば行くほどその恩恵は減っていく。そして、以前はより希少なスピードマスターやサブマリーナーを手にすることができた人々が、ゲームからはじき出されたことに苛立ち、腹を立て、その責任を負うべきだと考えた結果として特定の個人や団体を恨むのも無理はない。

 もう一方の質問、その時計にはそれだけの価値があるのか? にはふたつの答えがある。もちろん、ひとつ目は“ノー”だ。PNPNDのために支払われた対価は、いかなる尺度からみても合理的に正当化できるものではない。PNPNDやその他のデイトナの背後にある設計思想、工芸品としての品質、あるいはそのなかに潜む創意工夫のいずれと突き合わせても、もっともらしい、いや、論理的な整合性を欠くものだからだ。しかしながら、ふたつ目の答えは“イエス”だ。というのも、何かにつけられる価値とは定義上、誰かがそのものに対して喜んで支払った対価を指すものであるからだ。この場合により重要視されるのは、時計ものの価値だけでなく、それが何を象徴するものかという点にある。PNPNDとデイトナ全般が時計としての外観やデザイン的な特徴を超越し、背負っているものについてはすでに述べたとおりだ。特にPNPNDの価値はそのもの自体についてというよりも、ストーリーとして何を示唆しているかという点に尽きる。


2013年にクリスティーズで開催されたロレックス デイトナのオークションは、ヴィンテージコレクター界隈におけるゲームのあり方を一変させた……、そうだろう?

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 生活必需品に当てはまらないあらゆる贅沢品について間違いなく言えるのは、それらが持つ社会的認知度やステータス性の高さがそのまま市場価格に1から10まで反映されるということだ。つまり実用性よりも象徴的な価値に対して対価を支払っていることになる。だが、機械式時計の場合は、象徴的な価値がときとして実用性と強く結びつくというおもしろい状況も発生する。たとえば私の時計は、粒子加速器やMRI装置でしか見ることのできない磁場に耐えることができる。つまり私は無意味なほど高いタフネスと卓越した技術力を身につけて歩いているということになるのだ。しかしコレクターズアイテムの場合、事情は世の一般的な嗜好品とは少し異なる。贅沢品にとっては実際のところ、多少なりとも世の中に出回っていることが重要視されるかもしれないが(ステータスアイテムとして時計を身につけていても、誰もそれを知らないのではおもしろくない)、コレクションにおいては世の中に出回っていないものほど素晴らしいとされる。

 アート作品の収集では、問題は比較的単純だ。そもそも、どんなものでも1点しかないのだから(複製可能なフォトプリントやリトグラフ、いくつかにわたる彫像の複製など、複数個が作られる場合は別だ。その場合、価値を保ちたければ何点作るのかという公約を守らなければならない)。しかし製品化された商品に関しては、基準価格を大幅に上回る価格で取引されるのは多くの場合1点ものである。

British Guiana One Cent Magenta
スチュアート・ワイツマン(Stuart Weitzman)が所蔵するイギリス領ギアナの1セント・マゼンタ。Image: Wikipedia

 その一例として、英国領ギアナの1セント・マゼンタ切手を紹介しよう。この切手は1856年にイギリス領ギアナ(現在のガイアナ)でごく限られた数しか製造されず、現在に至るまで1枚しか残っていないことが知られている。切手収集の世界では、この切手は長らく伝説となっている。その来歴と価値は周知の事実であり、1922年にオークションで3万6000ドルで落札されたときにはすでに史上もっとも人気のある切手のひとつとなっていて、その後もオークションに何度か出品された。最近では、デュポンの相続人であり有罪判決を受けた殺人犯ジョン・E・デュポン(John E. du Pont)のコレクションであったことで知られており、彼は1980年にこの切手を93万5000ドル(当時のレートで約2億1200万円)で購入している。デュポンは72歳で獄死し、彼の遺産管理団体はこの切手をオークションに出品した。2014年6月17日、サザビーズのニューヨーク・オークションで、この切手は靴デザイナーのスチュアート・ワイツマンによて948万ドル(当時のレートで約10億円)で落札された。

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 そう、これはあなたがこれまで見たこともないよう見栄えの悪い紙切れである。極めて醜悪な傷んだ紫色(私に言わせれば“マゼンタ”なんて大げさだ)は、まるで乾燥したかさぶたのようで、まるで切手の形に爪切りで切りそろえたようにも見える。芸術的でもなければ魅力的でもない。ひと言で言えば、汚らしい。しかし切手収集の世界では、これはポール・ニューマンのポール・ニューマン デイトナに匹敵する代物なのだ(ひいては、時間が経過してボロボロになったいわゆるトロピカルダイヤルを持ち、現在収集可能なあらゆる“正当な”時計に通じる)。切手コレクターでもない人の目には、これは不規則な形をした紙の切れ端のようにしか見えないだろう。しかし切手コレクターからすると、この切手にはすべてが詰まっている。歴史、希少性、特別性、興味深い裏話(少々ぞっとするような話だが、その方がいいのかもしれない)、そして数十年にわたり少しずつ価値を高めてきた軌跡がある。ワイツマンが売却を決断した場合、これらの要素がこの切手を世界中の裕福な切手収集家にとって魅力あるものとするだろうと思う。

 ここで重要なのは、コレクターズアイテムの取引で記録的な結果が出たとしても、その影響はごく限定的なのものであるということだ。美術品オークション市場でバブルが起きると、それはさまざまなアーティストや作品にも波及する。PNPNDはバブルに乗っているかもしれないが、バブルを牽引しているわけではないし、今後も牽引することはないだろう。ひとつの華々しい成果が、それ以降の、しかも関連性のあるロットに何らかの影響を与えることは事実だ。しかし、そのような結果(それは本来、記録を更新したという話題性に起因している)が既存の市場を根底から劇的に揺るがすと結論付けるのは少々軽率なようにも思われる。

ダイバーズウォッチの祖として知られるブランパンのフィフティファゾムスが70周年を迎えました。

いずれも限定本数か生産本数が限られたモデルでしたが、より多くの人たちに手にとってもらうことのできるプロダクトもリリースされました。それが、スウォッチとタッグによって誕生したスキューバ フィフティ ファゾムスです。2年前は天体をテーマにしたムーンスウォッチでしたが、スキューバ フィフティ ファゾムスは、地球にある海をテーマにしたモデル。カラフルなバイオセラミックケースと機械式ムーブメントを備えたモデルで、発表されたあと大きな話題となりました。

 5種類のスキューバ フィフティ ファゾムスウォッチが登場した時、僕は正直言って少しがっかりしていました。ポップで楽しいカラフルなラインナップはもちろん魅力的でしたが、ムーンスウォッチのミッション・トゥ・ザ・ムーンのようにオリジナルモデルのトンマナにあわせたバージョンがひとつはあると思っていたからです。だから2024年が明けてすぐに発表されたオールブラックのスキューバ フィフティ ファゾムス オーシャン オブ ストームはとても気になっていました。僕はしばらくのあいだスウォッチからこれを借りて試してみることにしました。

 先行する5つのモデルが地球の海々をモチーフにしたのに対し、最新作は月の海、特に約2600kmに及ぶ最大の海「オーシャン オブ ストーム」、つまり嵐の大洋に着想を得ています。この海は実際には広大な平地であり、そのユニークなコンセプトが本作を特別なものにしています。

 本作の基本仕様は先代モデルを継承する形で、バイオセラミック製のケースは直径42.3mm、厚さ14.4mm、そして全長48mmです。このケース素材は、セラミックとヒマシ油から作られたバイオ素材で構成され、付属のNATOストラップは再利用された漁網で作られています。これはブランパンの海洋保護への取り組みを反映した、環境に優しい設計です。防水性能は91mで、これは1953年に発表されたオリジナルのフィフティ ファゾムスの仕様に合わせたものです。その当時、ダイバーが使用するタンクで潜れる最大深度、つまり50ファゾム(91m)を指しています。


 内部にはシステム51と名付けられた革新的な機械式ムーブメントを搭載します。実は僕はこのムーブメントには馴染みがあります。というのも僕はシステム51を採用した時計を3本所有しているからです。ブランドのこのムーブメントの選択は、ブランパンが1735年の設立以来、一貫して機械式時計の製造にこだわり続けている伝統に倣う形であるのです。システム51は、2013年に発表された世界で初めて完全自動化された製造プロセスを持つ機械式ムーブメントです。このムーブメントが特別なのは、たった51個のパーツから構成されていることで、これは従来の機械式ムーブメントが100個以上のパーツを必要としていたことと比較すると、そのシンプルさと革新性を示しています。
 スキューバ フィフティ ファゾムス オーシャン オブ ストームは、今回僕が初めて手にとって実際に試すブランパン×スウォッチモデルとなりました。海の見える台場の公園に連れていき、太陽の下でどう見えるのか、つけ心地はどうだったのかなど、本モデルについて、上の動画のなかでより詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
 

このピンクの時計が、スタイルエディターでありYG信者の例外となった経緯を説明する。

変則的な審美的判断というものが存在する。それはワードローブの論理や生来のスタイル感覚といった、先入観に捉われないファッションの選択である。これらの選択は単なる(物質的な)魅力としてしか分類できない。このサルトリアリズムの判断の逸脱は、ジュ・ヌ・セ・クワ(言葉で表現できない魅力という意味のフランス語)、エネルギー、あるいは出会った瞬間に感じるような感覚に集約される。フランス語ではそれを“ひと目ぼれ(un coup de foudre)”と言い、直訳すると“稲妻の一撃”になる。この新しいローズゴールド製のロイヤル オークを初めて手にしたとき、そう感じたかどうかは確信が持てないが、アドレナリンのようなものは少し感じた。時計との“初デート”ではそれがとても感じられる。
 このように、直感的なワードローブという計算外の決定は、定期的に私の身に起こる。これを説明する必要があると感じているのは、まあ、私のような筋金入りのイエローゴールド好きが、トレイから完全なRGウォッチを手に取り、ましてや新しいRGロイヤル オークの記事を書く理由をどうやって説明すればいいのか、ほかにはないからだ。

 ピンクがかったゴールドへの嫌悪感は、この2年間で穏やかな嫌悪感へと和らいだ。RGは私が礼儀正しく我慢して耐えて、飲み込んで、対処できる、小さな柑橘類の果皮のようなものだ。苦いが、とてもひりつくほどではない。私がヴィンテージローズゴールドを好むようになったのは、ピンク・オン・ピンクのRef.1518が、ローズゴールドのなかでも優れた品種だったからだ。ヴィンテージRGは淡くて柔らかい。現代のRGは派手でけばけばしいと感じる。もちろん、RGのロレックス Ref.6062の外観は賞賛するが、RGのパンテールまたはエバーローズのデイデイトは気持ちだけ貰っておきたい。スイスの時計メディアによると、大陸ではRGが主流だという。彼らはイエローを“グラニー・ゴールド(おばあちゃんのゴールド)”と呼ぶ。
 ここニューヨークの小さなバブルで、YGは18歳から35歳の層にとっては無敵のチャンピオンだ。それはおそらく、TikTokでトレンドになっている#aesthetic(豪華で派手であり、ゴールドや宝石を多用したスタイル)と結びついているからだろうが、NYCが常にイエローゴールドのメッカだったからでもある。キャナルストリートや47番街に出かけて、90年代や00年代のラップミュージックのスーパースターたちへ捧げられた写真を見てみるといい。彼らのほとんどが、YGで装飾をしている。ティト・ザ・ジュエラーがビギー・スモールズ(ノトーリアス・B.I.G.)に贈ったチェーン、ネームプレートのネックレスを身につけたティーンエイジャーの少女たち、巨大なドアノッカーのイヤリングや金の塊の指輪を身につけた女性など、すべてニューヨークのジュエリー文化に組み込まれた、重要な参考資料である。
 新しいRGを見せられると、思わず目が点になる。私やファッション好きの仲間には向いていない。1970年代のような華やかさ(エルサ・ペレッティ)も、80年代のような華やかさ(映画『カジノ』でブルガリをまとったシャロン・ストーン)も、90年代のようなクールな自信(ラン・ディーエムシーのドゥーキーチェーンネックレス)もない。私の仲間のあいだではYGへの熱狂が広がっており、近い将来それが変わる兆しも見えない。
 さて、ピンクゴールド(またはRGなどどんな名前でもいい。それ自体が議論になるから)の予期せぬ展開だ! 今週初め、私は彼らの最新作をプレビューするために、APハウスへ少旅行をした。37mmのフロステッドイエローゴールドにスモークダイヤルが付いたものを試着するなど、いつものようにプレスの朝食ルーティンをこなした。部屋の光を追いかけながら、手首につけた同じ時計の写真を何百万枚も撮る。その結果、そこにいた20人が同じ日にInstagramへ投稿するような、“新作のなかでこれがいちばんのお気に入りだ”と言わんばかりのごく普通の写真が出来上がる。


 私はグリーンジュースをすすりながら、毎週のように時計イベントで顔を合わせるジャーナリストたちが詰まった部屋で、緊張しながらも世間話をした。文字盤の色や次の展示会についての話はこれ以上しないで! そして彼女を見つけた。黒いベルベット張りのトレイの上で、34mmのピンク・オン・ピンクロイヤル オークが孤独に光り輝いている。この時計はシンプルで純粋だった。マーケティングによる神秘性も時計的なギミックもない。シンプルな自動巻きのロイヤル オークだ。その色の組み合わせはとてもインパクトがあり、私の目には珊瑚のオアシスのように見えた。そう、私たちは誰もが何百万本ものロイヤル オークを見てきたし、“ああ、またロイヤル オークか。なんて斬新なんだ”というおなじみの文句を知っている。しかしクラシックに勝るものはない。ロレックスのGMTに文句を言う人はいないだろう? シャネルのフラップバッグやグッチのローファーのように、定番なのだ。これらのファッションアクセサリーの柱は、何百万もの色合いや質感、サイズで提供されるが、夢のようなピンク・オン・ピンクウォッチが完璧に実現したとき、再び新鮮に映るのだ。

 このロイヤル オークの魔法は、とてもジューシーなグランド タペストリー模様の文字盤にある。肉厚なコーラルピンクの色合いは、ピンクのフィナンシャル・タイムズ誌、ピンクのスキットルズ、ピンクのディオール リップオイル 001番、そして映画『バットマン リターンズ』のセリーナ・カイルが住むピンクのアパートなど、私が精神的に結びついているピンクの色合いを思い出させてくれた。文字盤はトロピカルな色合いで、かつて流行したミレニアルピンクやソフィア・コッポラのピンクとはかけ離れており、むしろコッポラ監督の映画『マリー・アントワネット』に登場するシルクの靴や公爵夫人のサテンガウンと合わせやすい、より堂々とした色合いである。バブルガムピンクの懐疑主義者でも満足するピンクの色合いだと思う。
 そして、どんな人がこの時計を身につけるのか想像してみた。フランス・リビエラでバカンスを過ごす女性が、地中海の暖かく浅いターコイズブルーの海に浸かりながら、さりげなく手首につけるのだろうか? 彼女は、最もファッショナブルな黄金をまとった友人たちといるときでさえ、パリッとした白いカフタンの袖をそっと引っ張り、誇らしげにほんの少しのピンクの輝きを見せるような女性だ。もしかしたら美しく装飾されたドリス・ヴァン・ノッテンのスーツを着こなす男性の手首にも似合うかもしれない。そんな彼のスタイルセンスは独創的でありながら、常にセンスよく仕上げられていることだ。



 もしかしたら、その小さなサイズによりPGが受け入れられたのかもしれない。それとも野暮ったさを感じさせないロイヤル オークのグラフィックのおかげか? ル・ブラッシュにあるオーデマ ピゲ ミュージアムには、ピンクマザー オブ パールダイヤルとインダイヤルを備えた、ネオヴィンテージのプラチナ&RG製QPが、ガラスケースのなかに展示されている。マシュマロのような美しい色であるが、(レイアウト的に間違いなく)忙しない。プラチナの八角形の枠の中に、何層にも重なったストーン、さまざまな色合いのクリーミーなピンク、そして小さく繊細なダイヤモンドインデックスが、Ref.25686RPのRGのニュアンスを際立たせている。
 その点本モデルの色は一貫している。ピンクダイヤルがピンクの金属を打ち消し、黄色みを帯びている。まるでパントーンカラーの帯を見ているようで、色合いを読み解こうとすると目がかすんでしまうが、それでも各色に名前があるほど(パントーンのサーモンローズ15-1626 TPGと、ピーチベリーニ20-0050 TPM)、十分に対照的だ。まるでピンク・オン・ピンクのだまし合いだが、私はそれに引っかかってしまった。

 だから、私は常に納得することを望んでいる。それがピンクの時計であってもだ。むしろたったひとつの目新しさ(人間ではなく物)だけで、自分の意見などあらゆる固有の意見が変わることを歓迎している。美しいものを楽しむためなら、自分の美的信念が木っ端微塵になることもいとわない。そしてそれはすべて、誰かが非常に巧妙に、正確なローズの色合いを完璧なピンクダイヤルと組み合わせたことによって、強情なYG信者でさえもピンクに手を出す人間に変えてしまった。
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オートマティック。Ref.77450OR.OO.1361OR.01。直径34mm、厚さ8.8mmのローズゴールド製ケースにローズゴールド製ブレスレット。反射防止加工のサファイア風防、サファイア製シースルーバック。グランド タペストリー模様のピンクダイヤル。自動巻きCal.5800搭載、時・分・センターセコンド、日付表示。約50時間パワーリザーブ、50m防水。価格は748万円(税込)

ロレックス GMTマスター II Ref.126710GRNR ブラックのセラミックベゼルを搭載した新作が登場。

ロレックス GMTマスター II Ref.126710GRNR ブラックのセラミックベゼルを搭載した新作が登場。

“コーク”や“ブルーベリー”のロレックスGMTマスター IIが出るというまことしやかな噂が飛び交うなか、私たちは今日、ロレックスでグレーとブラックのベゼルを備えた新しいSS製Ref.126710GRNRというまったく異なるモデルを発見した。この時計はブランドのほかのラインナップと同じサイズとムーブメントを備えており、直径40mmのケースにオイスター、またはジュビリーブレスレットの選択肢を用意している。価格は154万円(税込)だ。

この新作におけるもうひとつの目玉は、グリーンであしらわれたGMTマスター IIの文字と24時間針である。これらが、文字盤上でさりげないアクセントとなっている。これは、2007年のバーゼルで発表されたオリジナルのブラックオンリーのセラミックベゼルモデル、Ref.116710LNを彷彿とさせる。あれから17年も経ったなんて、信じられるだろうか?

我々の考え
率直に言って、私は“コーク”ベゼルの大ファンというわけではないため、今年それが見られないからといって特に悲しくはない。そして今作は、オリジナルのブラックベゼルのGMTマスター II、Ref.116710LNの黒と青、青と赤の色のコントラストが好みに合わず“派手”過ぎると考える人にとって、ちょうどいい控えめな選択肢だと思った。歴史的な結びつきを感じさせるペプシのアイデアも気に入っているが、自分のフォトジャーナリスト時代を振り返ってみると、あんなに人目を引く時計はつけたくないと常々感じていたように思う。“バットマン”だって、かなり目立つ。それに対して、この時計は実にステルス的だ。

新しいベゼルの組み合わせは、地球を揺るがすような衝撃的なものではない。だが、少なくともオリジナルのブラックベゼルよりは実用的で見やすく、そもそもGMTを使ううえでそれなりに重要な部分であるデイ&ナイトの区分がある。なお、ロレックスのサイトを見たときにもうひとつ目立っていたのは、スティール製のGMTマスター II “ペプシ ”が、生産終了の噂があるにもかかわらずまだ掲載されていたことだ。もしペプシがあなたの理想であったなら(私がそうであったように)、その夢は生きている。

基本情報
ブランド: ロレックス(Rolex)
モデル名: GMTマスター II
型番: 126710GRNR

直径: 40mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: 黒
インデックス: ホワイトゴールドのアプライド
夜光: 針とインデックスにクロマライトを採用
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: オイスターまたはジュビリー


ムーブメント情報
キャリバー: 3285
機能: 時・分・秒表示、デイト表示、GMT(時針単独調整機能付き)
パワーリザーブ: 70時間
巻き上げ方式: 自動巻き
クロノメーター認定: COSC

価格 & 発売時期
価格: 154万円(税込)

シチズンは特別限定モデルのトリオを発表した。

陸・海・空を表現した各領域のモデルがひとつずつ用意され、そこには特別なカラーリングと表面処理を施した愛らしいフジツボダイバー、そしてハイテク志向の多機能クォーツウォッチのペアが並ぶ。35年間、スポーティで何でもこなせる時計の数々を生み出してきたシチズンが、プロマスターの本質をどのように捉えているのかは非常に興味深いところである。

1989年にプロフェッショナル仕様の腕時計を扱うブランドとして誕生したプロマスターは、現在では基本的に3つのコンセプト、SKY /スカイ(パイロットウォッチ)、LAND /ランド(フィールドウォッチ)、MARINE /マリン(ダイバーズウォッチ)から構成される包括的なコレクションへと成長している。したがって、この35周年記念の新コレクションにもそれぞれから1本ずつが用意された。3本それぞれの詳細なスペックは、以下のとおりだ。
マリンからは、通称フジツボ、そしてまたの名をチャレンジダイバーともいうメカニカル ダイバー200mの4500本限定モデルを用意した。この新作ではオリジナルモデルの魅力はそのままに、ブルーの文字盤、縁にライトブルーのアクセントが施されたベゼル、そして表面処理にデュラテクトプラチナが用いられたチタン製ケースとブレスレットが採用されている。この表面処理により耐傷性が向上し(シチズンは1000~1200Hvという驚異的な値を提示している)、従来のチタンよりもずっとシルバーがかった輝きを放つ金属に仕上がっている。サイズは直径41mmに厚さ12.3mm、ラグトゥラグは48.5mmとなっており、ムーブメント(シチズン製の自動巻きCal.9051)はそのままだが、プロマスターの35周年を記念する特別ケースバックが付属して価格は14万3000円(税込)となっている。このモデルは6月6日から販売中だ。標準仕様のフジツボダイバーについて詳しく知りたい方は、こちらのHands-Onからご覧いただきたい。

ランドカテゴリに用意された時計はかなりクールだ。特に、僕のようにアナデジの時計が好きな人にはたまらないだろう。シチズンのアクアランド、ブライトリングのプルトンやエアロスペース、永遠の名作であるクロノシュポルトのUDT、超いかついセイコーのアーニーなど、アナデジウォッチには深くクールな何かがある……そして、僕はそのどれもが大好きだ! この特別なアナデジモデルには、シチズンの時計としては初めて、高解像度のMIP(メモリー・イン・ピクセル)ディスプレイを搭載したCal.U822と呼ばれる新型ムーブメントが採用されている。これにより、データをよりフレキシブルに表示できるようになった(アナデジモデルでは非常にシンプルなディスプレイを使用することが多い)。この多機能ムーブメントには以下にまとめたような便利なファンクションが搭載されており、43.9mm径の時計にはケースにマッチするカラーのスティール製ブレスレットとコーデュラナイロンストラップの両方が付属する。このタクティカルな雰囲気の新モデルは15万4000円(税込)で世界限定5900本、発売は今年の秋を予定している。
最後にスカイの35周年記念モデル、スカイホークA-Tベースの1本はステンレススティールのケースとブレスレットにグレーカラーのメッキが施されている。サイズは直径45.7mm、厚さが13.8mmで、文字盤のレイアウトは過去にアナデジのシチズン スカイホークを所有したことのある人ならだいたいわかるだろう。原子時計から送信される電波による時刻修正機能を有するエコ・ドライブムーブメントを搭載したこのモデルは、旅行に便利な数々の機能やデジタルならではの機能を備えており、今年の夏に世界限定5600本で12万1000円(税込)で発売される予定である。


我々の考え
素晴らしいスペックとプライスを兼ね備えた41mm径のダイバーズウォッチと、シチズンからしか発売されないような完成度の高い2種のアナデジモデルが並んでいるのだから、この3本からどれかひとつを選んで論じろというのは難しい話だ。今回僕が言うべきことはかなり少なく、ランドとスカイのモデルはもう少し小さくならなかったのか、ということぐらいだ。41mm径以下であれば、もっと購買層を広げることができただろう。それ以外の点では、プロマスターのアニバーサリーなのだから、シチズンがブランドコンセプトの芯を表現するような時計を目指したことにそれほど驚きはないだろう。

僕個人のアナデジウォッチに対する深くニッチな愛から言わせてもらうと、最大の関心ごとはもっぱらこのムーブメントがほかの時計に搭載されるかどうかということだ。このムーブメントを使えば、あらゆるスポーツウォッチに多彩な機能を搭載することができるのではないかと、クールなアイデアが次から次に湧き出てくる。
そして興味深いことに、これら3つはそれぞれプロマスターが掲げる系統を象徴する特別なモデルではあるものの、シチズンでもっともスポーティな時計ブランドにおける氷山の一角に過ぎない。シチズンはプロマスターのアンバサダーも拡大しており、ベースジャンパーでパラグライダーでもあるジェフ・シャピロ(Jeff Shapiro)がスカイに、写真家で探検家のジョディ・マクドナルド(Jody MacDonald)がマリンに参加している(才能豊かな写真家ウィリアム・ドラム/William Drummとともに)。ランドカテゴリではカナダの伝説的クライマー、ウィル・ガッド(Will Gadd)がプロマスターのアンバサダーとして就任したことも忘れてはならない(そして、その時計を有効活用しているのが上の写真だ)。
僕の手首に巻くことができ次第、詳細をお伝えする予定だ。

シチズン プロマスター MARINE メカニカルダイバー 200m “フジツボ” 35周年記念限定モデル

型番: NB6026-56L

直径: 41mm
厚さ: 12.3mm(設計値)
ケース素材: スーパーチタニウム™(デュラテクトプラチナ)
文字盤色: ブルー
夜光: あり、インデックスと針
防水性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: ケースと同色のスーパーチタニウム™製(デュラテクトプラチナ)

キャリバー: シチズン 9051
機能: 時・分・秒表示、デイト表示
パワーリザーブ: 42時間
巻き上げ方式: 自動巻き
新同数: 2万8800振動/時
石数: 24
精度: -10〜+20 秒/日

価格: 14万3000円(税込)
限定: 世界限定4500本

シチズン プロマスター LAND エコ・ドライブ電波時計 35周年記念限定モデル

型番: JV1008-63E

直径: 43.9mm
厚さ: 14mm(設計値)
ケース素材: ステンレススティール(グレーめっき)
文字盤色: ブラック
夜光: あり、インデックスと針
防水性能: 20気圧
ストラップ/ブレスレット: スティール製ブレスレットとインターチェンジャブルのコーデュラストラップ

キャリバー: シチズン U822 (アナデジクォーツ)
機能: 時刻表示、ワールドタイム、クロノグラフ、アラーム、パーペチュアルカレンダー、LEDバックライト、デジタル表示窓
パワーリザーブ: エコ・ドライブによるフル充電時で約3年
精度: ±15秒/月

価格: 15万4000円(税込)
限定: 世界限定5900本

シチズン プロマスター SKY スカイホーク A-T エコ・ドライブ電波時計 35周年記念限定モデル

型番: JY8146-54E

直径: 45.7mm
厚さ: 13.8mm(設計値)
ケース素材: ステンレススティール(グレーめっき)
文字盤色: ブラック
夜光: あり、インデックスと針
防水性能: 20気圧
ストラップ/ブレスレット: ケースと同色のステンレススティール製

キャリバー: シチズン U680(アナデジクォーツ)
機能: 時刻表示、ワールドタイム、電波による時計修正、パワーリザーブ、パーペチュアルカレンダー、1/100秒クロノグラフ、デジタル表示窓
パワーリザーブ: エコ・ドライブによるフル充電時で約3年半
精度: ±15秒/月

価格: 12万1000円(税込)
限定: 世界限定5600本

モンタから最新作となるノーブル ボイジャーが登場した。

これは既存のコレクションにGMT機能を追加したものだ。GMTを追加しながらも、同社のコレクションでは定番となっているノーブルのエレガントな外観とコンパクトなサイズを維持している。

ノーブル ボイジャーは、単独で調整可能な24時間針を持つ“コーラー”GMTを採用。スケルトナイズされたGMT針の先端にはスーパールミノバを塗布し、それがダイヤル外周の24時間スケールとともにタイムゾーンを示す。またポリッシュ仕上げのインデックスと針にもスーパールミノバを塗布しており、6時位置には日付窓を配している。モンタ ノーブル ボイジャーはサンレイグラデーション仕上げのブルーまたはグリーンダイヤルをラインナップし、サイズは38.5mm径×10.7mm厚(ラグからラグまで47mm)で、150mの防水性能を確保。これは3針のノーブルコレクションよりもわずか1mm厚いだけである。ブレスレットにはサテン仕上げのスティールブレスをセットする。

モンタ ノーブル ボイジャーの予約販売価格は2150ドル(日本円で約34万8000円)で、8月の納品を予定している。予約注文せず、後日購入する場合の定価は2395ドル(日本円で約38万7000円)だ。

我々の考え
モンタはノーブル ボイジャーのコーラーGMTにセリタ製SW330-2を選んだ。最近のHODINKEE Radioでも話したように、過去数年でGMTの需要は急増しており、ノーブル ボイジャーもこの賑やかな市場に参入を果たした。より多くのブランドが手ごろな価格、あるいは手に入れやすいフライヤーGMTを提供するなかで、モンタの新しいGMTは少し厳しい競争に直面するかもしれない。しかし時計の見た目がよく、完成度の高い時計であることに変わりはない。

モンタのフィット感と仕上げの品質にはいつも感心していて、特にこのブランドの価格帯でそれが実現しているのは本当にすごいと思う。新しいノーブル ボイジャーにも同じことを期待している。既存のモデルラインナップにぴったり合うし、モンタによるとさらにフィット感が高まったと言っているからだ。GMT針はスケルトン加工をしているため控えめで、これはダイヤルに焦点を当てるためだと考えられる。24時間目盛りの数字がダイヤルの中央寄りに配置されている点にはまだ完全に納得していないが、今週末開催されるワインドアップシカゴ(Windup Chicago)で実物を手に取るのが楽しみだ。


基本情報
ブランド: モンタ(Monta)
モデル名: ノーブル ボイジャー GMT(Noble Voyager GMT)
型番: 71DB00SP(ブルー)、71GN00SP(グリーン)

直径: 38.5mm
厚さ: 10.7mm
ラグからラグまで: 47mm
ケース素材: 316Lステンレススティール
文字盤: ブルーまたはグリーンのサンレイ
インデックス: アプライド
夜光: あり、スーパールミノバ(BGW9)
防水性能: 150m
ストラップ/ブレスレット: ステンレススティールブレスレット、クイックアジャスト機能付きデプロワイヤントクラスプ


ムーブメント情報
キャリバー: モンタキャリバーM-23(セリタSW-330-2ベース)
機能: 時・分表示、センターセコンド、日付表示、コーラーGMT
直径: 26.2mm
厚さ: 4.1mm
パワーリザーブ: 約56時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 25

価格 & 発売時期
価格: 予約注文時は2150ドル(日本円で約34万8000円)、定価は2395ドル(日本円で約38万7000円)

シェフのダニエル・ブールー(Daniel Boulud)氏は、ニューヨーク、そして世界中の飲食業界における伝説的存在だ。

彼はニューヨーク、マイアミ、モントリオール、シンガポール、ドバイなど、世界各地で数多くのレストランを経営している。1993年にオープンしたアッパーイーストサイドの『Daniel(ダニエル)』は、現在ミシュランふたつ星を獲得している。

ニューヨークの東65丁目に店舗を構えるレストラン『ダニエル』。
 ブールー氏は世界的に有名な美食の地、フランスのリヨン育ちである。フランスで修業を積んだブールー氏は、やがて料理のキャリアを追求するために渡米。以来ブールー氏と彼のレストランは数え切れないほどの賞を受賞し、その過程で時計を何本も手に入れたそうだ。

『ダニエル』の厨房に立つシェフ、ダニエル・ブールー。
 我々は彼自身の名を冠したレストラン『ダニエル』に赴いてブールー氏のキャリアと何本かの時計について話を伺い、さらに営業中のレストランシーンの撮影もさせてもらった。ご覧のとおりブールー氏の腕時計の多くには、彼のシェフとしてのキャリアをたどる物語が添えられている。リシュモンのボス、ヨハン・ルペール(Johann Rupert)氏が『ダニエル』で食事をしているときに手首につけていた時計を目ざとく見つけたり、ニューヨークのティファニー本店を改装してレストランを開いたり、ブールー氏と時計とのつながりは深い。プロフェッショナルな話題もありつつ、特に感動を呼んだのはもっと個人的なストーリーだった。私が何を言っているのかは、映像を見れば分かるだろう。

 ニューヨークの名レストラン『ダニエル』を会場に、シェフであるダニエル・ブールー氏とのTalkingWatchesをお楽しみいただきたい。

ロレックス GMTマスター II “ルートビア”

 レストラン『ダニエル』に入ると、シェフがSSとエバーローズゴールドのロレックス GMTマスター II “ルートビア”を着用して待っていてくれた。視認性に優れ、丈夫で大きすぎない。2018年に発表されたこのモデルは信頼性が高く堅牢なスポーツウォッチであり、私や読者諸君、ダニエル・ブールー氏が現代のロレックスに求めるものすべてを備えている。つまりGMTマスター IIは、厨房でバタバタ動き回るのにうってつけの時計なのだ。画像では傷や汚れも写り込んでいるが、それこそがブールー氏がGMTを頻繁に着用している証左であり、この時計をますます魅力的なものとしている。


ロレックス “ゼニス” デイトナ

 次に紹介するのは、ブールー氏所有のホワイトダイヤルのロレックス “ゼニス”デイトナ Ref.16520だ。1988年に発表された初の自動巻きデイトナで、ロレックスによって大幅な改良が加えられた有名なゼニス製エル・プリメロを搭載している。歴史やスペック以上に、この時計はブールー氏と最も長い時間を共有している時計のひとつであり、彼にとって初めてのロレックスでもある。それも自分で買ったものではなく、親しい友人からの贈り物だった。その経緯は特にパーソナルな話で、動画のなかの彼自身の言葉からその想いを感じ取って欲しい。

ロレックス GMTマスター II “ペプシ”

 「ロレックスをつけるのが好きですね。厨房で一番快適ですから」とブールー氏は語る。ルートビアと“ゼニス”デイトナに加え、彼は2018年にロレックスが初めて(ジュビリーブレスレットで)復活させたSS製のペプシを所有している。その直後にロレックスは、オイスターブレスレット仕様のペプシを追加した。特にこのロレックスコレクションは、ブールー氏が後援者となっている慈善団体を運営するトロントの友人とのつながりで収集したものだという。

 「私にとってそれぞれが思い出深いのです」と、ブールー氏はこれらの時計について語る。

ロレックス GMTマスターII “バットマン”

 ブールー氏は疑いようがなくロレックス党であり、とりわけGMT派である。次に紹介するのは、ロレックスが2013年に初のバイカラーセラミックベゼルで発表したブルー&ブラックベゼルのGMTマスター II “バットマン”だ。ここで見られるジュビリーブレス付きのバットマン(一部では“バットガール”と呼ばれている)は、2019年に派生モデルとして追加された。ブルーとブラックの組み合わせはGMTマスター系では歴史的に前例がなく、その登場はペプシベゼルが製造困難だったことから代替とした結果だという説もあったが、ペプシは数年後に初のWG製GMTマスター IIで実現することになる。いずれにせよ、ブールー氏のGMTマスターコレクションを総括するようなモデルである。

ロレックス スカイドゥエラー

 最後にSS製のロレックス スカイドゥエラーを紹介しよう。GMTマスターがトラベラーズウォッチの元祖だとすればスカイドゥエラーはその改良型で、24時間表示の年次カレンダーを搭載している。ダイヤルカラーはホワイトで、シェフの白衣によく映える。

パネライ ラジオミール ブラックシール

 パネライの時計はさまざまな要素で知られているが、ブールー氏のセラミック製ラジオミール ブラックシール(Black Seal)ではその実力をいかんなく発揮している。また時計以上に、ブールー氏がパネライに出合うまでの経緯は、入場料を払ってでも聞く価値がある。ある晩、リシュモンのボス、ヨハン・ルペール氏が彼のレストランでディナーをしていたというのが話の導入部だ(パネライはリシュモン傘下である)。
 ブールー氏は自分のレストランで食事をしてくれた彼に挨拶とお礼を言いに行ったとき、時計マニアの性分からルペール氏が手首に何をつけているのかを見抜こうとしたという。パネライのケース形状は特徴的なため、ひと目でそれと分かった。ブールー氏がフィレンツェの同ブランドから初めての時計を手にするまでに、そう時間はかからなかったようだ。

パネライ グラントゥーリズモ フェラーリ クロノグラフ

 ブールー氏のパネライに対する愛情はそれだけにとどまらない。これはフェラーリのためのパネライ グラントゥーリズモ クロノグラフで、スクーデリアのクラシックカラーを示す鮮やかなイエローダイヤルを備えている。12時位置のダイヤルを飾るのはフェラーリの名と疾走する馬の姿だけなので、知らなければパネライだとは分からないだろう。パネライとフェラーリは長年にわたって数々のコラボレーションモデルを発表してきたが、このコレクションは2006年にマラネッロのフェラーリ工場で発表された。
 インタビュー中、ブールー氏はモントリオールで翌週に開催されるF1レース観戦が楽しみだと語っていた。

パネライ ラジオミール 8デイズ GMT オロロッソ

 パネライのファンであるブールー氏は、50歳の誕生日にパネライから時計を贈られた。それもただのパネライではなく、ローズゴールド無垢のラジオミール 8デイズ GMT オロロッソである。これは2012年に発表された500本限定のRef.PAM00395で、ブールー氏のルートビア GMTと同じくローズゴールドにブラウンダイヤルが特徴的だ。

 内部にはCal.P.2002が搭載されている。特に見分けやすいポイントは、ブリッジがくり抜かれてムーブメントの輪列と主ゼンマイが露出している点だ。

 「厨房でつけることは滅多にありません」とブールー氏は付け加えた。

カルティエ サントス100

 フランス人であるブールー氏は、カルティエに特別な親近感を覚えるという。しかしこれまでの彼の嗜好が示すように、彼はドレスウォッチよりもスポーツウォッチ派だ。このカルティエ サントス100はローズゴールドのベゼルとDLCコーティングを施したカーボンケースに、ブラックのナイロン製“トワル・ドゥ・ヴォワール(帆布)”ストラップを組み合わせたモデルだ。彼のコレクションにある他社のモデルと同様、サントスもプレシャスメタルをスタンダードなスポーツウォッチにほどよく落とし込んでいる。
 「アメリカに来て最初に買った時計は、小さなタンクでした」とブールー氏は語る。今つけるにはちょっと小さいし、エレガントすぎると彼は説明していた。しかしこのサントス100はぴったりなようだ。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ

 オーデマ ピゲがロイヤル オーク オフショア クロノグラフを発表したのは1993年(偶然にもブールー氏が自身の名を冠したレストランをオープンしたのと同じ年だ)。男性用モデルの平均が直径36mm程度だった当時、この“ビースト”は大きく大胆なスポーツウォッチの時代を切り開いた。

 「これは夏用の時計ですね」とブールー氏は語る。

ウブロ クラシック・フュージョン クロノグラフ

 ブールー氏によると、ウブロの前CEOであるジャン-クロード・ビバー(Jean-Claude Biver)氏はニューヨークにいるときはいつも彼のレストランを訪れていたという。親交が深まり、ビバー氏はブールー氏に毎年特大のチーズを贈っていたらしい。ブールー氏はビバー氏のチーズが彼の言うとおり絶品であると証言してくれた。
 ブールー氏は以前にもう2、3本ウブロを持っていたものの、自分のレストランで長年貢献してくれた従業員に譲ってしまったという。しかしこのクラシック・フュージョン クロノグラフは残っている。

シンガー・リイマジンのダイブトラックは私が今まで見たなかで最も興味深く、

この時計はあまりにも高価すぎる(9万8000ドル、日本円で約1380万円)ために実用的なダイバーズウォッチとは言えない。それにダイビング用コンピュータほど正確でも便利でもない。さらに49mmのケース径に19.67mmの厚みでは、日常的に着用できると考える人がいるかどうかも疑問だ。それでもなお、この時計はこれらすべての問題点はあるひとつのアプローチによって帳消しになる。それはダイバーズウォッチのプラットフォームが最も必要としている、非常にクリエイティブなアプローチをこの時計が見せているという点だ。

 ダイバーズウォッチのカテゴリはしばらくのあいだ停滞しているように感じられる。私は優れたダイバーズウォッチが大好きで、自分でも所有しすぎていると思うほどだ。しかし形態は機能に従うという定説に従うと、ダイバーズウォッチはひとつの主題(テーマ)しか書けない作曲家のようなものである。その主題をどう発展させるかに悩み、結果として同一の主題の“変奏曲”しか作れていない。なぜならダイバーズウォッチのニーズや規格は現代においてすでに不必要なものであり、そのデザインが確立されるころにはダイブウォッチが実際の計時ツールとしての役目を引き継いでしまっていたからだ。だからこそ今さら完成されたデザインを崩すこともない、ということなのかもしれない。
 私はこれほどクールなダイバーズウォッチがシンガー・リイマジンから登場するとは夢にも思っていなかった。もしポルシェに5分でも乗ったことがある(少しでも興味がある)人に“シンガー”の名前を出せば、そのブランドが作る時計はラップタイマーだろうと予測するに違いない。それもそのはずだ。シンガー・ビークル・デザインは2009年に設立され、今やポルシェのカスタム分野で最も注目されるブランドのひとつとなっている。しかしシンガー・リイマジンは2015年にイタリア人時計デザイナーのマルコ・ボラッチーノ(Marco Borraccino)氏と、シンガー・ビークル・デザインの創設者であるロブ・ディッキンソン(Rob Dickinson)氏との偶然の出会いから生まれた。ボラッチーノ氏は時計のデザインのアイデアを持っており、それをマスターウォッチメーカーのジャン・マルク・ヴィダレッシュ(Jean-Marc Wiederrecht)氏のところに持ち込んだところ、彼は時計の基幹となる完璧なアジェングラフムーブメントが開発中であることを明かした。さあ、クルマに乗り込んでこの時計にまつわる短い旅を始めよう。

シンガー・リイマジンの“シンプルな”クロノグラフウォッチ
 今年のWatches & Wondersの前までは、シンガーと聞いて思い浮かぶのはドライビングクロノグラフだった。私は今年のGeneva Watch Daysでもそれらをチェックしていた。最も興味を引かれたのは、アジェングラフムーブメントを搭載した各時計において、ブランドがクロノグラフと時刻表示によってどのような表現をしていたかということだ。また、すべてのモデルには一体型のフード付きラグケースデザインが採用されている。

シンガー 1969 クロノグラフと1969 タイマー。
 ブランドの1969コレクションにはオメガのマーク IIや後期のスピードマスターを思い起こさせるステンレススティール(SS)やブロンズケース製のモデルがあり、いずれも40mmサイズだ。1969 タイマー(上記写真右)は一般的なクロノグラフ機能を有しており、時針と分針、ゼロリセット/フライバック機能を備え、インダイヤルはない。一方の1969 クロノグラフ Ref.SR201(上記写真左)ははるかに複雑で、文字盤の6時位置にある回転ディスクが時刻を表示する。中央には3本のクロノグラフ針があり、1番長い針が秒を表示、次に長い針が分をカウントし、最も短い針はマーケットで唯一とも言える60時間積算針となっている。


 昨年発表されたのはSS、ブロンズケースのモデルで、上の写真を見ると1969 タイマーのアジェングラフムーブメントの作りがやや簡素になってることが分かるだろう。しかしより特殊な(そして目まぐるしい)ディスプレイを持つモデルについて聞かれれば、トラック1 エンデュランスエディションが思い浮かぶ。この時計はチタンケースにゴールドのZrN(窒化ジルコニウム)コーティングが施されており、サイズは43mmで厚さが15mm。文字盤の外周にはジャンピングアワーとミニッツトラックがあり、中央には24時間のクロノグラフ積算計が搭載されている。この時計は24本限定で作られたもので、8万2500ドル(日本円で約1160万円)という価格にもかかわらず、これほどまでに気に入ってしまっている理由は正直なところ自分でもよく分からない。


 シンガー・リイマジンはその存在理由のすべてが、過剰ともいえる技術を用いて、自らのテーマに基づき過剰に作り込まれた荒唐無稽なバリエーションを展開すること(リフレインはお好きだろうか?)にあるように感じられる。そしてそれらは非常に高額だ。最近発表されたミンのアジェングラフ 20.01 シリーズ3(ゴールドケースで価格は4万3500スイスフラン、日本円で約720万円)と比較しても、シンガーの時計は別次元の価格帯にある。しかしシンガー・ビークル・デザインのクルマを手に入れる顧客はレストアされたポルシェ964に100万ドル以上を支払うような人々だ。彼らにとって大した問題ではないだろう。


シンガー・リイマジン ダイブトラック
 2021年、シンガー・ビークル・デザインはオールテレイン・コンペティション・スタディ(ACS)を発表した。これはオフロードやターマックラリーに対しオマージュを捧げたモデルであり、まさに“やるべきことをやった”いい例だ。シンガー ダイブトラックとの関連性を考えると、このACSが最も近しいように思う。ACSもダイブトラックも技術的にはオフロード向けに作られているが、ダイブトラックはオフロードから遠く離れた場所で使われる時計だ。
 ダイブトラックの主要な機能は、ダイビング経験がある人ならすぐに理解できるだろう。とはいえ私も、実際に手にするまで完全には把握できなかった。なので少し説明しよう。

 ダイビングを安全に行うために最も重要な要素のひとつに時間管理がある。これは単にエアがなくなるのを防ぐだけではなく、ダイビングに関連する健康リスクを避けるためでもある。ダイブトラックの文字盤には時刻表示機能はない。その代わり、文字盤の上では24時間表示のアジェングラフ自動巻きムーブメントとクロノグラフ機能に焦点が当てられている。水中で把握する必要があるのは、潜る深さに応じた“最大潜水時間”と、体内の血液や組織に溜まった窒素を排出するための“減圧停止期間”だ。この時計はダイブコンピュータと併用しての使用が想定されている。
 ケースの右側にはクロノグラフ用のフリップアップ(跳ね上げ式)ロックがある。水に入る直前にクロノグラフを起動し、その後ロックを元に戻すとクロノグラフが作動、クロノグラフ針と60分積算針で合計のダイブ時間を計測することができる。これらすべては、下の写真にあるアジェングラフ自動巻きムーブメントによって動作する。非常に複雑な構造のムーブメントが好きな人からすると、スプリット機能のない“シンプル”なクロノグラフとしてこれ以上に難解で素晴らしいものはなかなか見つからないだろう。




 ケースはグレード5のチタン製で9時位置にはヘリウムリリースバルブがあり、300mの防水性能を備えている。316Lステンレススティール製のベゼルには、大量のスーパールミノバも塗布されている。時刻を確認したい場合は、ケース側面にM.A.D.1に似た仕組みの回転式バレルがある。しかしこの時計における核心的な機能はこれだけではない。時計のサイズは直径49mm、厚さ19.67mmと巨大だが、水中ではそれほど気にならないだろう。そして水中でこそ、この時計は真価を発揮する。

 さて、あなたは海に入り海底に到達した。クロノグラフの60分積算針はルミノバが充填された明るいオレンジ色の大きな針で、潜水時の経過時間を計測している。しかし、海底でどれだけの時間を過ごせるのかも知っておきたい。ここで逆回転防止機能付きのダイブベゼルを回転させ、ピップ(目印)をクロノグラフの積算針に合わせる。その後、海底に滞在できる時間を慎重に見守る。そして上昇する時間になったら減圧停止レベルまで上昇し、再度ダイブベゼルを回してその時間を計測する。この操作のあいだもクロノグラフの針は、常に潜水全体の時間を計測している。

 これらの機能は非常に斬新だが、私がこの時計で最も気に入っているのはチームがダイバーズウォッチを水中以外でどのように役立たせるかを考えた点だ。厳密には、水中から出た瞬間にダイビングが終わるわけではない。ボラッチーノはこの時計がダイビング後のディナーにも着用できるものになればと考えていた。ダイブコンピュータは外してバッグにしまうとしても、次のダイブまでの“水面休息時間”(体内に溜まった窒素を排出する時間)を考慮しなければならない。ダイヤルの中央部には、“Chill”、“Dive”、“Fly”という3つのセクションからなる24時間積算計が見える。この水面休息時間はさまざまな要因に左右されるが、基本的にはクロノグラフを作動させ続けていれば時間が合計され、“Chill”する時間を示し、次のダイブまでの休息時間を知らせてくれる。そして6時間後には再びダイブセクションに入る。


 次のダイブ時にはクロノグラフをリセットしてリスタートする必要がある。しかしダイブ旅行中にこれを1回、2回、3回と繰り返していると仮定しよう。最後に計測しなければならないのは、飛行までの時間だ。最後のダイブから18時間以内に飛行機に乗ってはいけない(さもないと高高度に達したときに減圧症のリスクがある)。クロノグラフを作動させてさえいればディナーを楽しんだり、友人とリラックスしたり、好きなことをしているあいだに飛行機に乗れるようになるまでの残り時間を確認することができる。

 このように、シンガーのダイブトラックは時間管理の観点からはとりわけ実用的な時計ではないし、着用しやすいわけでもない。またプロのダイバーにとっては価格的にもまったく意味がない。しかし、私はそんなことはまったく気にならないのだ。このレベルのクリエイティビティこそ、私がダイバーズウォッチに対して感じていた倦怠感から抜け出すために必要だったものだ。
シンガー・リイマジン ダイブトラック。直径49mm、厚さ19.67mmのグレード5チタン製ケース、300m防水。マットブラックのベースに12個の夜光インデックスを配置。ケースサイドにアワーディスク。中央にジャンピングアワー、ジャンピングミニッツ、スイープセコンドを備えたクロノグラフ。6時位置に4分の1時間、2分の1時間、1時間を示す時刻表示。アジェングラフの24時間計自動巻きクロノグラフを搭載、部品点数479個、56石、パワーリザーブは72時間。フォールディングバックル付きブラックラバーストラップ、ダイビングスーツの上から快適に着用できるマジックテープ付きのダイビング用テクニカルテキスタイルストラップ。価格9万8000ドル(日本円で約1380万円)。

ウルベルク 搭載したUR-150 “スコーピオン”が登場

小規模ブランドであるウルベルクが新しいモデルを発表するのは、とても喜ばしいことだ。というわけで、新作UR-150に万歳三唱をしよう。ウルベルクにしては少しカーブが強調したケースと、大幅に拡張された時刻表示が特徴で、彼らのラインナップのなかでも最も大胆なサテライトディスプレイのひとつだ。

 新たなメカニズムを採用したUR-150 “スコーピオン”では、針先が弧を描きながら分表示を行うが、従来の120°から240°まで拡大され、視覚的により正確な分表示を実現した。一方で時を示すフレームは、60から0へ100分の1秒でジャンプする。このジャンプにはウルベルクがこれまで挑んだなかで最大の距離とパワーが求められたため、UR-150のフライホイールには速度調整器が搭載された。これは通常、ミニッツリピーターのチャイムを鳴らす順序を調整するために使用される機構で、レトログラード針の復帰をスムーズにしつつ、表示のスピードを維持する役割を果たしている。

 新しいスコーピオンにはふたつのバージョンがあり、それぞれ異なる仕上げが施されている。“タイタン”はサンドブラストとショットブラスト仕上げのチタンとスティールに、グリーンのアクセントや時刻表示フレームを組み合わせたデザインが特徴だ。一方“ダーク”はサンドブラストとショットブラスト仕上げのチタンに、アンスラサイトPVD加工されたスティールを組み合わせている。なおどちらの時・分表示にもスーパールミノバを塗布している。ケースサイズは42.49mm×14.79mm、ラグからラグまでは52.31mm、50mの防水性能を備え、また何層にも重なった立体的なウロコのようなラバーストラップはKISKA製である。

 新しいメカニズムを採用したムーブメントには、自動巻きのツインタービン巻き上げシステムが搭載されており、これは裏蓋から鑑賞できる。パワーリザーブは約43時間だ。それぞれのバージョンは50本限定で、タイタンは8万8000スイスフラン(日本円で約1520万円)、ダークはそれより1000スイスフラン(日本円で約17万円)高い価格設定となっている。


我々の考え
私はウルベルクが大好きだ。すでに心引かれる未来的な時計のなかでも、ウルベルクは最も迫力のあるデザインを生み出していると感じる。ウルベルクにしろ、MB&Fにしろ、その他いくつかにしろ、どれも安くはない。しかし彼らは同じものを何度も作り続けているわけではなく、常に新しい挑戦をしている。それだけに彼らが素晴らしい新作を発表する日はとてもワクワクする。ただ、実物を見るまでしばらく待たなければならないのが残念だ。


 まだ詳しくは分からないし、実物も見ていないが、この時計は以前から気に入っていたUR-100よりも快適につけられるモデルのように思える。UR-100は今日まで、誰かが“ウルベルク専用の白紙小切手”を渡してくれるなら自分が選びたいウルベルクだった。ただこの新作はかなり時刻が読み取りやすくなっている。とはいえ、普通の時計のように針を1回転させるわけにはいかないのかとも思う。240°の“スコーピオン”スナップをする必要があるのか? サテライトディスプレイは続けるのか? スコーピオンはこう言うだろう。“仕方ないんだ。これが僕の本性だから”と。


基本情報
ブランド: ウルベルク(Urwerk)
モデル名: UR-150 “スコーピオン” タイタン(UR-150 "Scorpion" Titan)、UR-150 “スコーピオン” ダーク(UR-150 "Scorpion" Dark)

直径: 42.49mm
厚さ: 14.79mm
ラグからラグまで: 52.31mm
ケース素材: サンドブラストとショットブラスト仕上げのチタン(タイタン)、サンドブラストとショットブラスト仕上げのチタンとアンスラサイトPVD加工されたスティール(ダーク)
インデックス: サテライト式時刻表示
夜光: あり、時・分針にスーパールミノバ
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: KISKA製ラバーストラップ


ムーブメント情報
キャリバー: UR-50.01
機能: サテライト式時・分表示(アルミニウム製サテライト時針、真鍮製回転台、アルミニウム製レトログラード針)
パワーリザーブ: 約43時間
巻き上げ方式: 自動巻き(ツインタービンシステム)
振動数: 2万8800振動/時
石数: 38
追加情報: サーキュラーグレイン&サンドブラスト&ショットブラスト&サーキュラーサテン仕上げ、面取りされたスクリュー針

価格 & 発売時期
価格: タイタンは8万8000スイスフラン(日本円で約1520万円)、ダークは8万9000スイスフラン(日本円で約1540万円)
発売時期: 発売中
限定: あり、世界限定各50本