今日において時計で最も酷使され、誤解されている部品のひとつだ。

ヘリウムエスケープバルブは、今日の時計で多用されていながらあまり理解されていない部品のひとつである。あっても損はないが、その機能は極めて特殊であり、(わざわざ腕時計を着用するような)商業ダイバーでなければまったく意味をなさない。今こそこれまでの迷信を断ち切るときだ。ここでは、ヘリウムエスケープバルブについて説明しよう。

ブランドの大小を問わず、ケースに余分な穴を開けてこれらの時計の極限性能を誇示し続け、多くの場合はこの部品をより深い深度やより安全なダイビングに結びつけて誤認を誘っている。その一方で、多くの純真な時計購入者たちはヘリウムエスケープバルブのないダイバーズウォッチはどこか劣っていると思い込み、そのためにほかの何よりもこの機能を求めるのである。

ShearTime経由で撮影した、エスケープバルブ機構を備えるシードゥエラー。

チェーンフュジーやトゥールビヨンなど計時精度の向上を目的とした複雑機構とは異なり、ヘリウムエスケープバルブはごくシンプルな機構だ。基本的には、強力なスプリングにプラグ、そして良質なゴム製ガスケットで構成される一方向の圧力逃し弁である。まったく複雑じゃない。

 

1960年代にアメリカ海軍のダイバー、ボブ・バース(Bob Barth)の提案から、ロレックスがシードゥエラー用に特許を取得してヘリウムエスケープバルブを開発したとき、ダイバーズウォッチは水深計や水圧計と並んで正当な計器として使われていた。ロレックスはSEALABやCOMEX所属のダイバーをはじめとした、急成長していた商業ダイビングの分野で活用されていた。ダイビングベルと海中作業基地が使用され始めたばかりのころのことである。商業ダイビングで使用される乾燥した加圧室内に長時間滞在すると、時計内にヘリウムガスが蓄積され、その結果風防が弾け飛んでしまうという問題がダイバーたちによって発見されたのだ。バルブはこの問題を解決する画期的な手段だった。

ドクサによると、同社のダイバーズウォッチであるコンキスタドール(1969年)は、ロレックスのシードゥエラーが主に商業的なツールであり続けたのに対し、一般消費者向けに販売されたヘリウムエスケープバルブを搭載する最初の時計であった。ドクサ版のこのバルブが、減圧制限のないベゼルを開発した時計に搭載されたのは皮肉なことだ。このベゼルは、ヘリウム混合ガスが満たされた環境に1週間“浸かった”のち、商業用ダイバーズウォッチの風防が弾け飛ぶ原因となっていた減圧をレジャーダイバーが回避できるようにするために作られたものだ。商業用のダイバーズウォッチでは、数時間の潜水作業中に60分計のベゼルを使用することはほとんどない。


ヘリウムエスケープバルブを搭載したドクサ。

大げさな宣伝文句やプレスリリース、腕時計のレビューを読むと、ヘリウムエスケープバルブが搭載されていることでより深く潜れるようになるとか、より本格的なダイビングができるようになるといったことが書かれていることが多い。しかし、ダイビングを商業的に行うごく少数の人でもなければ、エスケープバルブを追加することは、ケースにもうひとつ穴を追加すること以外の何ものでもない。それどころか、私が頑丈なスポーツウォッチに魅力を感じる理由である“必要なものはすべて揃っていて、不要なものは何もない”という美学にそもそも反している。

ヘリウムエスケープバルブは、より深い深度まで潜水できる時計を作るためのものではない。このバルブは乾燥した加圧環境で機能するように設計されており、空気中のガスに対応するだけで、潜水中に時計が水没する水中では機能しないのだ。ブランドはダイバーズウォッチにこれを搭載すべきではないとまでは言わないが、その機能や用途、そもそもなぜ搭載したりしなかったりするのか、その理由を現実的に考えてみよう

このパートナーシップは、時計の世界における文化的な進化を示すものなのだろうか。

先週の木曜日、時計メディア、インフルエンサー、セレブリティグループが、オーデマ ピゲとトラヴィス・スコット(Travis Scott)とともに1日を過ごした。同僚のプレス関係者と私は、店舗占拠、製品発表会、そしてシークレット・ショーに出席した。しかし、私は個人的な倫理的危機の真っ只中にいることに気づいた。私はこのコラボウォッチレビューを実際の製品で行い、文脈についてのコメントを丁重に断るつもりだったのだろうか? それとも、今回のような立ち上げに際して必ず出てくる難問に、HODINKEEが身を乗り出す必要があるのだろうか? なぜトラヴィス・スコットなのか? なぜヒップホップと手を組んだのか? これを誰が気にするのか?

まず私が“アンチ・エスタブリッシュメント”(従来の習慣を支持する人・モノを反対すること)疲れを抱えていることを先に述べなければならない。私はこの限定版ロイヤル オークを、公平性の問題にするのではなく、独自の技術的・美的なメリットに基づいて分析したいと強く願った。しかし時計業界全体、時計メディアの状況、ときには一緒に仕事をしている人たちのあいだにさえ、このような考え方が蔓延している。変化に適応できない、あるいは何か新しいものが現状に対する侮辱ではないと考えることさえできない愛好家や専門家を見つけるのは難しくない。

その偏見はしばしば覆い隠され、時計の種類から販売方法まで、私たちは何が重要で何が重要でないかについての無意味なレトリック(情報を発信する側が効き手側を説得する手法)に移行することを余儀なくされる。もちろんその言説はブランドの経営幹部の気まぐれである。これでは本物の愛好家は高級品業界の攻撃的なヒエラルキーに翻弄され、その結果コミュニティ間で非常に厳しい意見を生み出すことになるのだ。

だから、オーデマ ピゲがヒューストン生まれの32歳のラッパー、トラヴィス・スコットと、彼のレコードレーベルであるカクタスジャックとコラボすると聞いたとき、当然のことながら、私は腰を上げて注目をした。私がトラヴィス・スコットのファンだからというだけでなく、これは紛れもなくひとつの文化的瞬間だったからだ。アメリカ最大の文化輸出品であるヒップホップが、今やスイスの高級時計業界に“公認”、共同署名され、影響を与えていることが目に見えた日である。2005年のジェイ・Z(Jay-Z)とのコラボレーションを考えれば、オーデマ ピゲのラウンド2と呼ぶ人もいるかもしれない。しかし、その考えは短絡的だ。オーデマ ピゲはジェイ・Zのようなアーティストとトラヴィス・スコットのようなアーティストの違いを見分けるのに十分な知識を持ち合わせている。彼らは25歳近く離れ、異なる音楽を作り、異なるオーディエンスの注目を集めている、別のアーティストなのだ。

歴史的なレンズをとおして見ると、ジェイ・Zのときの限定オフショアは、21世紀の時計デザインのなかで最も重要な時計のひとつであった。確かに、当時ジェイ・Zの10周年を記念したオフショアは、ハリウッドやスポーツと交差する無数のオフショアリミテッドエディションとともに人気のあるリリースだった。ただジェイ・Zの時計は、はるかに重要なものを意味するようになった。それは高級時計製造におけるレガシーブランドと、史上最高のラッパーのひとりとの融合だ。当時、彼自身のキャリアはわずか10年だったがすでにヒップホップ界の重鎮として君臨し、私たちの世代で最も重要な文化的人物のひとりとなる道を歩んでいた。

この時計のリリースは、ヒップホップとラグジュアリーの“公式な合併”であり、オーデマ ピゲの現CEOであるフランソワ-アンリ・ベナミアス(François-Henry Bennahmias)氏はこの偉業を誇りに思っている。「ビフォーとアフターがありました」とベナミアス氏は言う。「オーデマ ピゲの世界や時計製造の世界だけでなく、ラグジュアリーの世界にも」。ジェイ・Zとブランドのコラボレーションは、ベナミアス氏によるオーデマ ピゲの全体的な先進的姿勢を象徴するものとなり、ラグジュアリーブランドが最終的にどのような方向に向かうのか、鋭く予言していた。

ジェイ・Z、ファレル(Pharrell)、タイラー・ザ・クリエイター(Tyler the Creator)ら(彼らは皆、何らかの理由で、ヒップホップを楽しむ大衆に“受け入れられる/よろこばれる”人物とみなされてきた)以外のメインストリームヒップホップアーティストにも、腕時計をコレクションしている人たちがいることを思い出して欲しい。おそらく、これらのラッパーはあなたの琴線に触れないかもしれないが、彼らは時計に興味のある、多くの個人の願望や嗜好を、ときにはライフスタイルやデザインの角度から定義している。ところで、それは機械の理解と歴史への愛着を持ってこの趣味に取り組むことに劣らない美徳である。この層は、時計に興味のある傍観者だけで構成されているわけではない。今日の脆弱な市場で時計のエコシステムを維持するために、完全に必要なものなのだ。彼らは歌詞にイメージを使ったり、ゲッティに届く前に写真を掲載したりすることでこの趣味を売り込んでいるほか、Instagramに投稿される、腕時計を探すための高度なキュレーションされたフィードに投稿をしている。彼らは、多くの人が必死にしがみつき、私的な聖域として存在しようとしているサブカルチャーの歯車を回し続けている。“本物”の愛好家は、このカテゴリーの消費者を見下している。特にウォッチスポッティングのコメントを見ていると、“ひよっ子は下がってろ”的な状況になっていることが多い。

大局的な意味で、つまり私たち全体を見据えた意味だと、オーデマ ピゲがここで何をしているのか、コンセプトカーのなかにあるブラックパンサーやスパイダーマンのミニチュア彫刻と同じように正確に把握している。トラヴィス・スコットはスーパースターだ。彼はこの世代のラッパーであり、ヒップホップ界で最も若いビジネスリーダーのひとりであり、カーダシアン&ジェンナー家のふたりの子どもの父親であり (セレブの大空で彼を不滅にしている) 、グラミー賞に10回ノミネートされたアーティストであり、マルチプラチナレコードを達成したメガスターである。彼は真の実力者だ。

スコットはポップカルチャーの世界に慣れていないわけではない。彼は2015年に音楽をリリースし始め、カニエ(Kanye)のプロデューサーであるマイク・ディーン(Mike Dean)のような業界トップのおかげで注目されるようになった。ジャンルの好みやラップ音楽への思いに関係なく、作品的にスコットの音楽は文句のつけようがない。ジャーナリストでありニューヨーク・タイムズ紙のポップミュージック評論家、ジョン・カラマニカ(Jon Caramanica)氏は、「(しかし)トラヴィスのセレブリティは音楽的成功を凌駕するかもしれません」と語る。「インターネットが発達したヒップホップ時代には、ストリーミング楽曲で大成功を収めても、自分をフォローしてくれる人たちの輪の外では極端に知られていないことがあります。トラヴィスはある意味、その逆かもしれません」

スコットはナイキ、マクドナルド、ディオールなどのブランドとコラボレーションしてきた。2020年の米郵政公社危機の際には、トラヴィス・スコットの切手がUSPS(アメリカ合衆国郵便公社)を救うと、ザック・ボーマン(Zach Bowman)の冗談めいたツイートが拡散された。私はくすぐったくなったと同時に、同意したい気持ちもあった。トラヴィス・スコットは企業ブランドの囁き手だ。もし彼がマクドナルドにクォーターパウンダーをもっと売らせ、カクタスジャック×ナイキ・ジョーダンのリセールバリューを元の小売価格の400%アップさせ、オーデマ ピゲのパーペチュアル カレンダーのムーンフェイズ表示に実際のカクタスジャックロゴを入れることができれば...彼の勝利だ。

先週のリリースの際にはふたつの製品が登場した。主力商品は、“チョコレート”ブラウンセラミックでリリースされた限定版ロイヤル オーク パーペチュアル カレンダー オープンワークだ。200本の限定で、価格は20万1000ドル(現在すべて予約・売約済み)。文化的な関連性はさておき、時計自体に興味がなければ、心からそれを認める覚悟はある。しかし、私は本当に気に入っている。スコットがこの色を“カクタスジャック”と名付けたように、チョコレートブラウンは、少なくともファッションにおいては本当に誤解されている色のひとつだ。しかし、イッセイ・ミヤケやグッチ在任中のトム・フォード(Tom Ford)が証明しているように、正しく行われた場合はその勇気に対するバロメーターとなる。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)は、“醜いもののなかにある美しさ”を信条としており、クールで峻厳なブラックに、豊かで暖かみのあるブラウンをよく組み合わせているが、それはある種素っ気のない“ファッションではない”ものだ。ブラウンは基本的に美的なニュアンスを楽しむ人向けの色だ。プラダ夫人がそうしているのなら、私たちもよろこんで従うべきである。

時計自体は明らかに、多くの人が“ラッパーにぴったりのジュエリー”と認識するよう進化したコンセプトだ。このフレーズの順番にはたじろいでしまうが、今日は当たり前のことを叫ぼう。この時計には宝石がひとつもついていない代わりに、私たちが目にするのはオーデマ ピゲとカクタスジャックの真のハイブリッドである。トラヴィス・スコットの手描きスケッチに基づき、特別にデザインされたカレンダーと週表示のタイポグラフィ、曜日のインダイヤルの針がブランドのロゴの形をしているなど、カクタスジャックのグラフィックを参照したデザイン要素が多数盛り込まれている。なかでも最も目につくのは、6時位置にあるムーンフェイズデザインである。通常の地球の衛星表現は、カクタスジャックの象徴である口を縫ったスマイリーフェイスに取って代わられたほか、ブルーとグリーンのコントラストが美しくもかなりイカした夜光を備える。クラブにふさわしい時計だ。

それからストラップがあるが、これは天才的だと思う。この時計をブレスレットにつけていたら、まったく別のものになっていただろうから。ブラックセラミック、フルブレスレットのロイヤル オーク オープンワークも好きだが、このデニムストラップは素朴で意外性があり、セラミックの素材感を引き立てている。ミウッチャ・プラダがブラウンブラウスにブラックショートパンツを合わせたように、意外性があり、脱構築的で洗練されていない感じを与える。そうすることで物事が少しカジュアルになり、ニュアンスが変わるのだ。それはマルタン・マルジェラのデコンストラクションのような、あるいはあえて言えば、カニエの簡素化されたイージー(カニエが手掛けたブランド)の美学をほうふつとさせる。とても現代的だ。チョコレートブラウンのフルセラミックモデルが出てきても、私は決して怒らないだろうし、それは(共同ブランドではなく)今後出てくるかもしれないとも想像している。しかし、ストラップがあることで、従来のオーデマ ピゲ セラミック ロイヤル オークの要素の一部ではなく、カクタスジャックのようになる。

この時計はオフショア(回帰)でも、CODE(強引に押し出す)でもない。そう、これは今業界で話題を集める素材、セラミックでできているが、モデル自体は本質的な“トレンディ”ではない。ブレスレット一体型ではなく、ストラップ付きのロイヤル オークなのだ。また高級時計製造において歴史的に権威のあるモデルだ。Cal.5134の進化版であるCal.5135は、オーデマ ピゲのパーペチュアルカレンダーを大幅にオープンワーク化したものである。最初にリリースされたブラックセラミックは、審美的効果を最大限に高めるための近代的な改良として、意図していたものだった。カクタスジャックリミテッドエディションはカッコいいし、オーデマ ピゲが最も得意とする複雑時計製造の証でもある。「パーペチュアルカレンダーは、私たちのDNAの一部です」と、オーデマ ピゲのコンプリケーション部門長であるアンヌ-ガエル・キネ(Anne-Gaëlle Quinet)氏は言う。「私はこれがアンティークコンプリケーションであるという事実が大好きです。パーペチュアルカレンダーは400年前から存在しています。古いものと新しいもの、ふたつの世界が融合した完璧な組み合わせなのです」。伝統的なコンセプトを正しくリミックスしている。

そしてもちろん付属品もある。“トラヴィス・スコットのウェブサイトのみで販売される服やアクセサリーの限定コレクションの一部収益はスコットが選んだチャリティ・プロジェクトや大義に寄付される”。このチャリティが何なのかが分かれば素晴らしいが、ここでの取り組みをいったん理解しよう。

この商品は新しいオーディエンスを開拓し、すでに歌詞からオーデマ ピゲのことを知っているが、どうやって参加すればいいのかわからないという普段と異なる消費者にもアプローチしようとしている。この時計は明らかに手軽なものではないし、金銭的にも到達は困難だろう。それは言うまでもない。この時点で、私たちはウェイティングリスト/アウトプライスゲームに慣れている。

「そこに“お金がある”かどうかはわかりません。ただ、トラヴィス・スコット、カクタスジャック、オーデマ ピゲと書かれたシャツを着て歩くなんて、10年、20年前に横行していた非公式のような夢物語です」と説明するカラマニカ氏。「どのような種類のコラボレーションであれ、そこには“潜在的消費者”の層が存在します。時計を買って、シャツを買って、コアなものを買う。そうすれば参加したことはないけれど、仲間にこのことを知らせたいという人が出てくるでしょう。小さな独占権を手に入れ、それを身につけ、周囲に自慢する方法として製品を利用するのです」。商品は補助的なものだ。時計を買う余裕がないので、次善の策としてこれを買う。カクタスジャックのブランディングはさておき、これはeBayでロレックスのベースボールキャップやポロシャツを買う人たちと変わりはない。ブランドと文化の一致なのだ。

ショパールからL.U.C ストライク ワンが登場

18Kゴールド製の25本限定記念モデルに夢中になっている。

ここ数年、ショパールはアルパイン イーグルをとおして、製品の構成を効果的に変化させてきた。この独立系ブランドは、古くからある名品を現代の消費者のために再形成したのである。L.U.Cラインにおけるムーブメント製造の観点から見ると、ショパールの異常なまでの仕事ぶりを見逃してしまうほどアルパイン イーグルは短期間で大きく成長した(その一部はアルパイン イーグルにも反映されている。こちらを参照)。アルパイン イーグルのファンである私は、全体的に薄いドレスウォッチのデザインから、オフィサーケースバックや文字盤の質感など、L.U.Cの製品にいつも驚かされる。これらの時計は、最高の時計と肩を並べるにふさわしい。

ショパール L.U.C ストライク ワン
そして今年、ショパールはドバイウォッチウィークにて、L.U.Cコレクションから18Kホワイトゴールド製のL.U.C ストライク ワンを発表した。この25本限定モデルは、ショパールが特許を取得したモノブロックサファイアの上で、毎正時チャイムを鳴らす時計である。40mmのケースには、ショパールのエシカルな18KWG素材を採用。リューズ一体型のプッシャーを備え、厚さはなんと9.86mmという驚異的な数字を実現した。

内部には2万8800振動/時で時を刻むL.U.C 96.32-Lを搭載し、パワーリザーブは約65時間を確保。ストライク ワンはクロノメーター認定を受けているほか、ジュネーブ・シールも取得している。そしてこのムーブメントを覆っているのは、ハニカムモチーフのハンドギヨシェを施した、美しいグレーグリーンダイヤルだ(それ自体もゴールド素材である)。また文字盤の1時位置は、ポリッシュ仕上げのハンマーが見えるようカッティングされている。チャイムを鳴らすのはまさにこのハンマーだ。サファイアクリスタルには、レイルウェイ風のミニッツトラックも刻まれ、そのすぐ下にはモノブロックのサファイアゴングもある。

Cal.L.U.C 96.32-L
分針が12時位置まで達するとチャイムが鳴るため、1日に24回、時を知らせることになる。ムーブメント自体にはツインバレルが搭載され、チャイムモードがアクティブになったときに、約65時間のパワーリザーブが実現する。

ショパール L.U.C ストライク ワンの販売価格は975万7000円(税込)だ。

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我々の考え
私がショパールと、特にこの時計について最も評価しているのは、全体の美しさからメカニズムに至るまで、真に完璧に考え抜かれている点である。2022年に初めて開発されたこのムーブメントの、リューズ一体型のプッシャーおよび着用者がリューズを介してチャイム機能を作動または解除したりできる機能は、間違いなく革新的なのだ。

ショパール L.U.C ストライク ワン
しかし、複雑ゆえにこの時計に興味を持たない人もいるかもしれない(価格を考えればそうなるはずだが)。ただ、落ち着いたトーンのグレーグリーンというギヨシェダイヤルは、まさにこのような時計にふさわしい、控えめな印象を与える。価格といえば、私はてっきり6万6600ドルよりもっと高いものだと思っていた。だからと言って“バリュープロポジション”という言葉を投げかけるつもりはないが、それにしても驚くべき値段だった。

またブランドは、チャイム機構の音響が一流であることを保証するために、かなりの努力をしていることも理解している。今すぐチームと一緒に、ドバイまで赴いてその音を生で聞けたらいいのに。もし現地からこの映像が撮れたら、ぜひシェアしたいと思う。

ショパール L.U.C ストライク ワンに搭載されたCal.L.U.C 96.32-L
今回のリリースで私が言えることは、次の四半世紀でL.U.Cがどのように進化するか楽しみだということだ。

基本情報
ブランド: ショパール(Chopard)
モデル名: L.U.C ストライク ワン(L.U.C Strike One)

直径: 40mm
厚さ: 9.86mm
ケース素材: 18Kエシカルホワイトゴールド
文字盤: グレーグリーン、ハンドギヨシェ
インデックス: アプライド
ストラップ/ブレスレット: アリゲーターストラップ

Cal.L.U.C 96.32-L
ムーブメント情報
キャリバー: L.U.C 96.32-L
機能: 時・分・スモールセコンド、アワーストライク
直径: 33mm
厚さ: 5.6mm
パワーリザーブ: 約65時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 33
クロノメーター: あり

価格 & 発売時期
価格: 975万7000円(税込)
限定: あり、世界限定25本

3年の開発期間を経て、リシャール・ミルは新しいRM 35-03を発表した。

RM 35-03は、特別な巻き上げ機構を備えた超スポーティな自動巻きモデルで、着用者の現在の活動レベルに応じて巻き上げ量を調整できるようになっている。すべての機能は、クルマをテーマにした“スポーツモード”ボタンと連動。必要に応じてローターを停止し、ムーブメントの巻きすぎを防止することができるのだ。

RM 350-03 Nadal
 ボタンやモードについては後ほど説明するが、RM 35-03はカーボンTPT(ケースとケースストラップは黒。多くの画像に写っているだろう)、ブルーとホワイトのクォーツTPT、そしてカーボンTPTにホワイトのクォーツTPTを加えたバージョンの全3種類で展開する。サイズは3モデルとも同じで、直径43.15mm、厚さ13.15mm、ラグからラグまでが49.95mmだ。防水性は50mで、価格は時計よりもはるかに重い。

 ブランドが“ベイビー・ナダル”と呼んでいる同モデル最大の特徴は、ケース側面の7時位置にある、前述したスポーツモードボタンだ。これに搭載された特別な“バタフライローター”システムは、本当は複雑な説明があるが、そのコンセプトは同ボタンを押すことによって巻き上げローターの重力を利用する能力を緩和できるというものである。この半分ずつにわかれたふたつあるローターを、中央のヒンジで固定されるように設計。このスポーツモードを使用するとその2パーツが扇状に広がり、エレメントが180°にわたって均等に分散されるため、ローターが回転する機能がなくなるというのだ。おわかりいただけただろうか。下のアニメーションでメカニズムを確認して欲しい。ほらね? 理解するのはそれほど難しくない(少なくとも機能レベルでは)。

rm 35-03 in action
 ここでのアイデアは、スポーツモードを有効にしてプロテニスのようなスポーティなことをしようとするとき、ムーブメントの追加巻上げを一時停止できるということだ。ダイヤルを見ると自動巻きが有効かどうか、オン/オフの表示があり、このシステムはほかのRMモデルで見られるファンクションセレクターと同じもので、ユーザーが3つのモード(時間設定の“H”、ニュートラルの“N”、ワインディングの“W”)を切り替えられるようになっている。

rm 35-03 nadal
 この機能は時・分・秒を表示するフルスケルトナイズの自動巻きムーブメント、Cal.RMAL2によって支えられている(前述した機能も搭載)。ムーブメントのブリッジと地板はグレード5チタン製で、2万8800振動/時で時を刻み、パワーリザーブは約55時間を提供。このパワーリザーブを支えているのがツインバレルシステムであり、どちらの香箱からでもトルクを計測できるためより正確な計時が可能となっている。

RM 350-03 Nadal
rm 35-03
rm 35-03
 すでに記載したとおり、ラファエル・ナダルとのつながりを持つ複雑なリシャール・ミル RM 35-03は、23万8000ドル(日本円で約3400万円)で販売される。

我々の考え
リシャール・ミルの腕時計は、常にさまざなシェイプとサイズで提供されているが、RM 35-03はブランドの中核をなす製品のように感じる。デザインの力強さ、ワイルドなケース素材、ギミックのようなスポーツモードへのこだわり、これらすべてがリシャール・ミルの伝統なのだ。

 “ベイビー・ナダル”シリーズ第4弾となるRM 35-03は、バタフライローターシステムを搭載し、遊び心あふれる機能を追加した。このようなシステムの必要性を主張することはできるだろうが、僕はこのような時計にはそぐわないかもしれないと思っている。ただ文字どおりの意味でも感情的な意味でも、エンゲージメントのために時計の自動巻きを止める機能というアイデアはちょっと気に入っている。最近の高性能車では、プログラム可能なモード(スポーツモードのような)が主要な機能としてセットされているので、25万ドルするリシャール・ミルを買おうとしている人たちのライフスタイルや経験ともつながりがある。彼らのクルマには、それを体験できるさまざまな要素をコントロールできるボタンがたくさんあるのだ。では時計になるとそれはないのか?

RM 350-03 Nadal
 しかし、リシャール・ミルの時計は文字どおり“モノ”として扱う必要はない。スーパーカーのように、これらの腕時計は実用性や機能性で評価されているわけではない。むしろ、これらは感情、コレクター性、生の魅力としての対象であり、スポーツモードがこれほど適切だと感じる時計はない。もし可能なら、コメントで教えて欲しい。

基本情報
ブランド: リシャール・ミル(Richard Mille)
モデル名: RM 35-03 オートマティック ラファエル・ナダル(RM 35-05 Automatic Rafael Nadal)
型番: RM 35-03

直径: 43.15mm
厚さ: 13.15mm
ラグからラグまで: 49.95mm
ケース素材: カーボンTPTまたはクォーツTPT
防水性能: 50m

RM 350-03 Nadal
ムーブメント情報
キャリバー: RMAL2
機能: 時・分・センターセコンド、スポーツモード、ファンクションセレクター
直径: 31.25mm×29.45mm
厚さ: 5.92mm
パワーリザーブ: 約55時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 38
追加情報: 特許取得済みのバタフライローター

価格 & 発売時期
価格: 23万8000ドル(日本円で約3400万円)

宇宙飛行士であり米国上院議員のジョン・グレン(John Glenn)が所有していた2本の腕時計が出品される。

ブライトリングのコスモノート Ref.809 “スコット・カーペンター”モデルと、ジャガー・ルクルトをカスタムオーダーしたRef.3027 “ラッキー13”ウォッチである。どちらの時計も、2018年3月にグレンの個人資産の遺品整理セールで購入されたものだ。HODINKEEの寄稿者であるジェフ・スタイン(Jeff Stein)氏は同オークションで3本の時計を購入した。この記事では、売却の背景、ジョン・グレンの時計をどのように追跡したか、またその追跡がどのようにしてNASAの7人の初代マーキュリー宇宙飛行士に支給されたか、これまで知られていなかった時計の発見にどのようにつながったのか、販売の裏話を語っている。


フィリップスの“Game Changers”オークション、ロット14である、ブライトリングのコスモノート Ref.809。


同オークションのロット13は、珍しいルクルト ラッキー13 ウォッチ。同じくジョン・グレンの遺品である。

 アメリカ東部時間帯に住む時計コレクターにとって、朝は1日のなかで最もエキサイティングな時間である。私のスマホ画面が5時30分か6時に目を覚ます頃には、ヨーロッパとアジアの“時計仲間”がチャットをしている。ウェブサイトの多くで新しい時計が売りに出されるし、時計の世界ではいくつかのニュース速報が届く。最高の日には、UPSまたはFedExから荷物が日中に配達されるというアップデートもある。チャットは1日中続くが、議題は通常、最初の数時間で形成される。

 2018年3月8日(木)の深夜、私は友人から簡潔なメッセージを受け取った。“これは一体何なんだ?”。彼はInstagramの“Watchknut”というアカウント のスクリーンショットを添付し、ブライトリングのコスモノートのクロノグラフがジョン・グレンの遺品整理(エステート)セールで売却されたことに言及した。彼のInstagramの友人のなかに、この時計を買った人がいるかどうかを尋ねた。Instagramに投稿された画像には4本の腕時計が写っており、黒くて大きなコスモノートはほかの3つを圧倒していた。その投稿のコメントは答えよりも質問のほうが多かった。なぜジョン・グレンの遺品整理セールのことを誰も知らなかったのか? オークションはどこでやっていたのか? オンラインまたは電話入札で時計を購入できるか? そのすべての答えは“まったく知らなかった”。

 私がすぐに感じたのは、珍しいものや古いもの、たぐいまれな宝石がほとんどの場合、2度と見ることができないまま消えていくのを目の当たりにしてトラウマに苦しむ人たち特有の、胸が張り裂けるような痛みだった。私は1962年からジョン・グレン大佐のファンであり、2006年以来、彼の時計に興味を持っている。スコット・カーペンター(Scott Carpenter)が宇宙で着用したこのスペシャルなブライトリング・コスモノートは、数年前から私の“最も欲しいもの”リストのトップにいた。


ジョン・グレンのブライトリング コスモノート Ref.809。

 ジョン・グレンの3本もの腕時計が、私の耳に入ることなく遺品整理セールに提供されるはずがない。通常のディスカッションフォーラムやソーシャルメディアをチェックすると、その遺品整理セールは時計収集コミュニティ全体のレーダーの下にあったようだった。最も厄介なのは、地元のセール業者である“ピッカー”たちが、その時計を持ってグレン・ハウスから出て行く姿を思い浮かべたことだった。

クリスティーズもサザビーズもない。オンラインカタログもない。ただ地元のエステートセール会社が、まるで彼が普通の人であるかのようにジョン・グレンの遺品を売却したのだ

 私の怒りはすぐに調査へと変わった。Googleで検索したところ、 グレーター・ワシントン・エステート・セール・サービス(Greater Washington Estate Sale Services)という会社が、3月8日(木)から3月11日(日)まで、ジョン・グレンの遺品を売却していることを確認した。そこはアトランタにある私のオフィスから、641マイル離れたメリーランド州ポトマックにあるグレン旧邸宅で開催されていた。


メリーランド州ポトマックにある、彼のかつての自宅で所持品のエステートセールが展示された。Photographs courtesy of Greater Washington Estate Services.

 クリスティーズもサザビーズもない。オンラインカタログもなく、検索も閲覧もできなかった。ニューヨーク・タイムズ誌にプレスリリースや全面広告も掲載されていない。ただ地元ワシントンD.C.のエステートセール会社が、ジョン・グレンが以前住んでいた家にあった遺品を、まるで彼が普通の人であるかのように売却したのだ。


グレーター・ワシントン・エステート・サービスのウェブサイトに掲載された、ジョン・グレンコレクションの時計の写真。Photograph courtesy of Greater Washington Estate Services.

 EstateSales.netのページには263枚の小さな写真が掲載されていて、それを見ると何千もの遺品が販売されていることがわかる。グレンが海兵隊にいたときに着ていた革のフライトジャケットと、宇宙服を着た“ボンゴ”という名前の2体のビーニー・ベイビー人形もあった。またクリスタルからコロン、庭の道具、カフスボタンまで、セール品は日用アイテムでいっぱいだった。グレンが宇宙飛行士として、また米国上院議員として受け取った何百もの贈り物も見受けられた。そしてそのなかに、8本の腕時計が載ったトレイがあった。

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ミッキーかウィリーか
 グレンの私物の写真をめくっていると、1960年にタイムスリップした。当時の子どもたちは、スポーツチームやアスリート、ミュージシャンを応援するのと同じように、マーキュリーの宇宙飛行士を応援していた。ミッキー・マントル(Mickey Mantle)かウィリー・メイズ(Willie Mays)、ドジャースかジャイアンツ、フォードかシボレーのそれぞれのペアから、子どもはひとつ(そしてひとりだけ)を応援することができたのだ。そこにジョン、ポール、ジョージ、リンゴも加わり、友人らも自分のお気に入りを宣言していた。


マーキュリーセブンの宇宙飛行士。左から カーペンター、クーパー(Cooper)、グレン、グリソム(Grissom)、シラー(Schirra)、シェパード(Shepard)、スレイトン(Slayton)。

 マーキュリーセブンの宇宙飛行士もそうだ。彼らの名前であるふたつのC(カーペンターとクーパー)、ふたつのG(グレンとグリソム)、そして3つのS(シラーとシェパードとスレイトン)は今でも私の心に刻まれている。海軍、空軍、海兵隊など、自身が所属していた兵科に基づいてお気に入りを選ぶ友人もいた。メディアは彼らの笑顔、ウィットさ、そしてもちろん妻たちの姿を見せてくれた。


ジョン・グレンは第2次世界大戦と朝鮮戦争で、6つの殊勲十字章を受章した。

 ジョン・グレン大佐は、マーキュリーセブンのなかで最も好きな人物だった。彼は7人のなかで唯一の海兵隊員である。第2次世界大戦と朝鮮戦争で飛行し、6回の殊勲飛行十字章を受章している。1957年、彼は平均超音速で初の大陸横断飛行を達成した。1962年2月にアメリカ人として初めて地球周回軌道に乗ったことで、祖国にとって非常に重要な英雄となったため、彼が遭難するのを恐れてジェミニやアポロでの2度目の飛行は許されなかった。

 私はマーキュリーの宇宙飛行士のことを思い出したが、すぐに目の前の仕事に戻った。残っている7本の時計の写真を見ながら、自分が欲しいと思う時計があるかどうか、これらの時計のひとつを購入することができるかどうかを考えた。

 7本の時計を特定するのは簡単なことだった。1940年代か1950年代のハミルトンで、“時刻表示のみ”のミリタリースタイルウォッチが2本。ルクルトの時計が2本で、ひとつは24時間表示の文字盤、もうひとつは各時刻に“13”と記された文字盤。1960年代半ば製のブローバ 2レジスター クロノグラフ。そしてプラスチック製のセイコー パルスメータークロノグラフに、金メッキのエルメス ワールドタイム懐中時計だ(このセールには、ペンダントウォッチやアニメのキャラクターウォッチなど、いくつかの地金製時計も含まれていた)。想像上“何を選ぶか”について、そう時間はかからなかった。