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インド洋の難破船で発見された、“DIVEX”のダイバーズウォッチ

「キャプテンの時計だよ」。私が小さなパンガボートに乗り込んで重いダイビングセットを脱いだとき、フェリシアン・フェルナンド(Felician Fernando)がこう言った。彼は広げた手を差し出し、そこには塩にまみれた腕時計が乗っていた。1時間ほど潜った後の出来事だ。私は熱帯の明るい太陽の下で目を細めながら、それを調べようと身を乗り出した。もちろん、これはフェルナンドの冗談だった。私たちは、1942年にスリランカ東海岸沖5マイルで日本軍の爆撃によって沈没したイギリス軍艦、ハーミーズ(HMS Hermes)へのダイビングを終えたばかりだった。彼の手に握られていた時計は第2次世界大戦時にイギリス海軍で使用されていたオメガではなく、現代のクォーツダイビングウォッチだ。見ての状態にもかかわらずまだ忠実に時を刻んでいた。日付も正確だった。


かつてこの場所に浮かんでいたハーミーズは、世界初の航空機専用空母であった。

 波の下に沈んだ宝物を見つけるのはダイバーの夢であり、こと時計愛好家たちは、それが誤って海に落とした古いロレックスという形で現れるかもしれないという希望を常に持っている。フェルナンドが見つけた時計は特に価値のあるものではなかったが、それでも信じられないような発見であり、私の長年の夢であった世界初の航空機専用空母に潜るという夢にさらなる興奮を与えてくれた。この時計が水深175フィート(約53m)の海中に沈んでも正確に動いていたことが、その頑丈さを証明している。しかし同時に、この時計はどんな種類のもので、いつからそこにあったのか、誰のものなのか、といったいくつかの興味深い疑問も浮かんできた。

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 バティカロア郊外にあるフェルナンドの小さなダイビング拠点、ディープ シー リゾートまでクルマで戻ったあとで、私はその時計をさらにじっくりと観察する機会を得た。分厚い外皮を少し取り除くと、4時位置にあるリューズと、一般的なSKXシリーズのセイコーに見られるような特徴的な針を備えた、極めてセイコー的なダイバーズが現れた。しかしそのロゴには“DIVEX”とあり、商業用潜水帽をかぶったダイバーの小さなイラストが描かれていた。ダイヤルの下部には、“Professional 200m”とある。通気性のあるラバー製ダイビングストラップはケースの12時側のケースに両端がバックルで固定されたまま取り付けられていたが、6時側の取り付け部は明らかに破損していた。ダイバーが手首を自分の道具に引っ掛けたり、探検中の沈船の一部に引っ掛けたりして、バネ棒が故障したのだろう。


ダイバーのフェリシアン・フェルナンドは、水深175フィート(約53m)の海底でDIVEXの腕時計を発見したあと、それをすぐにポケットにしまった。

 DIVEX社は、スコットランドのアバディーンを拠点とする有名な商業用潜水機器メーカーである。そのルーツは1980年代初頭にさかのぼり、北海をはじめとするオフショア石油およびガス産業に従事するダイバーに広く使用される革新的な混合ガスシステムを開発したことに始まる。多くのダイブギアメーカーと同様、DIVEX社もブランドのダイブウォッチを販売しており、沈没船ハーミーズで発見されたのもそのひとつである。どのメーカーがDIVEXのためにこれらの時計を製造しているのかは不明だが、“Professional 200m”の時計は、“Apeks(エイペックス)”、“Aqua Lung(アクアラング)”、“Tauchmeister(トーチマイスター)”といったほかのブランド名で販売されているものと同様である。すべてセイコーのVXクォーツムーブメントを搭載しており、DIVEXにおいては完璧な精度を保っていた。確認できる最新の情報としては、DIVEXはこの時計を83ポンド(約108ドル、当時のレートで約1万2500円)で販売しており、バネ棒はともかく、完璧に機能するダイバーズウォッチがそれほど高くない金額で手に入るという事実を証明している。

 時刻が正しかっただけでなく、日付も正しかった。それが次の謎につながった。この時計はいつから水中にあったのだろう。私がハーミーズで最後に潜ったのは8月28日だった。その前の月は7月で、31日まである月だったが、その前の6月は30日で終わるため、もし時計がその期間に潜水していたとしたら日付は1日ずれていたことになる。つまり、7月のある時期にはそこで行方不明になっていたことになる。実際、私の素人調査は必要なかった。フェリシアン・フェルナンドは、それが誰の時計なのかすでに見当をつけていたのだ。


DIVEXのProfessional 200mは、その1カ月前にスリランカ海軍のダイバーによって紛失されたものだった。

 その約1カ月前の7月25日、英国海軍のダイバーグループがスリランカに滞在し、スリランカ海軍のダイバーたちとともにハーミーズに潜った。それは追悼の意を込めたダイブであり、75年前にこの巨大な船が沈没した際に亡くなった307人の船員に敬意を表して、彼らは沈船に英国海軍の軍旗を貼り付けた。ダイビングの後でスリランカ人ダイバーの下士官のひとりが、フェルナンドに沈船の船尾付近で腕時計をなくしてしまったと話した。私とのダイビングでフェルナンドは、いつものように30ファゾム(約55m)の暗がりを強力な懐中電灯で照らしながら探索した。彼は水深175フィート(約53m)の海底で、ひっくり返ったプロペラの近くに時計を見つけた。彼はそれをポケットにしまって、私たちはこのダイビングを締めくくったのだ。

 バティカロアに戻ったフェルナンドは、旧港町トリンコマリーにあるスリランカ海軍潜水部隊の担当者と連絡を取り、時計を見つけたことを伝えた。私はダイビングを終えてトリンコマリーへ向かうところだったので、そこでフェルナンドの息子に時計を預け、正当な持ち主に引き渡したいと申し出た。彼は塩分を取り除くために淡水に浸すことを提案したが、持ち主が幸運のお守りや記念品としてこのまま持っていたいと思うかもしれないので、そのままにしておこうと伝えた。私ならそうするだろうし…、まあ、私は少しセンチメンタルな人間なのだ。結局、私は妻から40歳の誕生日プレゼントにもらったノンデイトのサブマリーナーをつけてハーミーズに潜った(アドミラルティグレーのNATOストラップでしっかり手首に固定した)。


ロレックス サブマリーナーを着用し、ハーミーズ号にダイビング中の筆者。

 DIVEXに関する最後の謎は、その外観だった。わずか1カ月の水中生活のあいだに、なぜこんなに表面が錆びついてしまったのだろう? 学生時代に化学で挫折しそうになった経験がある私は、海洋考古学者から冶金学に精通した宝石商まで、より知識を持った人々やほかの時計マニアに相談した。意見はさまざまだったが、大多数が電解腐食説を支持した。

 米国ボートオーナー協会のWebサイトに掲載されている海洋腐食に関する記事によると、以下のとおりだ。「ガルバニック腐食とは、2種類以上の異なる金属間の電気化学反応である。反応が起こるためには、ある金属がほかの金属よりも化学的に活性状態でなければならない(あるいは安定していなければならない)ため、金属は異なる種類のものでなければならない」。

 これはDIVEXの時計に付着した塩分の分布と一致しているようで、アルミニウムを挿入したスチール製ベゼルの周囲に集中している。この腐食についての記事によると、ガルバニック腐食はふたつの異なる金属が“接触”し(実際に触れ合うことで 接合され...)、導電性溶液(電気を伝えることができるあらゆる液体)に浸されたときに発生する...、らしい。海水は非常に導電率の高い液体であり、導電率は水温とともに上昇するという。


沈没から75年を経たハーミーズの右舷プロペラ。

 アルミニウムとスティールが非常に温かい(約30度)海水のなかで触れ合うことはガルバニック腐食の条件を見たしており、これは車のバッテリーの端子部分に見られるような腐食に似ている。この塩分の蓄積は、海水に長時間さらされた後で十分にすすいでいないダイバーズウォッチのベゼルを硬化させる傾向がある。このDIVEXウォッチのコンディションはその極端な例であり、スプリングバーの故障だけでなく、ダイビングウォッチを深く潜った後に水洗いをすることの重要性についても教訓を与えてくれるものだ。


この時計のガルバニック腐食は、腐食が時計の広範囲に及ぶ可能性を示している。

 スリランカの古い呼び名はセレンディブで、そこから“幸せな偶然”を意味する“セレンディピティ”という言葉が生まれた。私は長年にわたって、ダイビング中にレビューした時計について多くの記事を書いてきた。しかし、今回のハーミーズの冒険では、自分自身の楽しみのためにダイビングをし、自分の時計を身につけながらバケットリストの項目を達成しようと決めていた。だから、ダイビングによって時計のストーリーを作るのではなく、時計のストーリーのほうから私の前に現れたというのは、セレンディピティというにふさわしい出来事だった。沈没した財宝は、金の宝箱やロレックスである必要はなく、単に長く記憶に残るいい物語である場合もある。今回の出来事は、結局はそういうもののほうがより貴重なのだ、ということの証左でもあった。

 私は常々、腕時計の最大の価値はそれを身につけていたときの冒険の思い出にあると語ってきた。だから、スリランカ東海岸の海軍の前哨基地のどこかに、ちょっと古ぼけたダイブウォッチを見下ろしてハーミーズに潜った日のことを思い出しているダイバーがいたらいいなと思っている。そしてそのことを、私は知っている。

時計の価格と価値、そして900万ドルの切手にまつわる不可思議な話

ポール・ニューマンが所有し、娘のボーイフレンドに贈ったポール・ニューマン デイトナは過剰な評価をされていると言われているが、その非難が本質的に正しいことは否定できない。実際、PNPND(簡潔にするために、ポール・ニューマンのポール・ニューマン デイトナを省略してこう呼ぶことにする)が大げさに持ち上げらてれいる状況自体が、この時計をこの時計あらしめているのだと言える。その過大評価を度外視すると、少し特徴的な外観に当時の製造技術を踏まえた良質な作り、そしてどこにでもあるような信頼性の高いクロノグラフムーブメントを備え、それが計時技術の進化を象徴しているという点で(時計史的に)興味深い、ミッドセンチュリーに大量生産された風変わりな趣向のスポーツウォッチというだけのものになってしまう。つまり過剰な評価という後ろ盾がなければ、この時計はあらゆる点で当時におけるその他多くの(実際何十万とある)時計とさほど変わらないのだ。もちろん、それらの時計はオークションで1700万ドル(当時の相場で約20億円)はおろか、17万ドルでさえ落札されることはない。

Paul Newman Daytona
 ヴィンテージウォッチ収集の趣味に真剣に取り組んでいる人ならおそらく誰でも知っているように、PNPNDとはまるで嵐のような存在だった。PNPNDはロレックスの特定のモデルを対象とした説明し難い熱狂の先駆けであり、その元祖ともいえる存在だった。しかし、この時計は米国芸能界の重鎮にゆかりのある時計でもあり(ポール・ニューマンはハリウッドによくいるタイプの美少年ではなかったが、役として求められればそのように演じることもできた)、そしてそれ自体がアメリカ文化を象徴するピースの一部にもなっている。もしあなたが腕時計に始まり、ハリウッドにまつわる名品、ポール・ニューマンの思い出の品まで幅広いジャンルをカバーするコレクターであったなら、 おそらくこの時計にも少なからず興味を持つことだろうと思う。

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 エキゾチックダイヤルデイトナのデザインそのものが、この時計が高値で取引されていることに少しでも関係しているか否かという質問の答えは、誰に尋ねるかによって変わるだろう。私はそのデザイン自体に、奇抜さ以上のものを見出せないでいる。しかし、私が敬意を抱いている人たち(そのなかには、時計デザインの価値を決定づけるベンチマークとして、またほかの時計コレクターの手本として、大いに評価されている人物もいる)は、真顔でこの時計を“史上もっとも美しい時計のひとつ”と評し、またそのように書いてもいる(もしジョージ・ダニエルズのスペース・トラベラーが文字を読むことができたなら、白目をむいて鏡の前に駆け寄り、白雪姫に出てくる女王のように本当に一番美しいのは誰なのかを尋ねることだろう)。

 PNPNDに限らず、このところ時計オークションで記録的な価格が次々と発表されていることが話題になっているが、その議論の中心にはふたつの問いかけがある。ひとつは“本当にその価値はあるのか?”、そしてもうひとつは “時計収集においてあまりよくないことなのでは?”ということである。

Rolex Reference 6200
ロレックス サブマリーナー Ref.6200

 まずは後者の疑問から見てみよう。まったく魅力を感じないと誰もが思っていた時計が眉をひそめるような高額で売れるたときによく聞くのが(言い方はさまざまだが、基本的な内容は同じだ)、「時計収集の楽しみを台無しにしやがって!」という主張である。最近だと今月(2017年11月)初めに取り上げた“納屋で見つけた”スピードマスターがそれに当てはまるが、そのほかにもいくつもの例がある。PNPNDが記録を打ち立てたのと同じフィリップスのオークションで、ロレックス サブマリーナー Ref.6200(初年度サブ)が57万9000ドル(当時のレートで約6540万円)で落札されたことには、まだほとんどの人が気づいていないようだ。もし、そもそもあなたがこのような取引を馬鹿げていると思っているとしても、これがPNPNDに1700万ドルを支払うのと同じくらい非常識な話だとは私は思えない。

 さて、これらの出来事は時計コレクターたちに悪影響を与えるものなのだろうか? まあ、事実そうなのかもしれない。ロレックスやパテック フィリップのような一流メーカーの時計の価格は新品、ヴィンテージを問わず上昇の一途をたどっている。10年、15年前でも、良質なヴィンテージウォッチは決して安いものではなかった。しかしヴィンテージウォッチの収集に莫大な資金が流れ込むようになったことで、ゲームの流れが変わったのは事実だ。私が時計に興味を持ち始めたころは、時計雑誌は雑誌売り場で鉄道模型や人形収集、切手収集の雑誌と一緒に並べられていた。それのころと比べ、状況が劇的に変化しているのは明らかだ。

Aurel Bacs Phillips Paul Newman Auction
ポール・ニューマン所有のポール・ニューマン デイトナ。その入札競争の渦中にあるオーレル・バックス(Aurel Bacs)氏。

 とりわけ収集価値があるモデルのオークション価格が驚くほど高騰しているのは(一部の記録的な例に限らず、一般的なオークションの価格も含めてだ)資産家でもなければ確かに問題で、10年前には比較的購入しやすいコレクターズアイテムだったものが多くの人にとってもはや手の届かないものになってしまっている(もちろん、10年、20年前にそういったモデルを手に入れていて、今売ろうとしているとしたら、それこそ時計収集における最高の喜びのひとつと言えるだろう)。それが必ずしもいいことなのか悪いことなのかはわからないが、時計収集の本質は根本的に変わってしまった。かつてはやや風変わりかつ難解で、たまに金がかかるが基本的に人目につきにくい趣味であったものが、現在ではメディアを舞台にした大掛かりなサーカスと化している。多くのサーカスがそうであるように、この状況は興行主にとっては好都合なものだが、権力の連鎖の下に行けば行くほどその恩恵は減っていく。そして、以前はより希少なスピードマスターやサブマリーナーを手にすることができた人々が、ゲームからはじき出されたことに苛立ち、腹を立て、その責任を負うべきだと考えた結果として特定の個人や団体を恨むのも無理はない。

 もう一方の質問、その時計にはそれだけの価値があるのか? にはふたつの答えがある。もちろん、ひとつ目は“ノー”だ。PNPNDのために支払われた対価は、いかなる尺度からみても合理的に正当化できるものではない。PNPNDやその他のデイトナの背後にある設計思想、工芸品としての品質、あるいはそのなかに潜む創意工夫のいずれと突き合わせても、もっともらしい、いや、論理的な整合性を欠くものだからだ。しかしながら、ふたつ目の答えは“イエス”だ。というのも、何かにつけられる価値とは定義上、誰かがそのものに対して喜んで支払った対価を指すものであるからだ。この場合により重要視されるのは、時計ものの価値だけでなく、それが何を象徴するものかという点にある。PNPNDとデイトナ全般が時計としての外観やデザイン的な特徴を超越し、背負っているものについてはすでに述べたとおりだ。特にPNPNDの価値はそのもの自体についてというよりも、ストーリーとして何を示唆しているかという点に尽きる。


2013年にクリスティーズで開催されたロレックス デイトナのオークションは、ヴィンテージコレクター界隈におけるゲームのあり方を一変させた……、そうだろう?

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 生活必需品に当てはまらないあらゆる贅沢品について間違いなく言えるのは、それらが持つ社会的認知度やステータス性の高さがそのまま市場価格に1から10まで反映されるということだ。つまり実用性よりも象徴的な価値に対して対価を支払っていることになる。だが、機械式時計の場合は、象徴的な価値がときとして実用性と強く結びつくというおもしろい状況も発生する。たとえば私の時計は、粒子加速器やMRI装置でしか見ることのできない磁場に耐えることができる。つまり私は無意味なほど高いタフネスと卓越した技術力を身につけて歩いているということになるのだ。しかしコレクターズアイテムの場合、事情は世の一般的な嗜好品とは少し異なる。贅沢品にとっては実際のところ、多少なりとも世の中に出回っていることが重要視されるかもしれないが(ステータスアイテムとして時計を身につけていても、誰もそれを知らないのではおもしろくない)、コレクションにおいては世の中に出回っていないものほど素晴らしいとされる。

 アート作品の収集では、問題は比較的単純だ。そもそも、どんなものでも1点しかないのだから(複製可能なフォトプリントやリトグラフ、いくつかにわたる彫像の複製など、複数個が作られる場合は別だ。その場合、価値を保ちたければ何点作るのかという公約を守らなければならない)。しかし製品化された商品に関しては、基準価格を大幅に上回る価格で取引されるのは多くの場合1点ものである。

British Guiana One Cent Magenta
スチュアート・ワイツマン(Stuart Weitzman)が所蔵するイギリス領ギアナの1セント・マゼンタ。Image: Wikipedia

 その一例として、英国領ギアナの1セント・マゼンタ切手を紹介しよう。この切手は1856年にイギリス領ギアナ(現在のガイアナ)でごく限られた数しか製造されず、現在に至るまで1枚しか残っていないことが知られている。切手収集の世界では、この切手は長らく伝説となっている。その来歴と価値は周知の事実であり、1922年にオークションで3万6000ドルで落札されたときにはすでに史上もっとも人気のある切手のひとつとなっていて、その後もオークションに何度か出品された。最近では、デュポンの相続人であり有罪判決を受けた殺人犯ジョン・E・デュポン(John E. du Pont)のコレクションであったことで知られており、彼は1980年にこの切手を93万5000ドル(当時のレートで約2億1200万円)で購入している。デュポンは72歳で獄死し、彼の遺産管理団体はこの切手をオークションに出品した。2014年6月17日、サザビーズのニューヨーク・オークションで、この切手は靴デザイナーのスチュアート・ワイツマンによて948万ドル(当時のレートで約10億円)で落札された。

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 そう、これはあなたがこれまで見たこともないよう見栄えの悪い紙切れである。極めて醜悪な傷んだ紫色(私に言わせれば“マゼンタ”なんて大げさだ)は、まるで乾燥したかさぶたのようで、まるで切手の形に爪切りで切りそろえたようにも見える。芸術的でもなければ魅力的でもない。ひと言で言えば、汚らしい。しかし切手収集の世界では、これはポール・ニューマンのポール・ニューマン デイトナに匹敵する代物なのだ(ひいては、時間が経過してボロボロになったいわゆるトロピカルダイヤルを持ち、現在収集可能なあらゆる“正当な”時計に通じる)。切手コレクターでもない人の目には、これは不規則な形をした紙の切れ端のようにしか見えないだろう。しかし切手コレクターからすると、この切手にはすべてが詰まっている。歴史、希少性、特別性、興味深い裏話(少々ぞっとするような話だが、その方がいいのかもしれない)、そして数十年にわたり少しずつ価値を高めてきた軌跡がある。ワイツマンが売却を決断した場合、これらの要素がこの切手を世界中の裕福な切手収集家にとって魅力あるものとするだろうと思う。

 ここで重要なのは、コレクターズアイテムの取引で記録的な結果が出たとしても、その影響はごく限定的なのものであるということだ。美術品オークション市場でバブルが起きると、それはさまざまなアーティストや作品にも波及する。PNPNDはバブルに乗っているかもしれないが、バブルを牽引しているわけではないし、今後も牽引することはないだろう。ひとつの華々しい成果が、それ以降の、しかも関連性のあるロットに何らかの影響を与えることは事実だ。しかし、そのような結果(それは本来、記録を更新したという話題性に起因している)が既存の市場を根底から劇的に揺るがすと結論付けるのは少々軽率なようにも思われる。

このピンクの時計が、スタイルエディターでありYG信者の例外となった経緯を説明する。

変則的な審美的判断というものが存在する。それはワードローブの論理や生来のスタイル感覚といった、先入観に捉われないファッションの選択である。これらの選択は単なる(物質的な)魅力としてしか分類できない。このサルトリアリズムの判断の逸脱は、ジュ・ヌ・セ・クワ(言葉で表現できない魅力という意味のフランス語)、エネルギー、あるいは出会った瞬間に感じるような感覚に集約される。フランス語ではそれを“ひと目ぼれ(un coup de foudre)”と言い、直訳すると“稲妻の一撃”になる。この新しいローズゴールド製のロイヤル オークを初めて手にしたとき、そう感じたかどうかは確信が持てないが、アドレナリンのようなものは少し感じた。時計との“初デート”ではそれがとても感じられる。
 このように、直感的なワードローブという計算外の決定は、定期的に私の身に起こる。これを説明する必要があると感じているのは、まあ、私のような筋金入りのイエローゴールド好きが、トレイから完全なRGウォッチを手に取り、ましてや新しいRGロイヤル オークの記事を書く理由をどうやって説明すればいいのか、ほかにはないからだ。

 ピンクがかったゴールドへの嫌悪感は、この2年間で穏やかな嫌悪感へと和らいだ。RGは私が礼儀正しく我慢して耐えて、飲み込んで、対処できる、小さな柑橘類の果皮のようなものだ。苦いが、とてもひりつくほどではない。私がヴィンテージローズゴールドを好むようになったのは、ピンク・オン・ピンクのRef.1518が、ローズゴールドのなかでも優れた品種だったからだ。ヴィンテージRGは淡くて柔らかい。現代のRGは派手でけばけばしいと感じる。もちろん、RGのロレックス Ref.6062の外観は賞賛するが、RGのパンテールまたはエバーローズのデイデイトは気持ちだけ貰っておきたい。スイスの時計メディアによると、大陸ではRGが主流だという。彼らはイエローを“グラニー・ゴールド(おばあちゃんのゴールド)”と呼ぶ。
 ここニューヨークの小さなバブルで、YGは18歳から35歳の層にとっては無敵のチャンピオンだ。それはおそらく、TikTokでトレンドになっている#aesthetic(豪華で派手であり、ゴールドや宝石を多用したスタイル)と結びついているからだろうが、NYCが常にイエローゴールドのメッカだったからでもある。キャナルストリートや47番街に出かけて、90年代や00年代のラップミュージックのスーパースターたちへ捧げられた写真を見てみるといい。彼らのほとんどが、YGで装飾をしている。ティト・ザ・ジュエラーがビギー・スモールズ(ノトーリアス・B.I.G.)に贈ったチェーン、ネームプレートのネックレスを身につけたティーンエイジャーの少女たち、巨大なドアノッカーのイヤリングや金の塊の指輪を身につけた女性など、すべてニューヨークのジュエリー文化に組み込まれた、重要な参考資料である。
 新しいRGを見せられると、思わず目が点になる。私やファッション好きの仲間には向いていない。1970年代のような華やかさ(エルサ・ペレッティ)も、80年代のような華やかさ(映画『カジノ』でブルガリをまとったシャロン・ストーン)も、90年代のようなクールな自信(ラン・ディーエムシーのドゥーキーチェーンネックレス)もない。私の仲間のあいだではYGへの熱狂が広がっており、近い将来それが変わる兆しも見えない。
 さて、ピンクゴールド(またはRGなどどんな名前でもいい。それ自体が議論になるから)の予期せぬ展開だ! 今週初め、私は彼らの最新作をプレビューするために、APハウスへ少旅行をした。37mmのフロステッドイエローゴールドにスモークダイヤルが付いたものを試着するなど、いつものようにプレスの朝食ルーティンをこなした。部屋の光を追いかけながら、手首につけた同じ時計の写真を何百万枚も撮る。その結果、そこにいた20人が同じ日にInstagramへ投稿するような、“新作のなかでこれがいちばんのお気に入りだ”と言わんばかりのごく普通の写真が出来上がる。


 私はグリーンジュースをすすりながら、毎週のように時計イベントで顔を合わせるジャーナリストたちが詰まった部屋で、緊張しながらも世間話をした。文字盤の色や次の展示会についての話はこれ以上しないで! そして彼女を見つけた。黒いベルベット張りのトレイの上で、34mmのピンク・オン・ピンクロイヤル オークが孤独に光り輝いている。この時計はシンプルで純粋だった。マーケティングによる神秘性も時計的なギミックもない。シンプルな自動巻きのロイヤル オークだ。その色の組み合わせはとてもインパクトがあり、私の目には珊瑚のオアシスのように見えた。そう、私たちは誰もが何百万本ものロイヤル オークを見てきたし、“ああ、またロイヤル オークか。なんて斬新なんだ”というおなじみの文句を知っている。しかしクラシックに勝るものはない。ロレックスのGMTに文句を言う人はいないだろう? シャネルのフラップバッグやグッチのローファーのように、定番なのだ。これらのファッションアクセサリーの柱は、何百万もの色合いや質感、サイズで提供されるが、夢のようなピンク・オン・ピンクウォッチが完璧に実現したとき、再び新鮮に映るのだ。

 このロイヤル オークの魔法は、とてもジューシーなグランド タペストリー模様の文字盤にある。肉厚なコーラルピンクの色合いは、ピンクのフィナンシャル・タイムズ誌、ピンクのスキットルズ、ピンクのディオール リップオイル 001番、そして映画『バットマン リターンズ』のセリーナ・カイルが住むピンクのアパートなど、私が精神的に結びついているピンクの色合いを思い出させてくれた。文字盤はトロピカルな色合いで、かつて流行したミレニアルピンクやソフィア・コッポラのピンクとはかけ離れており、むしろコッポラ監督の映画『マリー・アントワネット』に登場するシルクの靴や公爵夫人のサテンガウンと合わせやすい、より堂々とした色合いである。バブルガムピンクの懐疑主義者でも満足するピンクの色合いだと思う。
 そして、どんな人がこの時計を身につけるのか想像してみた。フランス・リビエラでバカンスを過ごす女性が、地中海の暖かく浅いターコイズブルーの海に浸かりながら、さりげなく手首につけるのだろうか? 彼女は、最もファッショナブルな黄金をまとった友人たちといるときでさえ、パリッとした白いカフタンの袖をそっと引っ張り、誇らしげにほんの少しのピンクの輝きを見せるような女性だ。もしかしたら美しく装飾されたドリス・ヴァン・ノッテンのスーツを着こなす男性の手首にも似合うかもしれない。そんな彼のスタイルセンスは独創的でありながら、常にセンスよく仕上げられていることだ。



 もしかしたら、その小さなサイズによりPGが受け入れられたのかもしれない。それとも野暮ったさを感じさせないロイヤル オークのグラフィックのおかげか? ル・ブラッシュにあるオーデマ ピゲ ミュージアムには、ピンクマザー オブ パールダイヤルとインダイヤルを備えた、ネオヴィンテージのプラチナ&RG製QPが、ガラスケースのなかに展示されている。マシュマロのような美しい色であるが、(レイアウト的に間違いなく)忙しない。プラチナの八角形の枠の中に、何層にも重なったストーン、さまざまな色合いのクリーミーなピンク、そして小さく繊細なダイヤモンドインデックスが、Ref.25686RPのRGのニュアンスを際立たせている。
 その点本モデルの色は一貫している。ピンクダイヤルがピンクの金属を打ち消し、黄色みを帯びている。まるでパントーンカラーの帯を見ているようで、色合いを読み解こうとすると目がかすんでしまうが、それでも各色に名前があるほど(パントーンのサーモンローズ15-1626 TPGと、ピーチベリーニ20-0050 TPM)、十分に対照的だ。まるでピンク・オン・ピンクのだまし合いだが、私はそれに引っかかってしまった。

 だから、私は常に納得することを望んでいる。それがピンクの時計であってもだ。むしろたったひとつの目新しさ(人間ではなく物)だけで、自分の意見などあらゆる固有の意見が変わることを歓迎している。美しいものを楽しむためなら、自分の美的信念が木っ端微塵になることもいとわない。そしてそれはすべて、誰かが非常に巧妙に、正確なローズの色合いを完璧なピンクダイヤルと組み合わせたことによって、強情なYG信者でさえもピンクに手を出す人間に変えてしまった。
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オートマティック。Ref.77450OR.OO.1361OR.01。直径34mm、厚さ8.8mmのローズゴールド製ケースにローズゴールド製ブレスレット。反射防止加工のサファイア風防、サファイア製シースルーバック。グランド タペストリー模様のピンクダイヤル。自動巻きCal.5800搭載、時・分・センターセコンド、日付表示。約50時間パワーリザーブ、50m防水。価格は748万円(税込)

ロレックス GMTマスター II Ref.126710GRNR ブラックのセラミックベゼルを搭載した新作が登場。

ロレックス GMTマスター II Ref.126710GRNR ブラックのセラミックベゼルを搭載した新作が登場。

“コーク”や“ブルーベリー”のロレックスGMTマスター IIが出るというまことしやかな噂が飛び交うなか、私たちは今日、ロレックスでグレーとブラックのベゼルを備えた新しいSS製Ref.126710GRNRというまったく異なるモデルを発見した。この時計はブランドのほかのラインナップと同じサイズとムーブメントを備えており、直径40mmのケースにオイスター、またはジュビリーブレスレットの選択肢を用意している。価格は154万円(税込)だ。

この新作におけるもうひとつの目玉は、グリーンであしらわれたGMTマスター IIの文字と24時間針である。これらが、文字盤上でさりげないアクセントとなっている。これは、2007年のバーゼルで発表されたオリジナルのブラックオンリーのセラミックベゼルモデル、Ref.116710LNを彷彿とさせる。あれから17年も経ったなんて、信じられるだろうか?

我々の考え
率直に言って、私は“コーク”ベゼルの大ファンというわけではないため、今年それが見られないからといって特に悲しくはない。そして今作は、オリジナルのブラックベゼルのGMTマスター II、Ref.116710LNの黒と青、青と赤の色のコントラストが好みに合わず“派手”過ぎると考える人にとって、ちょうどいい控えめな選択肢だと思った。歴史的な結びつきを感じさせるペプシのアイデアも気に入っているが、自分のフォトジャーナリスト時代を振り返ってみると、あんなに人目を引く時計はつけたくないと常々感じていたように思う。“バットマン”だって、かなり目立つ。それに対して、この時計は実にステルス的だ。

新しいベゼルの組み合わせは、地球を揺るがすような衝撃的なものではない。だが、少なくともオリジナルのブラックベゼルよりは実用的で見やすく、そもそもGMTを使ううえでそれなりに重要な部分であるデイ&ナイトの区分がある。なお、ロレックスのサイトを見たときにもうひとつ目立っていたのは、スティール製のGMTマスター II “ペプシ ”が、生産終了の噂があるにもかかわらずまだ掲載されていたことだ。もしペプシがあなたの理想であったなら(私がそうであったように)、その夢は生きている。

基本情報
ブランド: ロレックス(Rolex)
モデル名: GMTマスター II
型番: 126710GRNR

直径: 40mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: 黒
インデックス: ホワイトゴールドのアプライド
夜光: 針とインデックスにクロマライトを採用
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: オイスターまたはジュビリー


ムーブメント情報
キャリバー: 3285
機能: 時・分・秒表示、デイト表示、GMT(時針単独調整機能付き)
パワーリザーブ: 70時間
巻き上げ方式: 自動巻き
クロノメーター認定: COSC

価格 & 発売時期
価格: 154万円(税込)

シェフのダニエル・ブールー(Daniel Boulud)氏は、ニューヨーク、そして世界中の飲食業界における伝説的存在だ。

彼はニューヨーク、マイアミ、モントリオール、シンガポール、ドバイなど、世界各地で数多くのレストランを経営している。1993年にオープンしたアッパーイーストサイドの『Daniel(ダニエル)』は、現在ミシュランふたつ星を獲得している。

ニューヨークの東65丁目に店舗を構えるレストラン『ダニエル』。
 ブールー氏は世界的に有名な美食の地、フランスのリヨン育ちである。フランスで修業を積んだブールー氏は、やがて料理のキャリアを追求するために渡米。以来ブールー氏と彼のレストランは数え切れないほどの賞を受賞し、その過程で時計を何本も手に入れたそうだ。

『ダニエル』の厨房に立つシェフ、ダニエル・ブールー。
 我々は彼自身の名を冠したレストラン『ダニエル』に赴いてブールー氏のキャリアと何本かの時計について話を伺い、さらに営業中のレストランシーンの撮影もさせてもらった。ご覧のとおりブールー氏の腕時計の多くには、彼のシェフとしてのキャリアをたどる物語が添えられている。リシュモンのボス、ヨハン・ルペール(Johann Rupert)氏が『ダニエル』で食事をしているときに手首につけていた時計を目ざとく見つけたり、ニューヨークのティファニー本店を改装してレストランを開いたり、ブールー氏と時計とのつながりは深い。プロフェッショナルな話題もありつつ、特に感動を呼んだのはもっと個人的なストーリーだった。私が何を言っているのかは、映像を見れば分かるだろう。

 ニューヨークの名レストラン『ダニエル』を会場に、シェフであるダニエル・ブールー氏とのTalkingWatchesをお楽しみいただきたい。

ロレックス GMTマスター II “ルートビア”

 レストラン『ダニエル』に入ると、シェフがSSとエバーローズゴールドのロレックス GMTマスター II “ルートビア”を着用して待っていてくれた。視認性に優れ、丈夫で大きすぎない。2018年に発表されたこのモデルは信頼性が高く堅牢なスポーツウォッチであり、私や読者諸君、ダニエル・ブールー氏が現代のロレックスに求めるものすべてを備えている。つまりGMTマスター IIは、厨房でバタバタ動き回るのにうってつけの時計なのだ。画像では傷や汚れも写り込んでいるが、それこそがブールー氏がGMTを頻繁に着用している証左であり、この時計をますます魅力的なものとしている。


ロレックス “ゼニス” デイトナ

 次に紹介するのは、ブールー氏所有のホワイトダイヤルのロレックス “ゼニス”デイトナ Ref.16520だ。1988年に発表された初の自動巻きデイトナで、ロレックスによって大幅な改良が加えられた有名なゼニス製エル・プリメロを搭載している。歴史やスペック以上に、この時計はブールー氏と最も長い時間を共有している時計のひとつであり、彼にとって初めてのロレックスでもある。それも自分で買ったものではなく、親しい友人からの贈り物だった。その経緯は特にパーソナルな話で、動画のなかの彼自身の言葉からその想いを感じ取って欲しい。

ロレックス GMTマスター II “ペプシ”

 「ロレックスをつけるのが好きですね。厨房で一番快適ですから」とブールー氏は語る。ルートビアと“ゼニス”デイトナに加え、彼は2018年にロレックスが初めて(ジュビリーブレスレットで)復活させたSS製のペプシを所有している。その直後にロレックスは、オイスターブレスレット仕様のペプシを追加した。特にこのロレックスコレクションは、ブールー氏が後援者となっている慈善団体を運営するトロントの友人とのつながりで収集したものだという。

 「私にとってそれぞれが思い出深いのです」と、ブールー氏はこれらの時計について語る。

ロレックス GMTマスターII “バットマン”

 ブールー氏は疑いようがなくロレックス党であり、とりわけGMT派である。次に紹介するのは、ロレックスが2013年に初のバイカラーセラミックベゼルで発表したブルー&ブラックベゼルのGMTマスター II “バットマン”だ。ここで見られるジュビリーブレス付きのバットマン(一部では“バットガール”と呼ばれている)は、2019年に派生モデルとして追加された。ブルーとブラックの組み合わせはGMTマスター系では歴史的に前例がなく、その登場はペプシベゼルが製造困難だったことから代替とした結果だという説もあったが、ペプシは数年後に初のWG製GMTマスター IIで実現することになる。いずれにせよ、ブールー氏のGMTマスターコレクションを総括するようなモデルである。

ロレックス スカイドゥエラー

 最後にSS製のロレックス スカイドゥエラーを紹介しよう。GMTマスターがトラベラーズウォッチの元祖だとすればスカイドゥエラーはその改良型で、24時間表示の年次カレンダーを搭載している。ダイヤルカラーはホワイトで、シェフの白衣によく映える。

パネライ ラジオミール ブラックシール

 パネライの時計はさまざまな要素で知られているが、ブールー氏のセラミック製ラジオミール ブラックシール(Black Seal)ではその実力をいかんなく発揮している。また時計以上に、ブールー氏がパネライに出合うまでの経緯は、入場料を払ってでも聞く価値がある。ある晩、リシュモンのボス、ヨハン・ルペール氏が彼のレストランでディナーをしていたというのが話の導入部だ(パネライはリシュモン傘下である)。
 ブールー氏は自分のレストランで食事をしてくれた彼に挨拶とお礼を言いに行ったとき、時計マニアの性分からルペール氏が手首に何をつけているのかを見抜こうとしたという。パネライのケース形状は特徴的なため、ひと目でそれと分かった。ブールー氏がフィレンツェの同ブランドから初めての時計を手にするまでに、そう時間はかからなかったようだ。

パネライ グラントゥーリズモ フェラーリ クロノグラフ

 ブールー氏のパネライに対する愛情はそれだけにとどまらない。これはフェラーリのためのパネライ グラントゥーリズモ クロノグラフで、スクーデリアのクラシックカラーを示す鮮やかなイエローダイヤルを備えている。12時位置のダイヤルを飾るのはフェラーリの名と疾走する馬の姿だけなので、知らなければパネライだとは分からないだろう。パネライとフェラーリは長年にわたって数々のコラボレーションモデルを発表してきたが、このコレクションは2006年にマラネッロのフェラーリ工場で発表された。
 インタビュー中、ブールー氏はモントリオールで翌週に開催されるF1レース観戦が楽しみだと語っていた。

パネライ ラジオミール 8デイズ GMT オロロッソ

 パネライのファンであるブールー氏は、50歳の誕生日にパネライから時計を贈られた。それもただのパネライではなく、ローズゴールド無垢のラジオミール 8デイズ GMT オロロッソである。これは2012年に発表された500本限定のRef.PAM00395で、ブールー氏のルートビア GMTと同じくローズゴールドにブラウンダイヤルが特徴的だ。

 内部にはCal.P.2002が搭載されている。特に見分けやすいポイントは、ブリッジがくり抜かれてムーブメントの輪列と主ゼンマイが露出している点だ。

 「厨房でつけることは滅多にありません」とブールー氏は付け加えた。

カルティエ サントス100

 フランス人であるブールー氏は、カルティエに特別な親近感を覚えるという。しかしこれまでの彼の嗜好が示すように、彼はドレスウォッチよりもスポーツウォッチ派だ。このカルティエ サントス100はローズゴールドのベゼルとDLCコーティングを施したカーボンケースに、ブラックのナイロン製“トワル・ドゥ・ヴォワール(帆布)”ストラップを組み合わせたモデルだ。彼のコレクションにある他社のモデルと同様、サントスもプレシャスメタルをスタンダードなスポーツウォッチにほどよく落とし込んでいる。
 「アメリカに来て最初に買った時計は、小さなタンクでした」とブールー氏は語る。今つけるにはちょっと小さいし、エレガントすぎると彼は説明していた。しかしこのサントス100はぴったりなようだ。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ

 オーデマ ピゲがロイヤル オーク オフショア クロノグラフを発表したのは1993年(偶然にもブールー氏が自身の名を冠したレストランをオープンしたのと同じ年だ)。男性用モデルの平均が直径36mm程度だった当時、この“ビースト”は大きく大胆なスポーツウォッチの時代を切り開いた。

 「これは夏用の時計ですね」とブールー氏は語る。

ウブロ クラシック・フュージョン クロノグラフ

 ブールー氏によると、ウブロの前CEOであるジャン-クロード・ビバー(Jean-Claude Biver)氏はニューヨークにいるときはいつも彼のレストランを訪れていたという。親交が深まり、ビバー氏はブールー氏に毎年特大のチーズを贈っていたらしい。ブールー氏はビバー氏のチーズが彼の言うとおり絶品であると証言してくれた。
 ブールー氏は以前にもう2、3本ウブロを持っていたものの、自分のレストランで長年貢献してくれた従業員に譲ってしまったという。しかしこのクラシック・フュージョン クロノグラフは残っている。

正確にはロレックスのエクスプローラー Ref.1016の愛好家として知られている。

しかし彼の時計への興味はロレックスの質素でコンパクトなスポーツモデルだけにとどまらない。ヴィンテージのホイヤーや、ミッドセンチュリーのヴァルカン クリケット、そしてエクスプローラーのなかでも一風変わったモデルであるエクスプローラーIIまで、パーク氏は特に1970年代の個性的な時計に愛を注いできた。

 「子供のころから時計が大好きだったんです」と47歳(記事掲載時)の俳優であり作家、コメディアンでもあるパーク氏は語る。「自分のことをコレクターとまではいえませんが、気づかないうちに集めていましたね。時計が壊れて使えなくなっても、手放さなかったので」


それらの大半は、多くの人が子供時代に使っていたであろう手ごろなクォーツウォッチだった。転機が訪れたのは2015年か2016年ごろのこと。「『フアン家のアメリカ開拓記(原題: Fresh Off the Boat)』に出演して数シーズン経ったころで、人生で初めて、そう、お金に余裕ができたんです」とパーク氏は言う。「それで自分へのご褒美に、ロレックスを買おうと思ったんです。韓国系移民の家庭で育った僕にとって、ロレックスはアメリカでの成功を象徴する究極のシンボルのようなものでした」


彼はロレックスの販売店に入り、“バットマン”GMTを見つけて購入した。「まだ店舗に行けば買えた時代でした」と彼は言う。このバットマンはコレクターを含む多くの人から称賛され、パーク氏はさらに時計収集に興味を持つようになった。そこから収集への本格的な道が始まった。


ここに紹介するのはパーク氏のコレクションに含まれる時計の一部と、個人的および仕事上で重要な意味を持つ収集性の高いコミック本である。

スウォッチ イェーガーマイスター GB404
これはおそらくパーク氏にとって最初の時計で、1980年代のイェーガーマイスターとのコラボモデルだ。若いころに彼はこのプラスチック製のクォーツモデルを使い古し、やがてどこかでなくしてしまった。

その後パーク氏が時計収集にのめり込むと初心に立ち返り、長いあいだ行方不明になっていたこの最初の時計を買い直すことにしたという。彼はその時計のイメージが鮮明に思い浮かんだと語る。「記憶というのはある物ごとを自分なりに覚えていても、その後それに触れたとき、記憶していたものと微妙に違うと感じることがあります。記憶やイメージが何かの影響で変質していることが多いのでしょう。でもこの時計に関しては、すべてが記憶どおりでした」


スウォッチのイェーガーマイスターモデルを探すためにパーク氏はeBayを利用したが、まったく同一のモデルを見つけるのは容易ではなかった。「eBayにはスウォッチがたくさん出品されていて、80年代のモデルも多いのですが、このモデルはなかなか見つかりませんでした。スウォッチが流行し始めたころの最初のシリーズにラインナップされていたものです。僕が小学生だったころだと思います」

 「今でもときどきつけています。控えめな印象のスウォッチで、子供のころはそれが好きだったのを覚えています。友達の何人かは派手でカラフルなスウォッチを持っていましたが、僕のはどこか大人っぽくて、お父さんがつける時計のように感じていたんです」


ロレックス エクスプローラーII Ref.1655


 『アクアマン(現代:Aquaman)』の次回作を完成させようとしていたパーク氏は、これまでの習慣に従ってプロジェクト終了後のご褒美に腕時計を購入することにした。「よし、ずっと欲しかったものを買おうと思い、エクスプローラーII Ref.1655を手に入れることにしました」

 「エクスプローラーIIが洞窟探検家のために特別に作られたというストーリーが大好きなんです」とパーク氏は言う。「用途が特化しているのが魅力的で、少し滑稽にも感じます。これまで1度も洞窟探検家に会ったことはありませんが、彼らのためだけに時計が作られているのがおもしろいですね。それほど売れなかったのも不思議はありません。確か1971年に発売された個体だと記憶しています。僕のは1974年に購入されたものなので、そのあいだずっと店頭に残っていたのでしょうね」


パーク氏は70年代の時計が大好きで、この年代の時計を多く所有している。このエクスプローラーIIはエリック・ウィンド(Eric Wind)氏から購入した。「彼は信頼できる素晴らしい人です。ヴィンテージ時計を集めるうえで信頼できる相手がいることは本当に重要です」
ヴァルカン ローズゴールド製クリケット Cal.120

「時計としてのクリケットが大好きなんです」とパーク氏は言う。「クリケットの歴史、大統領の時計としての歴史が好きなんです」。しかしローズゴールド(RG)製のモデルに出合ったとき、似たものを見たことがなかったので、本物かどうか少し疑いました。そこでエリック・ウィンド氏にその時計の写真を見せると、いい個体だと保証して不安を和らげてくれたそうだ。

 「アラームの音をとても気に入っています。古きよきの鐘のような音で、その音から時計の歴史を感じることができます」とパーク氏は言う。
ホイヤー シルバーストーン Ref.110.313R

ホイヤーのなかでもシルバーストーンを選んだことから、70年代の時計に対するパーク氏の愛着が伝わってくる。このデザインは彼に1970年代のテレビを思い起こさせるという。シルバーストーンはカレラやオータヴィア、モナコほどの人気はないかもしれないが、その独特な魅力と大振りなサイズがパーク氏がこの時計を身につける理由となった。彼はこの時計をDCヴィンテージ・ウォッチのニック・フェレル(Nick Ferrell)氏から購入した。
 「この時計は僕が生まれた1974年に発売されました」とパーク氏は語る。「この大きなケースや、70年代らしいクラシックなデザインが本当に気に入っています。この時計はプロダクション会社Imminent Collisionを設立したときに手に入れました。ほかの人のためにプロジェクトや機会を作るのは、昔からやりたかったことです。旧友のヒエウ・ホウ(Hieu Ho)とマイケル・ゴラムコ(Michael Golamco)と一緒に会社を立ち上げました」

もうひとつ
イエロー・クロウ1巻 漫画本(1956年)
 パーク氏が初めて手にした高級時計はロレックスのバットマンだった。子供のころにコミックを集めていたことを考えるとふさわしい選択だ。現在パーク氏はマーベル・ユニバースで秘密諜報員ジミー・ウー役を演じている。ジミー・ウーは、マーベルの前身であるコミックアトラスの『イエロー・クロウ(原題:Yellow Claw)』の1巻で初登場したキャラクターだ。

 「僕はアジア系アメリカ人研究のバックグラウンドがあり、このコミックの表紙には心に強く響くものがたくさんありました。特にイエロー・クロウというキャラクターは、本質的にはフー・マンチューは黄禍論(黄色人種が白色人種を凌駕するおそれがあるとする主張)といった人種差別的なカリカチュアです」とパーク氏は言う。「とても興味深かったのは、そのような人種差別的なカリカチュアを悪役にしながらも主人公をアジア系アメリカ人にしたことです。当時としては非常に興味深い試みだったと思います」


このコミックは購入時保護ケースに入れられ、保存状態に対するグレーティングが表示されていたが、パーク氏は届いた後にケースを開けてページをめくったという。「子供に戻ったような気分でした」と彼は振り返る。「時計についても僕は同じように考えています。所有して、身につけて、実際に使いたいんです。価値にはあまり関心がなく、楽しむことが1番大事です」

時計広告に隠された巧妙な販売戦略

腕時計の広告、さらには最近の腕時計写真全般で最も顕著な特徴のひとつが時・分針の位置である。それが手ごろなスウォッチであろうと、最高級のパテック フィリップであろうと関係ない。針は例外なく10時10分、もしくはそれに近い位置にセットされている。そして驚くべきことに、この配置にはあなたがその時計を買いたくなるよう誘導する仕掛けが隠されているかもしれないのだ。


この隠されたメッセージの背後にあるのが“パレイドリア(pareidolia)”という現象である。これはギリシャ語に由来する言葉だ(特筆すべき用語はたいていギリシャ語が起源だ)。パラ(para)は“近しい”や“代わりに”という意味があり、エイドロン(eidolon)は“イメージ”や“形”を指す。この言葉は人間の心(おそらくその他の動物の心も)が、視覚的なイメージのなかに意味のあるパターンを見出そうとする傾向を表している。そうやって認識したパターンには実際に意味がある場合もあれば、特になく思い過ごしである場合もある。具体例を挙げるなら、雲を見つめているうちに顔や家畜の形が見えてくるうようなものだ。また、過去に火星の表面で観測された“運河”も思い浮かぶ。これもパレイドリアの典型例だ。火星にはこの現象を刺激する要素が豊富なようで、以前話題になっていた“火星の顔”もその一例だろう。

バイキング・オービターが1976年に撮影した“火星の顔”(写真中央上)。

2001年にマーズ・リコネッサンス・オービターによって再撮影された同じ地形(2007年公開)。
パレイドリアがなければ絵文字はうまく機能しなかった、あるいは少なくとも今ほど便利には使われなかっただろう。たとえば、?という絵文字について考えてみてほしい。私たちはこれをごく自然に、そして瞬時に“困惑”や“軽度の悲しみ”、“失望”を表現する顔として解釈する。この解釈は本能的すぎて、脳が実際にはどれほど少ない情報でそれを行っているかを意識するのが難しいほどだ。この絵文字には塗りつぶされた円が描かれている。しかし冷静に考えると、この幾何学的な円は人間の頭の実際の形とほとんど共通点がない。もしこの両者がイコールなら、コンパスさえあれば誰でもレオナルド・ダ・ヴィンチになれるはずだ。そこにふたつの点と左右非対称にカーブした1本の線が描かれているだけで、それ以上の情報はない。
 絵文字や少しでも“顔らしい”ものを目にしたときに起こるのは、顔認識に特化した脳の一部が活性化するという現象だ。この領域は“紡錘状回顔領域(fusiform facial area)”と呼ばれ、脳の下部後方(側頭葉の腹側面)に位置する(神経解剖学に興味のある人ならおなじみだろう)。興味深いことにこの紡錘状回顔領域は、実際の顔よりも絵文字のような単純な形状に対して素早い反応を見せるようだ。この現象は進化の過程で、人間がごくわずかな情報から表情を読み取り、感情を判断する能力を発達させた結果だと考えられている。

ロレックス オイスターの広告(1927年)。針が10時17分に設定された例だ。Image, Rolex.org
腕時計広告における針の設定が“10時10分”と関係する理由は一体何なのだろうか? 話はここからさらに深まる。2008年、ニューヨーク・タイムズでアダム・アンドリュー・ニューマン(Adam Andrew Newman)氏が同テーマについて執筆した記事で、この慣習が普及している実態について触れた。当時ユリス・ナルダンのマーケティング責任者であったスザンヌ・ハーニー(Suzanne Hurney)氏は、この記事のなかで「10時10分の針の配置はスマイリーフェイス(顔文字の笑顔)のような印象を与えてくれるので、可能な限りその配置を採用するようにしている」とコメントしている。ここでも再びパレイドリア(視覚的錯覚)が登場するわけだ。また、当時タイメックスの社長だったアダム・グリアン(Adam Gurian)氏はニューヨーク・タイムズに対して「弊社では常に針を10時9分36秒に設定して撮影している。たとえその配置によって、時計の一部の機能や特徴を隠してしまったとしてもだ」と語っている。

しかしながら、認知科学的な根拠が明確に示されたのは2017年のことである。この年、心理学の専門誌『Frontiers In Psychology』が「なぜ時計広告の針は10時10分に設定されているのかという心理学的実験(Why Is 10 Past 10 the Default Setting for Clocks and Watches in Advertisements? A Psychological Experiment)」と題した研究を発表した。この研究では「10時10分に設定された時計は、観察者の感情や購入意欲に対し顕著にポジティブな効果をもたらした。しかし8時20分に設定された時計は、感情や購入意欲に何の影響も与えなかった。また10時10分に設定された時計は、男性よりも女性において、より強い“喜び”の感情を引き出した」との結果が示された。
検証の方法はシンプルである。研究者たちは20種類の時計をそれぞれ10時10分、11時30分、8時20分に設定して撮影し、計60枚の写真を作成した。この写真を最初の実験では男性20人、女性26人、2回目の実験で男性11人、女性12人に見せた。その結果10時10分の配置がほかのふたつの設定よりも最も高い“喜び”の感情を引き起こすことがわかった。また10時10分は唯一、笑顔に見える配置として認識された。

検証の際に使用された時計の画像。ブラッドリー・ラング自己評価マネキンと対応。『Frontiers In Psychology』より。
正確を期すために補足すると、ジェームズ・ステイシーが指摘していた興味深い事実がある。それは時計の針を“10時10分”に設定すると口では言うものの、実際には針が“10時8分”から“10時10分”のあいだに設定されていることが多いという点だ。これは分針の先端がちょうどインデックスの上に来ると分針の先端が見えにくくなるうえ、微妙な非対称性が生じてスマイリーフェイス効果を損なう可能性があるためである。
10時10分の配置は時計を購入する際の抵抗感を減らす効果があるものの、この小規模な実験ではその配置だけで実際に購入を決断させるほどの強い効果は見られなかった。ただし競争の激しいアナログウォッチの販売市場では、どんな小さな優位性も活用する価値があるだろう。研究論文にはこう記されている。「この研究は、10時10分のようなスマイリーフェイスに見える時刻設定を用いることで、観察者の感情的な反応や時計の評価にポジティブな影響を与えられるという事実を初めて実証的に証明した。ただし観察者は、時刻設定がこの効果を引き起こしていることに気付いていない」

時計広告で針を10時10分に設定する習慣が一般的になり始めたのは、1950年代以降のことである。それ以前の広告では、時刻設定はもっと雑然としていたようだ。たとえば1927年のロレックスの広告(メルセデス・グライツのイングランド海峡横断泳を題材にしたもの)では、時計の針が10時17分に設定されている。この時代にも10時10分の設定が使われることはあったが、現在ほど広く普及していたわけではない。また“8時20分”という配置も人気の選択肢だった。これは少し不機嫌そうな顔に見えるものの、時計が贅沢品ではなく必需品だった時代には“時を刻むことは真剣な行為である”という印象を与えるのに役立っていたのかもしれない。さらにこの位置では、針がブランドロゴを隠さないという実用的な利点もあった。

デジタルウォッチについてはどうだろう? 網羅的な調査をしたわけではないが、驚くべきことにタイメックスのデジタルウォッチもアナログと同じく“10時9分36秒”に設定されている。一方、カシオのG-SHOCKはデジタルディスプレイの時刻が一律で“10時58分50秒”に設定されており、日付は常に“6月30日 日曜日”だ。アナログとデジタルが組み合わさったアナデジモデルでも日付は同じく6月30日だが、針の時刻は“10時9分36秒”に設定されている。この点ではタイメックスとの差別化が図られているといえる。

なぜ6月30日なのか? 最初はまったく見当がつかなかった。もちろん、6月30日にはいろいろな出来事が起きている。グレゴリオ暦が採用された1582年以降6月30日は実に440回存在しているし、ツングースカ大爆発のおかげで“国際小惑星デー”にも指定されている。しかしこの記事を公開する前に同僚のマイルズ・クサバが指摘してくれたのは、1957年6月がカシオ計算機株式会社の設立月であり、その年の6月30日は日曜日だったということだ。現在カシオに事実確認中だが(記事執筆当時)、ひとまずこの説で間違いないといえるだろう。Q.E.D.(証明終了)。

歴史的に重要なロレックス ディープシー・スペシャル、ドレダイヤルのパテック フィリップ 永久カレンダー

今回はさらに充実した内容となっている。Bring A Loupeを待っていたという読者も多いだろう。あえてコメントで知らせてもらう必要はない。コメント欄があふれてしまっても困るからだ。
 さて、前回の特集で取り上げた時計の結果について触れておこう。正直なところ、あまり大きな反響はなかった。ガス・グリソムのオメガ スピードマスターは依然として41万5000ドル(日本円で約6200万円)で販売中であり、ニール・アームストロングの個体はRRオークションにて136万6694ドル(日本円で約1億9500万円)に達している。エテルナ スーパーコンチキはeBayにて3900ドル(日本円で約55万7000円)で再出品された。もっとも手の届きやすい選択肢であったタイタス カリプソマチックは、500ドル(日本円で約7万円)未満のオファー価格で売却された。
 それでは、今回も注目モデルを紹介していこう。

ロレックス ディープシー・スペシャル No.35、1966年製

 我らがBring A Loupeでは初めてのことだと思うが独占発表がある(4月11日HODINKEE本国版掲載当時)。ロンドンでロレックス ディープシー・スペシャル No.35が売りに出されるのだ。
 ロレックス ディープシー・スペシャルとは、ロレックスによる初の試作・実験的な深海潜水用時計の名称である。正式な製品名というわけではない。シードゥエラーやディープシーといったモデルの起点は、このディープシー・スペシャル・プロジェクトにある。もちろんこの時計はオイスターケースに大きく依拠しているが、これは潜水艇の外側に装着するために設計された実験機であることをまず強調しておきたい。サイズは非常に大きく、腕時計コレクションの空きを埋めるような存在ではない。むしろロレックスの歴史を物語るひとつの証として捉えるべきものである。「これは博物館にあるべきだ」という、インディ・ジョーンズ的な思いが浮かんでも不思議ではない。だが安心して欲しい。この時計の実物は、スミソニアン博物館やチューリッヒのベイヤー博物館といった施設で実際に展示されている。

 ロレックスは1950年代から1960年代にかけて、複数のバージョンのディープシー・スペシャルを製造した。本プロジェクトが成果を収めたのは1960年1月23日。この日、ディープシー・スペシャルが地球の最深部、マリアナ海溝のチャレンジャー海淵(1万916m)の海底に到達した。このとき、時計はバチスカーフ“トリエステ”号の外部に取り付けられていた。同艇にはスイスの海洋学者であるジャック・ピカールと、アメリカ海軍中尉のドン・ウォルシュが搭乗していた。
 この1960年の記録的な潜航の前には、1953年と1956年にトリエステ号による“試験潜航”が2回行われており、いずれの航海にもディープシー・スペシャルが搭載されていた。ロレックスはそれぞれの潜航後に設計をわずかに変更しており、最終的には3つのバージョンが存在することとなった。1960年の潜航は、その最終形として位置づけられる。

 トリエステ号の成功および実際に使用されたディープシー・スペシャルの偉業を受け、ロレックスはその成果を世に広めたいと考えた。これを記念して、マリアナ海溝到達モデルとまったく同じ仕様で製作された記念モデルのディープシー・スペシャルが少数製造された。総製造数についてロレックスが公式に発表したことはなく、正確な数は不明である。ただし、ロレックスが所有する“No.47”の個体が存在することは確認されている。いずれにせよ、製造数が2桁というのは、ロレックスにとっては極めてまれなケースである。
 この記念モデルは一般的に小売販売されることはなかったとされており、1960年代半ばから後半にかけて、世界中の博物館や有力なロレックス正規販売店に寄贈されたと考えられている。

私の手首の上で。
 今回販売される個体は来歴が確認されており、市場でも真正品として認められている。ドイツ・ヴッパータールのヴッパータール時計博物館が所有していたもので、“No.35”と刻まれている。これまでに2度オークションに出品されており、直近では2021年にフィリップスを通じて出品され、105万8500スイスフラン(当時のレートで約1億2700万円)で落札された。手首につければ圧倒的な存在感を放つが、これはロレックスの歴史を象徴する一本である。もし実際にトリエステ号に装着された3本のディープシー・スペシャルが“アポロ計画で宇宙飛行に使用されたスピードマスター”と同様の存在であるならば、今回のような記念モデルは前回紹介したガス・グリソム所有の金無垢スピードマスターに相当するものと言えるだろう。
 販売はMaunder Watchesのエイドリアン、オスカー、そしてそのチームによって行われ、価格は“応相談”となっている。詳細はMaunderの公式ウェブサイトを確認して欲しい。

パテック フィリップ Ref.3940J “ドレ”ダイヤル、1989年製

もしパテック フィリップにおける“究極の時計(グレイル)”リストを個人的に作成するならば、ステンレススティール製のRef.1518など、その他極めて素晴らしいアイテムを挙げることになると思う。とはいえもっとも現実的な“グレイル”は、おそらくこのドレダイヤルのRef.3940J、特に今回紹介する“No.10”、チューリッヒのべイヤーのために製作された個体だろう。まあ、No.10以外を選んでも十分に満足できるはずだ。
 ミシガン州デトロイトにある比較的小規模な遺産専門のオークションハウスを通じて市場に姿を現したこのRef.3940は、シャンパンカラーのダイヤル、すなわち“ドレ”ダイヤルを備えている。これは当時のパテック フィリップのオリジナル証明書にも記されていた正式な表記であり、イエローゴールドケースのパテック フィリップ製永久カレンダーモデルに通常見られるシルバーまたは“ホワイト”ダイヤルのモデルに比べてはるかに希少性の高い仕様である。Ref.3940に関しては製造年が古ければ古いほど価値が高いとされており、このシャンパンカラーのダイヤルは製造初期の第1および第2世代に集中して存在するため、収集価値もいっそう高まっている。こうしたダイヤルは、初期の製造ロットやベイヤーが販売した初期個体に見られるものだが、はっきり言ってこの“ドレ”カラーこそが、Ref.3940Jのケースにもっともよく調和するトーンであると確信している。私自身はゴールド系のダイヤルをあまり好まないが、このリファレンスに関しては例外である。

 今回紹介するこの個体は、オークションに出品された背景から見て、初代オーナーもしくは長年の所有者による委託であると推察される。ミシガン州ブルームフィールドヒルズ在住の個人コレクションから出てきたもので、出品者は初期のアクアノート Ref.5066も同時に出品しており、審美眼の光る2本を所有していたことがうかがえる。オークションページの記載によれば、本品はオリジナルのボックス(内側の剥がれあるが、これはよく見られる状態)と書類がそろったフルセットである。特筆すべき点として、ケース左側(9時位置側)の側面に刻まれたふたつのホールマークがある。これらは初期製造の個体に固有の特徴であり、ポリッシュされる過程で消失してしまっている場合が多い。このような状態のホールマークが残っている点は非常に重要である。なお、同様にボックスと書類が付属しながらも、ホールマークがポリッシュによって消えていた個体が2022年11月にA Collected Manを通じて10万5000ポンド(当時のレートで約1750万円)で販売された記録がある。

 このパテック フィリップ Ref.3940Jは、DuMouchelle’sによって2025年4月に開催されるDay Oneオークションのロット1番として出品される予定である。開催日時は4月17日(木)午後11時(米東部時間、日本では4月18日午後1時)。エスティメートは2万〜3万ドル(日本円で約285万〜428万円)とされている。出品ページはこちらから確認できる。

IWC ドッペルクロノ Ref.3711 箱・書類付き、1996年製

 これは、HODINKEEでも長年にわたり愛されてきたモデルである。1990年代初頭、IWCはドッペルクロノグラフ Ref.3711を発表した。このモデルはスプリットセコンド・クロノグラフの概念を再定義する先駆的なタイムピースであった。ギュンター・ブリュームラインの指揮のもと、リヒャルト・ハブリングの技術力によって、IWCはバルジュー7750をベースに堅牢かつ扱いやすいラトラパンテ機構を開発した。この革新的なメカニズムでは、従来のコラムホイールではなくカムによってクロノグラフおよびスプリットセコンドの制御を行っている。これにより、高精度を保ちながらも耐久性があり量産可能で、かつ高級機ほど価格が跳ね上がらない実用的なコンプリケーションが誕生したのだ。そして(私にとっても)朗報だが、経年とともにコレクターズアイテムとなってはいるものの、中古市場では依然として非常に手の届きやすい存在であり続けている。

 Ref.3711のデザインは、IWCの傑作パイロットウォッチであるマーク11に着想を得ている。42mm径のステンレススティール製ケース、ドーム型サファイアクリスタル、そして耐磁性を確保するための軟鉄製インナーケースを備えている。現在では広く認識されているIWCの“フリーガー”スタイルだが、このRef.3711とその商業的成功がアイコニックなデザイン言語の確立に大きく貢献したのは間違いない。スプリットセコンド・クロノグラフでありながら、実用性と装着感に優れ、日常使いにも適している。そしてムーブメントの革新性は、もっともマニアックな時計愛好家の心をも掴む魅力を持っている。
 販売元はロンドンのSubdial。ティムとそのチームによって、このIWC Ref.3711は現在、希望価格5450ポンド(日本円で約103万円)で公式サイトに掲載されている。詳しくはこちらから確認できる。
 

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オススメ4モデル「冬のボーナスで腕時計を買おう!」

2年ぶりの「「冬のボーナスで腕時計を買おう!」2019年にオススメしたモデルを振り返る」です。

2019年の冬のボーナス時期(12月末)にオススメした4本の時計を、翌2020年では相場がどう変化したのかチェックしましたが、昨年はすっかり忘れて2年ぶりとなりました。

ね~、タイミングが悪い(笑)

昨年末だったら、こんなに相場が変わりましたよ!って内容で書けましたが、今年はねぇぇ・・・特に現在は相場が悪いのです。インパクトの無い内容になるかも知れません。

でも流石にオススメした2019年と比較すれば、まだまだ下がっていないとは思います。

あの時オススメしているので、下がっているわけにはいかないのだ!

 

1.オーデマ・ピゲ 15500ST.OO.1220ST ロイヤルオーク41mm


まずオススメした1本目は、2019年の新作ロイヤルオーク 15500STです。

前作15400STと同じ41mmですが、自動巻きキャリバー4302へとムーブメントを変更しています。

発売当時国内定価は2,200,000円でしたが、現在は2,365,000円に上がってしまいました。
と、2020年のブログを引用しながら現在の相場をチェックしていきます。

国内定価がさらに上がっており、現在は3,190,000円。

2019年から3年で100万円も定価が上がるって信じられませんね・・・。

コスト高に円安と最悪な時期です。

ただ定価で欲しくても買えないというオマケ付き。

とても良いモデルですので、オススメはしたいのですが・・・

 

こちらは2019年12月のChrono24。

15500ST系ではグレー文字盤が1番安かったですね。

「TOP」のタグが付いているのはお金を払って1番先に表示するサービスを利用した投稿です。

2019年の最安値は税抜250万円でした。今見ると安い!

それでも当時の定価以上。

 

こちらが2020年12月。

最安順にソートすると黒文字盤とシルバー文字盤が出てきました。

グレーより数が多いのかな。

最安値も税抜300万円からスタートと、1年で相場を50万円も上げています。

 

そしてこちらが現在2022年の15500ST。

最安掲載は2021年の保証書付きグレー文字盤。

税抜で490万円!

中古ですが、定価の約1.6倍・・・元々スティールの3針モデルに300万円?って言うくらい高級モデルなのにプレミアム価格。

2019年に背中を押されて買ってくれた方いらっしゃったかな?

当時のプレ値の300万円で買っててもまったく損していません。

 

新品未使用品の相場を価格ドットコムのグラフから見てみますと現在は約900万円。

いやいやいや・・・中古との差がかなり大きく開いていますね。

一時期1000万円ちかくまで上がっているのも凄いですけどね。

因みにブルー文字盤は高過ぎてオススメできません。

 

こちらは楽天市場です。

まだ500万円台で販売されていますが、数が多いのでもう少し時間が経てば400万円台になるでしょうか。それでも充分高いですけど。

 

2.オメガ 310.20.42.50.01.001 スピードマスターアポロ11号 月面着陸50周年記念


2本目はスピードマスターアポロ11号 月面着陸50周年記念モデル 310.20.42.50.01.001です。

コーアクシャル脱進機搭載のキャリバー3861、限定本数は6,969本、国内定価は1,133,000円。

限定とは言え7000本近いのと、定価が100万円オーバーなので爆発的には人気となっておりませんが、作りは非常に良かったです。

個人的にはブレスレットが特別格好良く感じました。
こちらも定価が上がり現在は1,320,000円。

6969本もあるのに完売ですからね、スピードマスターの人気も上昇中。

 

2019年の新作でしたが・・・2019年の12月では国内定価以上の相場になっていました。

 

が、2020年12月には相場が下がっています。

やっぱり限定数が多すぎたかな?

しかし・・・

 

ジャ~ン!

現在は税抜180万円が最安値!

かなり出世しましたね。

文字盤デザインも格好良いし、ブレスレットの形状もイケています。なによりアポロリミテッドが出なくなってきたので、新キャリバーのこちらの評価が上がってきたのかも知れません。

2019年にオススメしつつ、2020年では下がっていたのでちょっと心配しましたが・・・

 

現在は高評価モデル。

一安心(笑)

 

3.ロレックス 226659 ヨットマスター42mm


3本目は新作ヨットマスター 226659で、新キャリバー搭載、ホワイトゴールドケースは42mmと大型化しています。。

おそらくアクアノートのホワイトゴールドケースを意識しているんだろうと思いますが、コレは実物が非常に非常に良かった。

ロレックスを見直しちゃいました。

しっかりした重さと、美しいケース、シックですがスポーティで視認性の良い文字盤。

当時の国内定価は2,940,300円(2020年1/1に変わり現在は3,052,500円)。

高級モデルですが、更にプレミアム価格になっていますね。

新作だってのもありますけど、本気で一生モノの腕時計だと思います。
そしてロレックスです。

12月に入り新宿GMTさんのセールは目を疑うほど安価なものが数多く並びますが、それでも完売しにくくなっているのがロレックス含めプレミアム価格が付いた時計たち。

相場がだいぶ落ち込んでいます。

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私の予想では2021年の年末くらいまでは下がるかな?なんて思っていましたが、気付けば2020年の年末くらいをゴールに突き進んでいる感じがしますね。

デイトナ黒なら300万円、こんな感じでしょうか。

で、ホワイトゴールドのヨットマスター42です。

 

今年の新作にファルコンズアイ文字盤とイエローゴールドのYM42がラインナップし話題になりましたが、さてさてノーマルモデルの226659の相場はどうなったかな?

2022年の9月に国内定価は3,516,700円に改訂されました。

 

こちらは2019年のChrono24。

当時の定価294万円を少しだけ上回る税抜310万円ほどから掲載されていました。

 

そして2020年。

あまり変わっていませんね。

 

で、2022年・・・

個人出品を除けば最安は税抜387万円、新品394万円と、どうでしょう2020年よりは高くなっていますか。

 

楽天市場を覗くと中古で410万円くらいからと、Chrono24と同じような相場ですね。

 

4.ロレックス 新シードゥエラー43mm 126600 初期モデル「ノークラウン」


4本目は2017年の新作シードゥエラー43mm 126600の中古品になります。

やや稀少性が増してきていて現行機なんですが文字盤が現行機と違うんです。

「王冠なし」の旧文字盤、コレね「今のうち」に買っておいたらどうでしょう?と言う話です。

新古品を探しても良し、普通に中古品でも良し、保証書付きにしましょう。

当時の国内定価は 1,197,900円(2020年1/1に変わり現在は1,230,900円)。

中古相場は140万円くらいからでした。
さて、最近あまり聞かなくなった「ノークラウン」のシードゥエラー43です。

ノークラウンにはあまり関係ありませんが現在の126600の国内定価は1,533,400円と、2019年時に比べると34万円も上がっています。

少しだけレアな文字盤、ノークラウンの相場をチェックしてみましょう。

 

こちらがオススメした2019年の相場。

およそ140万円(税抜)からの掲載でした。

定価に比べれば少し高い程度で、王冠なしの認識も薄い時代ですね。

 

で、2020年。

ロレックス全体の相場が上がったことでノークラウン(2017年で絞ってます)の相場も上向き。

 

そして最後、おちらが現在2022年のChrono24。

微妙ですが税抜178万円程から掲載されています。

2017年製造で絞っていますが5年も経つので中古は状態もかなり差があるでしょう。

なんやかんやで下回っていませんが、そこまでオススメじゃなかったのかも知れません。

2019年に私のオススメで購入された方いらっしゃいますか?まだ使用されていますか?

スミマセン、まだこれからです!


4モデルどれも価値を下げていませんね。

なかなかなオススメだったと思います。

中でもロイヤルオークとシードゥエラーは「当たり」だったのではないでしょうか。

我ながら良いオススメでした。
今回も4本とも何とか価値を下げていませんでした。

良かった。

ちょっと相場の動きが下向きなので、次回大きく結果が異なるかも知れません・・・

ロレックス買うのは若いうちがいいんだぜ!

家も時計も、若いうちに買っておけばよかったとな。なんでかって?簡単だよ、お金に余裕があったし、相場も上がっちまってるからさ。

タイミングを逃しちまって、後から手に入れるのに高い金払わなきゃいけないってのは、悔しいぜ。

買ったものが値上がりしたら、売り飛ばすのも投資としてアリだろうさ。

だからな、今回はどうしても買えるなら、ちょっと無理してでもロレックス買っておけ!って話だ。

 

若いうちの苦労は、買ってでもせねばならぬってことわざがあるだろ?自分への投資ってやつさ。

ちょっと無理してでも学び取ることが多いし、体力もある。

大したことじゃなければ批判されないさ。その経験は、後々役立つはずだ。

で、結論だ。

なぁ、ロレックスは若いうちに買っておけ!

さっきの話を考えてみろよ。もし、オジサンのオレが社会人になった1998年に、この雑誌に載ってたロレックス デイトナ 6239 ポールニューマンダイヤル 日本ロレックスOH済みを買ってたとしてさ。値段は198万円だった。

その時は「時計」について何も知らないから、買うわけないんだけどさ。でも、仮に買ってたらって話さ。もしもってことだよ。

 

先日の7月12日(2016年)のオークション結果、なんと834,000香港ドルで落札されちまったんだぜ。1香港ドルが13円ちょいちょいだとして、約1,100万円だよ!200万円が1,100万円になってんだよ。

オレは実家暮らしで残業ばっかりだったから、給料を使う暇もなく、年末にはそこそこ貯金もできてたんだ。そんな時に初冬ボーナスでロレックス エアキング 14000を買うことになったんだが、23歳のペーペーがロレックスなんて、それだけでも十分すげぇと思ったけどさ。でもさ、もしもって話だけど、デイトナ 6239を買ってたら・・・とんでもない金額になってたかもしれないんだぜ。そんな話さ。

 

 

オレの時計遍歴を整理してみるとさ・・・売ったり買ったりして、使った金額は約500万円だな。戻ってきた金額は約280万円だ。残ったのはロレックス1本、パネライ1本、オメガをオッサンにプレゼントした。残った時計を220万円で買ったことになるけど、高すぎだよな。もしも残った時計を売ったら、100万ちょいちょいで売れるだろう。そしたら120万捨てたことになるな。楽しんだから「損」とは言わないけど、結果的には赤だよ。

もし最初に200万円のデイトナ 6239を買ってたら、使ってるのに得してるんだ。黒なんだよ。

200万円なんてキャッシュで用意できなくても、足りない分は親に借りたり、カードで分割したり、頭金を入れてショッピングローンで買ったりできたはずだ。

知ってたらさ・・・買うチャンスはあったんだよ。それと買う勇気だな。

 

次の時計だ。

 

パネライだ。

ロレックスのムーブメントを乗せたパネライも価値を爆上げしてんだよ。型番は3646 カルフォルニアダイヤルやユニークダイヤルと呼ばれる手巻きダイバーウォッチだ。1998年には135万円で売られてたけど、最近のオークションで106,250スイスフラン(約1,100万円)で落札されてんだよ。

雑誌にもアンティーク時計の専門店が「非常に珍しい」と言ってたな。パネライはまだ流行ってない時期だから、こんな汚い時計を買うのは相当な勇気がいるだろうが。でも買った人は今ごろにやにや笑ってるんじゃないか?


このパネライも、ロレックスの関係性がプレミアムに繋がってるんだろうさ。結局はパテックフィリップかロレックスだよな。今からロレックス買った方がいいんじゃないかな?

 

 

さて、若いみんながどのロレックスモデルを買った方がいいか?今回は予算はあんまり気にせずに話すぜ。

1998年の雑誌の記事を見ても分かるように、高い時計のほうが値上がり率がいいってわけじゃないんだ。

まずは最初の1本だ。相場はもう200万円を超えてるけど、古いデイトナ 16520のブラウンアイ「パトリッツィ」ダイヤルのモデルを探してみよう。ローンで買ってもいいほど価値ある個体だと言っておくぜ。まあ、賛否両論あるだろうけど、若いやつが一括で買えるわけねえからな・・・。

こんな感じのモデルだ。ロレックス コスモグラフ デイトナ W番 16520 ブラウンアイだ。値段は1,969,000円(税込)だ。外箱はダメージあり、内箱、取扱説明書、保証書(発行日付 1995年12月)もついてるぜ。

 

パトリッツィってのは、1993~1995年のわずかな期間に製造されたデイトナ 16520の中でも一部の文字盤だけが持つ「ブラウン」カラーのインダイヤルのことさ。パトリッツィってのは人名でな、世界一の時計研究家「Osvaldo Patrizzi」氏から取られたんだ。アンティコルムの創業者って言えば、すごさが伝わるかな?

まあ、これが若いみんなにとっての第一歩だな。ワイルドな時計人生をスタートさせるなら、このパトリッツィダイヤルのデイトナを狙ってみるといいぜ!


S番とW番のデイトナ、ブラックダイヤルでインダイヤルが茶色になってやがるヤツは、これからも値段が上がりまくるってことだぜ!

楽天市場にはRASINから200万円以下で手に入る商品が出てるぜ!ショッピングローンも24回まで金利無しだし(ただでお金借りれるってことだ)、チャンスだぜ!

200万円で買ったデイトナが、20年後にはなんと1000万円になるかもしれねえぜ!もちろん、そうなる保証はねえけど、200万円以下には値下がりしねえから安心だぜ!1年や半年の相場の上下に惑わされるなよ!10年後、20年後にどうなってるかが大事なんだぜ!

30万円で赤サブを買ったヤツ、20万円で1016をゲットしたヤツ、70万円で手巻きのデイトナを手に入れたヤツがいるんだぜ!買った時の価格と10年や20年経った今の価値を、疑心暗鬼なヤツらに伝えたいっての(笑)

 

 

中古なんて嫌だ!1993年なんて古すぎだろ!って言ってるヤツに教えてやるぜ!ロレックス オイスターパーペチュアル シードゥエラーディープシーDブルー 116660、新品で1,353,000円(税込み)だ!

2本目はまだ新品で手に入るモデルだぜ!キャメロンこと、シードゥエラー ディープシー Dブルー・ダイヤル 116660だ!定価は1,274,400円だから、今は新品がプレミアム価格だぜ!定価で買えるなら、そっちでゲットしろよ!

で、何故このモデルを選ぶんだって?パトリッツィほどの信頼性はないけど、近い将来生産終了になると思われるディープシーだからだ!ハイスペックな時期は終わり、デカすぎるケースサイズから早々に引退するって言われてるんだな!もしも、もしもだぜ、生産終了になったら、ノーマルのままのDブルーモデルはさらに希少性がアップするぜ!2014年からのほんのわずかな期間だけのモデルとして伝説化すること間違いねえ!

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どうだろう?カッコいいだろう?

これから紹介するモデルたちは、もっと「もしも」的な要素が濃くなってくぜ!覚悟しろよ!

 

 

ジャン! ロレックス コスモグラフ デイトナ 116500LN、新品で1,988,000円(税込み)だぜ!

3本目だ!俺の予想では、この116500LNは寿命が短いと思ってるんだぜ!新しいクロノグラフ・ムーブメントの完成が近いと予想してるんだ!現在のクロノグラフムーブメントは2000年に発表されたRef.116520から続くキャリバー4130が使われてる。

もう16年も同じムーブメントが使われてるから、そろそろ新しいムーブメントが登場するんじゃないかって予想されてるんだ!キャリバー4130も1999年には「ロレックスが新ムーブメントを開発か?」って雑誌でスクープされてたんだ!特許関係の理由で製品になる前に噂が広まるからな!今のところまだ確証はないけど、来年には新しいムーブメントが登場することはないだろうな!少なくとも数年は作り続けるだろうけど、「もしも」万が一新ムーブメントが誕生して次世代デイトナに移行したら、プレミアムになるのは必至だぜ!


でもな、数年後に新ムーブメントが完成しても、機能に違いがあれば2機種同時販売する可能性もゼロじゃねえからな!

おいおい、それじゃ価値が上がらねえじゃねえか!そうだろうな。正解だ!

じゃあ、116500LNを買うならマークⅠダイヤルの「白」にしろよ!初期の「白文字盤」がカラーチェンジするのを期待して、白に投資するんだ!アイボリーかクリームに文字盤が変色したロレックスは強いぜ!初期以外でもカラーチェンジは起こり得るけど、初期の方が期待感があるだろうな!分かったか?

このデイトナは「白」文字盤の方が高値で推移してんだけど、人気はやっっぱり「白」の方だろうな!定価で買えるのが一番だけどな…

 

ロレックス – 116520 WH デイトナ ランダム品番 2015年4月保税込 1,420,000円(中古 – ほぼ新品)

4本目だ!今年生産終了になった116520、旧デイトナだぜ!オススメは2016年印の保証書付き個体だ!まだ新品・未使用品が手に入るぜ!

なんでだって?

ロレックス特有のプレミアム要素に「最終品番」ってキーワードがあるんだぜ!シリアル番号がG番で終わってるから、後のランダム品番では年式が判断しづらいんだよ!最近では個体の特徴に合わせて「保証書」が超重要になってきてるんだぜ!

最終年に作られた個体は超重宝されてプレミアム価格になるんだ!最後が1番いいってなんでだろうな?

例えば「P番」だぜ!時計好きならみんな知ってる「デイトナ 16520」の最終番号だ!P3*****番まであるらしいぜ!

次に「R番」「L番」だな。わかるか?人気モデル「エクスプローラーⅠ 1016」の最終シリアルだ!R-L-E-XとROLEXのスペル順にシリアルがスタートしていくけど、R番は最終じゃねえんだぜ。Lが最終だけどRまで重宝されるのはなんでだろうな?


ま、とにかく最終年の個体はプレミアムがつくんだ!特にデイトナみたいな人気モデルは尚更だぜ!新品は3月と比べて20万円以上も値上がりしてんだぜ!116520は2016年6月印くらいまで確認できてるぜ!なるべく新しい印の個体を見つけてゲットしろ!

新品って言って売ってるけど、保証書が無印だったり2015年だったりする場合があるから注意しろよ!