スーパーコピー時計

シチズンは特別限定モデルのトリオを発表した。

陸・海・空を表現した各領域のモデルがひとつずつ用意され、そこには特別なカラーリングと表面処理を施した愛らしいフジツボダイバー、そしてハイテク志向の多機能クォーツウォッチのペアが並ぶ。35年間、スポーティで何でもこなせる時計の数々を生み出してきたシチズンが、プロマスターの本質をどのように捉えているのかは非常に興味深いところである。

1989年にプロフェッショナル仕様の腕時計を扱うブランドとして誕生したプロマスターは、現在では基本的に3つのコンセプト、SKY /スカイ(パイロットウォッチ)、LAND /ランド(フィールドウォッチ)、MARINE /マリン(ダイバーズウォッチ)から構成される包括的なコレクションへと成長している。したがって、この35周年記念の新コレクションにもそれぞれから1本ずつが用意された。3本それぞれの詳細なスペックは、以下のとおりだ。
マリンからは、通称フジツボ、そしてまたの名をチャレンジダイバーともいうメカニカル ダイバー200mの4500本限定モデルを用意した。この新作ではオリジナルモデルの魅力はそのままに、ブルーの文字盤、縁にライトブルーのアクセントが施されたベゼル、そして表面処理にデュラテクトプラチナが用いられたチタン製ケースとブレスレットが採用されている。この表面処理により耐傷性が向上し(シチズンは1000~1200Hvという驚異的な値を提示している)、従来のチタンよりもずっとシルバーがかった輝きを放つ金属に仕上がっている。サイズは直径41mmに厚さ12.3mm、ラグトゥラグは48.5mmとなっており、ムーブメント(シチズン製の自動巻きCal.9051)はそのままだが、プロマスターの35周年を記念する特別ケースバックが付属して価格は14万3000円(税込)となっている。このモデルは6月6日から販売中だ。標準仕様のフジツボダイバーについて詳しく知りたい方は、こちらのHands-Onからご覧いただきたい。

ランドカテゴリに用意された時計はかなりクールだ。特に、僕のようにアナデジの時計が好きな人にはたまらないだろう。シチズンのアクアランド、ブライトリングのプルトンやエアロスペース、永遠の名作であるクロノシュポルトのUDT、超いかついセイコーのアーニーなど、アナデジウォッチには深くクールな何かがある……そして、僕はそのどれもが大好きだ! この特別なアナデジモデルには、シチズンの時計としては初めて、高解像度のMIP(メモリー・イン・ピクセル)ディスプレイを搭載したCal.U822と呼ばれる新型ムーブメントが採用されている。これにより、データをよりフレキシブルに表示できるようになった(アナデジモデルでは非常にシンプルなディスプレイを使用することが多い)。この多機能ムーブメントには以下にまとめたような便利なファンクションが搭載されており、43.9mm径の時計にはケースにマッチするカラーのスティール製ブレスレットとコーデュラナイロンストラップの両方が付属する。このタクティカルな雰囲気の新モデルは15万4000円(税込)で世界限定5900本、発売は今年の秋を予定している。
最後にスカイの35周年記念モデル、スカイホークA-Tベースの1本はステンレススティールのケースとブレスレットにグレーカラーのメッキが施されている。サイズは直径45.7mm、厚さが13.8mmで、文字盤のレイアウトは過去にアナデジのシチズン スカイホークを所有したことのある人ならだいたいわかるだろう。原子時計から送信される電波による時刻修正機能を有するエコ・ドライブムーブメントを搭載したこのモデルは、旅行に便利な数々の機能やデジタルならではの機能を備えており、今年の夏に世界限定5600本で12万1000円(税込)で発売される予定である。


我々の考え
素晴らしいスペックとプライスを兼ね備えた41mm径のダイバーズウォッチと、シチズンからしか発売されないような完成度の高い2種のアナデジモデルが並んでいるのだから、この3本からどれかひとつを選んで論じろというのは難しい話だ。今回僕が言うべきことはかなり少なく、ランドとスカイのモデルはもう少し小さくならなかったのか、ということぐらいだ。41mm径以下であれば、もっと購買層を広げることができただろう。それ以外の点では、プロマスターのアニバーサリーなのだから、シチズンがブランドコンセプトの芯を表現するような時計を目指したことにそれほど驚きはないだろう。

僕個人のアナデジウォッチに対する深くニッチな愛から言わせてもらうと、最大の関心ごとはもっぱらこのムーブメントがほかの時計に搭載されるかどうかということだ。このムーブメントを使えば、あらゆるスポーツウォッチに多彩な機能を搭載することができるのではないかと、クールなアイデアが次から次に湧き出てくる。
そして興味深いことに、これら3つはそれぞれプロマスターが掲げる系統を象徴する特別なモデルではあるものの、シチズンでもっともスポーティな時計ブランドにおける氷山の一角に過ぎない。シチズンはプロマスターのアンバサダーも拡大しており、ベースジャンパーでパラグライダーでもあるジェフ・シャピロ(Jeff Shapiro)がスカイに、写真家で探検家のジョディ・マクドナルド(Jody MacDonald)がマリンに参加している(才能豊かな写真家ウィリアム・ドラム/William Drummとともに)。ランドカテゴリではカナダの伝説的クライマー、ウィル・ガッド(Will Gadd)がプロマスターのアンバサダーとして就任したことも忘れてはならない(そして、その時計を有効活用しているのが上の写真だ)。
僕の手首に巻くことができ次第、詳細をお伝えする予定だ。

シチズン プロマスター MARINE メカニカルダイバー 200m “フジツボ” 35周年記念限定モデル

型番: NB6026-56L

直径: 41mm
厚さ: 12.3mm(設計値)
ケース素材: スーパーチタニウム™(デュラテクトプラチナ)
文字盤色: ブルー
夜光: あり、インデックスと針
防水性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: ケースと同色のスーパーチタニウム™製(デュラテクトプラチナ)

キャリバー: シチズン 9051
機能: 時・分・秒表示、デイト表示
パワーリザーブ: 42時間
巻き上げ方式: 自動巻き
新同数: 2万8800振動/時
石数: 24
精度: -10〜+20 秒/日

価格: 14万3000円(税込)
限定: 世界限定4500本

シチズン プロマスター LAND エコ・ドライブ電波時計 35周年記念限定モデル

型番: JV1008-63E

直径: 43.9mm
厚さ: 14mm(設計値)
ケース素材: ステンレススティール(グレーめっき)
文字盤色: ブラック
夜光: あり、インデックスと針
防水性能: 20気圧
ストラップ/ブレスレット: スティール製ブレスレットとインターチェンジャブルのコーデュラストラップ

キャリバー: シチズン U822 (アナデジクォーツ)
機能: 時刻表示、ワールドタイム、クロノグラフ、アラーム、パーペチュアルカレンダー、LEDバックライト、デジタル表示窓
パワーリザーブ: エコ・ドライブによるフル充電時で約3年
精度: ±15秒/月

価格: 15万4000円(税込)
限定: 世界限定5900本

シチズン プロマスター SKY スカイホーク A-T エコ・ドライブ電波時計 35周年記念限定モデル

型番: JY8146-54E

直径: 45.7mm
厚さ: 13.8mm(設計値)
ケース素材: ステンレススティール(グレーめっき)
文字盤色: ブラック
夜光: あり、インデックスと針
防水性能: 20気圧
ストラップ/ブレスレット: ケースと同色のステンレススティール製

キャリバー: シチズン U680(アナデジクォーツ)
機能: 時刻表示、ワールドタイム、電波による時計修正、パワーリザーブ、パーペチュアルカレンダー、1/100秒クロノグラフ、デジタル表示窓
パワーリザーブ: エコ・ドライブによるフル充電時で約3年半
精度: ±15秒/月

価格: 12万1000円(税込)
限定: 世界限定5600本

モンタから最新作となるノーブル ボイジャーが登場した。

これは既存のコレクションにGMT機能を追加したものだ。GMTを追加しながらも、同社のコレクションでは定番となっているノーブルのエレガントな外観とコンパクトなサイズを維持している。

ノーブル ボイジャーは、単独で調整可能な24時間針を持つ“コーラー”GMTを採用。スケルトナイズされたGMT針の先端にはスーパールミノバを塗布し、それがダイヤル外周の24時間スケールとともにタイムゾーンを示す。またポリッシュ仕上げのインデックスと針にもスーパールミノバを塗布しており、6時位置には日付窓を配している。モンタ ノーブル ボイジャーはサンレイグラデーション仕上げのブルーまたはグリーンダイヤルをラインナップし、サイズは38.5mm径×10.7mm厚(ラグからラグまで47mm)で、150mの防水性能を確保。これは3針のノーブルコレクションよりもわずか1mm厚いだけである。ブレスレットにはサテン仕上げのスティールブレスをセットする。

モンタ ノーブル ボイジャーの予約販売価格は2150ドル(日本円で約34万8000円)で、8月の納品を予定している。予約注文せず、後日購入する場合の定価は2395ドル(日本円で約38万7000円)だ。

我々の考え
モンタはノーブル ボイジャーのコーラーGMTにセリタ製SW330-2を選んだ。最近のHODINKEE Radioでも話したように、過去数年でGMTの需要は急増しており、ノーブル ボイジャーもこの賑やかな市場に参入を果たした。より多くのブランドが手ごろな価格、あるいは手に入れやすいフライヤーGMTを提供するなかで、モンタの新しいGMTは少し厳しい競争に直面するかもしれない。しかし時計の見た目がよく、完成度の高い時計であることに変わりはない。

モンタのフィット感と仕上げの品質にはいつも感心していて、特にこのブランドの価格帯でそれが実現しているのは本当にすごいと思う。新しいノーブル ボイジャーにも同じことを期待している。既存のモデルラインナップにぴったり合うし、モンタによるとさらにフィット感が高まったと言っているからだ。GMT針はスケルトン加工をしているため控えめで、これはダイヤルに焦点を当てるためだと考えられる。24時間目盛りの数字がダイヤルの中央寄りに配置されている点にはまだ完全に納得していないが、今週末開催されるワインドアップシカゴ(Windup Chicago)で実物を手に取るのが楽しみだ。


基本情報
ブランド: モンタ(Monta)
モデル名: ノーブル ボイジャー GMT(Noble Voyager GMT)
型番: 71DB00SP(ブルー)、71GN00SP(グリーン)

直径: 38.5mm
厚さ: 10.7mm
ラグからラグまで: 47mm
ケース素材: 316Lステンレススティール
文字盤: ブルーまたはグリーンのサンレイ
インデックス: アプライド
夜光: あり、スーパールミノバ(BGW9)
防水性能: 150m
ストラップ/ブレスレット: ステンレススティールブレスレット、クイックアジャスト機能付きデプロワイヤントクラスプ


ムーブメント情報
キャリバー: モンタキャリバーM-23(セリタSW-330-2ベース)
機能: 時・分表示、センターセコンド、日付表示、コーラーGMT
直径: 26.2mm
厚さ: 4.1mm
パワーリザーブ: 約56時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 25

価格 & 発売時期
価格: 予約注文時は2150ドル(日本円で約34万8000円)、定価は2395ドル(日本円で約38万7000円)

シェフのダニエル・ブールー(Daniel Boulud)氏は、ニューヨーク、そして世界中の飲食業界における伝説的存在だ。

彼はニューヨーク、マイアミ、モントリオール、シンガポール、ドバイなど、世界各地で数多くのレストランを経営している。1993年にオープンしたアッパーイーストサイドの『Daniel(ダニエル)』は、現在ミシュランふたつ星を獲得している。

ニューヨークの東65丁目に店舗を構えるレストラン『ダニエル』。
 ブールー氏は世界的に有名な美食の地、フランスのリヨン育ちである。フランスで修業を積んだブールー氏は、やがて料理のキャリアを追求するために渡米。以来ブールー氏と彼のレストランは数え切れないほどの賞を受賞し、その過程で時計を何本も手に入れたそうだ。

『ダニエル』の厨房に立つシェフ、ダニエル・ブールー。
 我々は彼自身の名を冠したレストラン『ダニエル』に赴いてブールー氏のキャリアと何本かの時計について話を伺い、さらに営業中のレストランシーンの撮影もさせてもらった。ご覧のとおりブールー氏の腕時計の多くには、彼のシェフとしてのキャリアをたどる物語が添えられている。リシュモンのボス、ヨハン・ルペール(Johann Rupert)氏が『ダニエル』で食事をしているときに手首につけていた時計を目ざとく見つけたり、ニューヨークのティファニー本店を改装してレストランを開いたり、ブールー氏と時計とのつながりは深い。プロフェッショナルな話題もありつつ、特に感動を呼んだのはもっと個人的なストーリーだった。私が何を言っているのかは、映像を見れば分かるだろう。

 ニューヨークの名レストラン『ダニエル』を会場に、シェフであるダニエル・ブールー氏とのTalkingWatchesをお楽しみいただきたい。

ロレックス GMTマスター II “ルートビア”

 レストラン『ダニエル』に入ると、シェフがSSとエバーローズゴールドのロレックス GMTマスター II “ルートビア”を着用して待っていてくれた。視認性に優れ、丈夫で大きすぎない。2018年に発表されたこのモデルは信頼性が高く堅牢なスポーツウォッチであり、私や読者諸君、ダニエル・ブールー氏が現代のロレックスに求めるものすべてを備えている。つまりGMTマスター IIは、厨房でバタバタ動き回るのにうってつけの時計なのだ。画像では傷や汚れも写り込んでいるが、それこそがブールー氏がGMTを頻繁に着用している証左であり、この時計をますます魅力的なものとしている。


ロレックス “ゼニス” デイトナ

 次に紹介するのは、ブールー氏所有のホワイトダイヤルのロレックス “ゼニス”デイトナ Ref.16520だ。1988年に発表された初の自動巻きデイトナで、ロレックスによって大幅な改良が加えられた有名なゼニス製エル・プリメロを搭載している。歴史やスペック以上に、この時計はブールー氏と最も長い時間を共有している時計のひとつであり、彼にとって初めてのロレックスでもある。それも自分で買ったものではなく、親しい友人からの贈り物だった。その経緯は特にパーソナルな話で、動画のなかの彼自身の言葉からその想いを感じ取って欲しい。

ロレックス GMTマスター II “ペプシ”

 「ロレックスをつけるのが好きですね。厨房で一番快適ですから」とブールー氏は語る。ルートビアと“ゼニス”デイトナに加え、彼は2018年にロレックスが初めて(ジュビリーブレスレットで)復活させたSS製のペプシを所有している。その直後にロレックスは、オイスターブレスレット仕様のペプシを追加した。特にこのロレックスコレクションは、ブールー氏が後援者となっている慈善団体を運営するトロントの友人とのつながりで収集したものだという。

 「私にとってそれぞれが思い出深いのです」と、ブールー氏はこれらの時計について語る。

ロレックス GMTマスターII “バットマン”

 ブールー氏は疑いようがなくロレックス党であり、とりわけGMT派である。次に紹介するのは、ロレックスが2013年に初のバイカラーセラミックベゼルで発表したブルー&ブラックベゼルのGMTマスター II “バットマン”だ。ここで見られるジュビリーブレス付きのバットマン(一部では“バットガール”と呼ばれている)は、2019年に派生モデルとして追加された。ブルーとブラックの組み合わせはGMTマスター系では歴史的に前例がなく、その登場はペプシベゼルが製造困難だったことから代替とした結果だという説もあったが、ペプシは数年後に初のWG製GMTマスター IIで実現することになる。いずれにせよ、ブールー氏のGMTマスターコレクションを総括するようなモデルである。

ロレックス スカイドゥエラー

 最後にSS製のロレックス スカイドゥエラーを紹介しよう。GMTマスターがトラベラーズウォッチの元祖だとすればスカイドゥエラーはその改良型で、24時間表示の年次カレンダーを搭載している。ダイヤルカラーはホワイトで、シェフの白衣によく映える。

パネライ ラジオミール ブラックシール

 パネライの時計はさまざまな要素で知られているが、ブールー氏のセラミック製ラジオミール ブラックシール(Black Seal)ではその実力をいかんなく発揮している。また時計以上に、ブールー氏がパネライに出合うまでの経緯は、入場料を払ってでも聞く価値がある。ある晩、リシュモンのボス、ヨハン・ルペール氏が彼のレストランでディナーをしていたというのが話の導入部だ(パネライはリシュモン傘下である)。
 ブールー氏は自分のレストランで食事をしてくれた彼に挨拶とお礼を言いに行ったとき、時計マニアの性分からルペール氏が手首に何をつけているのかを見抜こうとしたという。パネライのケース形状は特徴的なため、ひと目でそれと分かった。ブールー氏がフィレンツェの同ブランドから初めての時計を手にするまでに、そう時間はかからなかったようだ。

パネライ グラントゥーリズモ フェラーリ クロノグラフ

 ブールー氏のパネライに対する愛情はそれだけにとどまらない。これはフェラーリのためのパネライ グラントゥーリズモ クロノグラフで、スクーデリアのクラシックカラーを示す鮮やかなイエローダイヤルを備えている。12時位置のダイヤルを飾るのはフェラーリの名と疾走する馬の姿だけなので、知らなければパネライだとは分からないだろう。パネライとフェラーリは長年にわたって数々のコラボレーションモデルを発表してきたが、このコレクションは2006年にマラネッロのフェラーリ工場で発表された。
 インタビュー中、ブールー氏はモントリオールで翌週に開催されるF1レース観戦が楽しみだと語っていた。

パネライ ラジオミール 8デイズ GMT オロロッソ

 パネライのファンであるブールー氏は、50歳の誕生日にパネライから時計を贈られた。それもただのパネライではなく、ローズゴールド無垢のラジオミール 8デイズ GMT オロロッソである。これは2012年に発表された500本限定のRef.PAM00395で、ブールー氏のルートビア GMTと同じくローズゴールドにブラウンダイヤルが特徴的だ。

 内部にはCal.P.2002が搭載されている。特に見分けやすいポイントは、ブリッジがくり抜かれてムーブメントの輪列と主ゼンマイが露出している点だ。

 「厨房でつけることは滅多にありません」とブールー氏は付け加えた。

カルティエ サントス100

 フランス人であるブールー氏は、カルティエに特別な親近感を覚えるという。しかしこれまでの彼の嗜好が示すように、彼はドレスウォッチよりもスポーツウォッチ派だ。このカルティエ サントス100はローズゴールドのベゼルとDLCコーティングを施したカーボンケースに、ブラックのナイロン製“トワル・ドゥ・ヴォワール(帆布)”ストラップを組み合わせたモデルだ。彼のコレクションにある他社のモデルと同様、サントスもプレシャスメタルをスタンダードなスポーツウォッチにほどよく落とし込んでいる。
 「アメリカに来て最初に買った時計は、小さなタンクでした」とブールー氏は語る。今つけるにはちょっと小さいし、エレガントすぎると彼は説明していた。しかしこのサントス100はぴったりなようだ。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ

 オーデマ ピゲがロイヤル オーク オフショア クロノグラフを発表したのは1993年(偶然にもブールー氏が自身の名を冠したレストランをオープンしたのと同じ年だ)。男性用モデルの平均が直径36mm程度だった当時、この“ビースト”は大きく大胆なスポーツウォッチの時代を切り開いた。

 「これは夏用の時計ですね」とブールー氏は語る。

ウブロ クラシック・フュージョン クロノグラフ

 ブールー氏によると、ウブロの前CEOであるジャン-クロード・ビバー(Jean-Claude Biver)氏はニューヨークにいるときはいつも彼のレストランを訪れていたという。親交が深まり、ビバー氏はブールー氏に毎年特大のチーズを贈っていたらしい。ブールー氏はビバー氏のチーズが彼の言うとおり絶品であると証言してくれた。
 ブールー氏は以前にもう2、3本ウブロを持っていたものの、自分のレストランで長年貢献してくれた従業員に譲ってしまったという。しかしこのクラシック・フュージョン クロノグラフは残っている。

シンガー・リイマジンのダイブトラックは私が今まで見たなかで最も興味深く、

この時計はあまりにも高価すぎる(9万8000ドル、日本円で約1380万円)ために実用的なダイバーズウォッチとは言えない。それにダイビング用コンピュータほど正確でも便利でもない。さらに49mmのケース径に19.67mmの厚みでは、日常的に着用できると考える人がいるかどうかも疑問だ。それでもなお、この時計はこれらすべての問題点はあるひとつのアプローチによって帳消しになる。それはダイバーズウォッチのプラットフォームが最も必要としている、非常にクリエイティブなアプローチをこの時計が見せているという点だ。

 ダイバーズウォッチのカテゴリはしばらくのあいだ停滞しているように感じられる。私は優れたダイバーズウォッチが大好きで、自分でも所有しすぎていると思うほどだ。しかし形態は機能に従うという定説に従うと、ダイバーズウォッチはひとつの主題(テーマ)しか書けない作曲家のようなものである。その主題をどう発展させるかに悩み、結果として同一の主題の“変奏曲”しか作れていない。なぜならダイバーズウォッチのニーズや規格は現代においてすでに不必要なものであり、そのデザインが確立されるころにはダイブウォッチが実際の計時ツールとしての役目を引き継いでしまっていたからだ。だからこそ今さら完成されたデザインを崩すこともない、ということなのかもしれない。
 私はこれほどクールなダイバーズウォッチがシンガー・リイマジンから登場するとは夢にも思っていなかった。もしポルシェに5分でも乗ったことがある(少しでも興味がある)人に“シンガー”の名前を出せば、そのブランドが作る時計はラップタイマーだろうと予測するに違いない。それもそのはずだ。シンガー・ビークル・デザインは2009年に設立され、今やポルシェのカスタム分野で最も注目されるブランドのひとつとなっている。しかしシンガー・リイマジンは2015年にイタリア人時計デザイナーのマルコ・ボラッチーノ(Marco Borraccino)氏と、シンガー・ビークル・デザインの創設者であるロブ・ディッキンソン(Rob Dickinson)氏との偶然の出会いから生まれた。ボラッチーノ氏は時計のデザインのアイデアを持っており、それをマスターウォッチメーカーのジャン・マルク・ヴィダレッシュ(Jean-Marc Wiederrecht)氏のところに持ち込んだところ、彼は時計の基幹となる完璧なアジェングラフムーブメントが開発中であることを明かした。さあ、クルマに乗り込んでこの時計にまつわる短い旅を始めよう。

シンガー・リイマジンの“シンプルな”クロノグラフウォッチ
 今年のWatches & Wondersの前までは、シンガーと聞いて思い浮かぶのはドライビングクロノグラフだった。私は今年のGeneva Watch Daysでもそれらをチェックしていた。最も興味を引かれたのは、アジェングラフムーブメントを搭載した各時計において、ブランドがクロノグラフと時刻表示によってどのような表現をしていたかということだ。また、すべてのモデルには一体型のフード付きラグケースデザインが採用されている。

シンガー 1969 クロノグラフと1969 タイマー。
 ブランドの1969コレクションにはオメガのマーク IIや後期のスピードマスターを思い起こさせるステンレススティール(SS)やブロンズケース製のモデルがあり、いずれも40mmサイズだ。1969 タイマー(上記写真右)は一般的なクロノグラフ機能を有しており、時針と分針、ゼロリセット/フライバック機能を備え、インダイヤルはない。一方の1969 クロノグラフ Ref.SR201(上記写真左)ははるかに複雑で、文字盤の6時位置にある回転ディスクが時刻を表示する。中央には3本のクロノグラフ針があり、1番長い針が秒を表示、次に長い針が分をカウントし、最も短い針はマーケットで唯一とも言える60時間積算針となっている。


 昨年発表されたのはSS、ブロンズケースのモデルで、上の写真を見ると1969 タイマーのアジェングラフムーブメントの作りがやや簡素になってることが分かるだろう。しかしより特殊な(そして目まぐるしい)ディスプレイを持つモデルについて聞かれれば、トラック1 エンデュランスエディションが思い浮かぶ。この時計はチタンケースにゴールドのZrN(窒化ジルコニウム)コーティングが施されており、サイズは43mmで厚さが15mm。文字盤の外周にはジャンピングアワーとミニッツトラックがあり、中央には24時間のクロノグラフ積算計が搭載されている。この時計は24本限定で作られたもので、8万2500ドル(日本円で約1160万円)という価格にもかかわらず、これほどまでに気に入ってしまっている理由は正直なところ自分でもよく分からない。


 シンガー・リイマジンはその存在理由のすべてが、過剰ともいえる技術を用いて、自らのテーマに基づき過剰に作り込まれた荒唐無稽なバリエーションを展開すること(リフレインはお好きだろうか?)にあるように感じられる。そしてそれらは非常に高額だ。最近発表されたミンのアジェングラフ 20.01 シリーズ3(ゴールドケースで価格は4万3500スイスフラン、日本円で約720万円)と比較しても、シンガーの時計は別次元の価格帯にある。しかしシンガー・ビークル・デザインのクルマを手に入れる顧客はレストアされたポルシェ964に100万ドル以上を支払うような人々だ。彼らにとって大した問題ではないだろう。


シンガー・リイマジン ダイブトラック
 2021年、シンガー・ビークル・デザインはオールテレイン・コンペティション・スタディ(ACS)を発表した。これはオフロードやターマックラリーに対しオマージュを捧げたモデルであり、まさに“やるべきことをやった”いい例だ。シンガー ダイブトラックとの関連性を考えると、このACSが最も近しいように思う。ACSもダイブトラックも技術的にはオフロード向けに作られているが、ダイブトラックはオフロードから遠く離れた場所で使われる時計だ。
 ダイブトラックの主要な機能は、ダイビング経験がある人ならすぐに理解できるだろう。とはいえ私も、実際に手にするまで完全には把握できなかった。なので少し説明しよう。

 ダイビングを安全に行うために最も重要な要素のひとつに時間管理がある。これは単にエアがなくなるのを防ぐだけではなく、ダイビングに関連する健康リスクを避けるためでもある。ダイブトラックの文字盤には時刻表示機能はない。その代わり、文字盤の上では24時間表示のアジェングラフ自動巻きムーブメントとクロノグラフ機能に焦点が当てられている。水中で把握する必要があるのは、潜る深さに応じた“最大潜水時間”と、体内の血液や組織に溜まった窒素を排出するための“減圧停止期間”だ。この時計はダイブコンピュータと併用しての使用が想定されている。
 ケースの右側にはクロノグラフ用のフリップアップ(跳ね上げ式)ロックがある。水に入る直前にクロノグラフを起動し、その後ロックを元に戻すとクロノグラフが作動、クロノグラフ針と60分積算針で合計のダイブ時間を計測することができる。これらすべては、下の写真にあるアジェングラフ自動巻きムーブメントによって動作する。非常に複雑な構造のムーブメントが好きな人からすると、スプリット機能のない“シンプル”なクロノグラフとしてこれ以上に難解で素晴らしいものはなかなか見つからないだろう。




 ケースはグレード5のチタン製で9時位置にはヘリウムリリースバルブがあり、300mの防水性能を備えている。316Lステンレススティール製のベゼルには、大量のスーパールミノバも塗布されている。時刻を確認したい場合は、ケース側面にM.A.D.1に似た仕組みの回転式バレルがある。しかしこの時計における核心的な機能はこれだけではない。時計のサイズは直径49mm、厚さ19.67mmと巨大だが、水中ではそれほど気にならないだろう。そして水中でこそ、この時計は真価を発揮する。

 さて、あなたは海に入り海底に到達した。クロノグラフの60分積算針はルミノバが充填された明るいオレンジ色の大きな針で、潜水時の経過時間を計測している。しかし、海底でどれだけの時間を過ごせるのかも知っておきたい。ここで逆回転防止機能付きのダイブベゼルを回転させ、ピップ(目印)をクロノグラフの積算針に合わせる。その後、海底に滞在できる時間を慎重に見守る。そして上昇する時間になったら減圧停止レベルまで上昇し、再度ダイブベゼルを回してその時間を計測する。この操作のあいだもクロノグラフの針は、常に潜水全体の時間を計測している。

 これらの機能は非常に斬新だが、私がこの時計で最も気に入っているのはチームがダイバーズウォッチを水中以外でどのように役立たせるかを考えた点だ。厳密には、水中から出た瞬間にダイビングが終わるわけではない。ボラッチーノはこの時計がダイビング後のディナーにも着用できるものになればと考えていた。ダイブコンピュータは外してバッグにしまうとしても、次のダイブまでの“水面休息時間”(体内に溜まった窒素を排出する時間)を考慮しなければならない。ダイヤルの中央部には、“Chill”、“Dive”、“Fly”という3つのセクションからなる24時間積算計が見える。この水面休息時間はさまざまな要因に左右されるが、基本的にはクロノグラフを作動させ続けていれば時間が合計され、“Chill”する時間を示し、次のダイブまでの休息時間を知らせてくれる。そして6時間後には再びダイブセクションに入る。


 次のダイブ時にはクロノグラフをリセットしてリスタートする必要がある。しかしダイブ旅行中にこれを1回、2回、3回と繰り返していると仮定しよう。最後に計測しなければならないのは、飛行までの時間だ。最後のダイブから18時間以内に飛行機に乗ってはいけない(さもないと高高度に達したときに減圧症のリスクがある)。クロノグラフを作動させてさえいればディナーを楽しんだり、友人とリラックスしたり、好きなことをしているあいだに飛行機に乗れるようになるまでの残り時間を確認することができる。

 このように、シンガーのダイブトラックは時間管理の観点からはとりわけ実用的な時計ではないし、着用しやすいわけでもない。またプロのダイバーにとっては価格的にもまったく意味がない。しかし、私はそんなことはまったく気にならないのだ。このレベルのクリエイティビティこそ、私がダイバーズウォッチに対して感じていた倦怠感から抜け出すために必要だったものだ。
シンガー・リイマジン ダイブトラック。直径49mm、厚さ19.67mmのグレード5チタン製ケース、300m防水。マットブラックのベースに12個の夜光インデックスを配置。ケースサイドにアワーディスク。中央にジャンピングアワー、ジャンピングミニッツ、スイープセコンドを備えたクロノグラフ。6時位置に4分の1時間、2分の1時間、1時間を示す時刻表示。アジェングラフの24時間計自動巻きクロノグラフを搭載、部品点数479個、56石、パワーリザーブは72時間。フォールディングバックル付きブラックラバーストラップ、ダイビングスーツの上から快適に着用できるマジックテープ付きのダイビング用テクニカルテキスタイルストラップ。価格9万8000ドル(日本円で約1380万円)。

ウルベルク 搭載したUR-150 “スコーピオン”が登場

小規模ブランドであるウルベルクが新しいモデルを発表するのは、とても喜ばしいことだ。というわけで、新作UR-150に万歳三唱をしよう。ウルベルクにしては少しカーブが強調したケースと、大幅に拡張された時刻表示が特徴で、彼らのラインナップのなかでも最も大胆なサテライトディスプレイのひとつだ。

 新たなメカニズムを採用したUR-150 “スコーピオン”では、針先が弧を描きながら分表示を行うが、従来の120°から240°まで拡大され、視覚的により正確な分表示を実現した。一方で時を示すフレームは、60から0へ100分の1秒でジャンプする。このジャンプにはウルベルクがこれまで挑んだなかで最大の距離とパワーが求められたため、UR-150のフライホイールには速度調整器が搭載された。これは通常、ミニッツリピーターのチャイムを鳴らす順序を調整するために使用される機構で、レトログラード針の復帰をスムーズにしつつ、表示のスピードを維持する役割を果たしている。

 新しいスコーピオンにはふたつのバージョンがあり、それぞれ異なる仕上げが施されている。“タイタン”はサンドブラストとショットブラスト仕上げのチタンとスティールに、グリーンのアクセントや時刻表示フレームを組み合わせたデザインが特徴だ。一方“ダーク”はサンドブラストとショットブラスト仕上げのチタンに、アンスラサイトPVD加工されたスティールを組み合わせている。なおどちらの時・分表示にもスーパールミノバを塗布している。ケースサイズは42.49mm×14.79mm、ラグからラグまでは52.31mm、50mの防水性能を備え、また何層にも重なった立体的なウロコのようなラバーストラップはKISKA製である。

 新しいメカニズムを採用したムーブメントには、自動巻きのツインタービン巻き上げシステムが搭載されており、これは裏蓋から鑑賞できる。パワーリザーブは約43時間だ。それぞれのバージョンは50本限定で、タイタンは8万8000スイスフラン(日本円で約1520万円)、ダークはそれより1000スイスフラン(日本円で約17万円)高い価格設定となっている。


我々の考え
私はウルベルクが大好きだ。すでに心引かれる未来的な時計のなかでも、ウルベルクは最も迫力のあるデザインを生み出していると感じる。ウルベルクにしろ、MB&Fにしろ、その他いくつかにしろ、どれも安くはない。しかし彼らは同じものを何度も作り続けているわけではなく、常に新しい挑戦をしている。それだけに彼らが素晴らしい新作を発表する日はとてもワクワクする。ただ、実物を見るまでしばらく待たなければならないのが残念だ。


 まだ詳しくは分からないし、実物も見ていないが、この時計は以前から気に入っていたUR-100よりも快適につけられるモデルのように思える。UR-100は今日まで、誰かが“ウルベルク専用の白紙小切手”を渡してくれるなら自分が選びたいウルベルクだった。ただこの新作はかなり時刻が読み取りやすくなっている。とはいえ、普通の時計のように針を1回転させるわけにはいかないのかとも思う。240°の“スコーピオン”スナップをする必要があるのか? サテライトディスプレイは続けるのか? スコーピオンはこう言うだろう。“仕方ないんだ。これが僕の本性だから”と。


基本情報
ブランド: ウルベルク(Urwerk)
モデル名: UR-150 “スコーピオン” タイタン(UR-150 "Scorpion" Titan)、UR-150 “スコーピオン” ダーク(UR-150 "Scorpion" Dark)

直径: 42.49mm
厚さ: 14.79mm
ラグからラグまで: 52.31mm
ケース素材: サンドブラストとショットブラスト仕上げのチタン(タイタン)、サンドブラストとショットブラスト仕上げのチタンとアンスラサイトPVD加工されたスティール(ダーク)
インデックス: サテライト式時刻表示
夜光: あり、時・分針にスーパールミノバ
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: KISKA製ラバーストラップ


ムーブメント情報
キャリバー: UR-50.01
機能: サテライト式時・分表示(アルミニウム製サテライト時針、真鍮製回転台、アルミニウム製レトログラード針)
パワーリザーブ: 約43時間
巻き上げ方式: 自動巻き(ツインタービンシステム)
振動数: 2万8800振動/時
石数: 38
追加情報: サーキュラーグレイン&サンドブラスト&ショットブラスト&サーキュラーサテン仕上げ、面取りされたスクリュー針

価格 & 発売時期
価格: タイタンは8万8000スイスフラン(日本円で約1520万円)、ダークは8万9000スイスフラン(日本円で約1540万円)
発売時期: 発売中
限定: あり、世界限定各50本

正確にはロレックスのエクスプローラー Ref.1016の愛好家として知られている。

しかし彼の時計への興味はロレックスの質素でコンパクトなスポーツモデルだけにとどまらない。ヴィンテージのホイヤーや、ミッドセンチュリーのヴァルカン クリケット、そしてエクスプローラーのなかでも一風変わったモデルであるエクスプローラーIIまで、パーク氏は特に1970年代の個性的な時計に愛を注いできた。

 「子供のころから時計が大好きだったんです」と47歳(記事掲載時)の俳優であり作家、コメディアンでもあるパーク氏は語る。「自分のことをコレクターとまではいえませんが、気づかないうちに集めていましたね。時計が壊れて使えなくなっても、手放さなかったので」


それらの大半は、多くの人が子供時代に使っていたであろう手ごろなクォーツウォッチだった。転機が訪れたのは2015年か2016年ごろのこと。「『フアン家のアメリカ開拓記(原題: Fresh Off the Boat)』に出演して数シーズン経ったころで、人生で初めて、そう、お金に余裕ができたんです」とパーク氏は言う。「それで自分へのご褒美に、ロレックスを買おうと思ったんです。韓国系移民の家庭で育った僕にとって、ロレックスはアメリカでの成功を象徴する究極のシンボルのようなものでした」


彼はロレックスの販売店に入り、“バットマン”GMTを見つけて購入した。「まだ店舗に行けば買えた時代でした」と彼は言う。このバットマンはコレクターを含む多くの人から称賛され、パーク氏はさらに時計収集に興味を持つようになった。そこから収集への本格的な道が始まった。


ここに紹介するのはパーク氏のコレクションに含まれる時計の一部と、個人的および仕事上で重要な意味を持つ収集性の高いコミック本である。

スウォッチ イェーガーマイスター GB404
これはおそらくパーク氏にとって最初の時計で、1980年代のイェーガーマイスターとのコラボモデルだ。若いころに彼はこのプラスチック製のクォーツモデルを使い古し、やがてどこかでなくしてしまった。

その後パーク氏が時計収集にのめり込むと初心に立ち返り、長いあいだ行方不明になっていたこの最初の時計を買い直すことにしたという。彼はその時計のイメージが鮮明に思い浮かんだと語る。「記憶というのはある物ごとを自分なりに覚えていても、その後それに触れたとき、記憶していたものと微妙に違うと感じることがあります。記憶やイメージが何かの影響で変質していることが多いのでしょう。でもこの時計に関しては、すべてが記憶どおりでした」


スウォッチのイェーガーマイスターモデルを探すためにパーク氏はeBayを利用したが、まったく同一のモデルを見つけるのは容易ではなかった。「eBayにはスウォッチがたくさん出品されていて、80年代のモデルも多いのですが、このモデルはなかなか見つかりませんでした。スウォッチが流行し始めたころの最初のシリーズにラインナップされていたものです。僕が小学生だったころだと思います」

 「今でもときどきつけています。控えめな印象のスウォッチで、子供のころはそれが好きだったのを覚えています。友達の何人かは派手でカラフルなスウォッチを持っていましたが、僕のはどこか大人っぽくて、お父さんがつける時計のように感じていたんです」


ロレックス エクスプローラーII Ref.1655


 『アクアマン(現代:Aquaman)』の次回作を完成させようとしていたパーク氏は、これまでの習慣に従ってプロジェクト終了後のご褒美に腕時計を購入することにした。「よし、ずっと欲しかったものを買おうと思い、エクスプローラーII Ref.1655を手に入れることにしました」

 「エクスプローラーIIが洞窟探検家のために特別に作られたというストーリーが大好きなんです」とパーク氏は言う。「用途が特化しているのが魅力的で、少し滑稽にも感じます。これまで1度も洞窟探検家に会ったことはありませんが、彼らのためだけに時計が作られているのがおもしろいですね。それほど売れなかったのも不思議はありません。確か1971年に発売された個体だと記憶しています。僕のは1974年に購入されたものなので、そのあいだずっと店頭に残っていたのでしょうね」


パーク氏は70年代の時計が大好きで、この年代の時計を多く所有している。このエクスプローラーIIはエリック・ウィンド(Eric Wind)氏から購入した。「彼は信頼できる素晴らしい人です。ヴィンテージ時計を集めるうえで信頼できる相手がいることは本当に重要です」
ヴァルカン ローズゴールド製クリケット Cal.120

「時計としてのクリケットが大好きなんです」とパーク氏は言う。「クリケットの歴史、大統領の時計としての歴史が好きなんです」。しかしローズゴールド(RG)製のモデルに出合ったとき、似たものを見たことがなかったので、本物かどうか少し疑いました。そこでエリック・ウィンド氏にその時計の写真を見せると、いい個体だと保証して不安を和らげてくれたそうだ。

 「アラームの音をとても気に入っています。古きよきの鐘のような音で、その音から時計の歴史を感じることができます」とパーク氏は言う。
ホイヤー シルバーストーン Ref.110.313R

ホイヤーのなかでもシルバーストーンを選んだことから、70年代の時計に対するパーク氏の愛着が伝わってくる。このデザインは彼に1970年代のテレビを思い起こさせるという。シルバーストーンはカレラやオータヴィア、モナコほどの人気はないかもしれないが、その独特な魅力と大振りなサイズがパーク氏がこの時計を身につける理由となった。彼はこの時計をDCヴィンテージ・ウォッチのニック・フェレル(Nick Ferrell)氏から購入した。
 「この時計は僕が生まれた1974年に発売されました」とパーク氏は語る。「この大きなケースや、70年代らしいクラシックなデザインが本当に気に入っています。この時計はプロダクション会社Imminent Collisionを設立したときに手に入れました。ほかの人のためにプロジェクトや機会を作るのは、昔からやりたかったことです。旧友のヒエウ・ホウ(Hieu Ho)とマイケル・ゴラムコ(Michael Golamco)と一緒に会社を立ち上げました」

もうひとつ
イエロー・クロウ1巻 漫画本(1956年)
 パーク氏が初めて手にした高級時計はロレックスのバットマンだった。子供のころにコミックを集めていたことを考えるとふさわしい選択だ。現在パーク氏はマーベル・ユニバースで秘密諜報員ジミー・ウー役を演じている。ジミー・ウーは、マーベルの前身であるコミックアトラスの『イエロー・クロウ(原題:Yellow Claw)』の1巻で初登場したキャラクターだ。

 「僕はアジア系アメリカ人研究のバックグラウンドがあり、このコミックの表紙には心に強く響くものがたくさんありました。特にイエロー・クロウというキャラクターは、本質的にはフー・マンチューは黄禍論(黄色人種が白色人種を凌駕するおそれがあるとする主張)といった人種差別的なカリカチュアです」とパーク氏は言う。「とても興味深かったのは、そのような人種差別的なカリカチュアを悪役にしながらも主人公をアジア系アメリカ人にしたことです。当時としては非常に興味深い試みだったと思います」


このコミックは購入時保護ケースに入れられ、保存状態に対するグレーティングが表示されていたが、パーク氏は届いた後にケースを開けてページをめくったという。「子供に戻ったような気分でした」と彼は振り返る。「時計についても僕は同じように考えています。所有して、身につけて、実際に使いたいんです。価値にはあまり関心がなく、楽しむことが1番大事です」

コラボモデルの新作にはデイト表示とムーンフェイズ機能が搭載された。

今週初め、ニューヨークを拠点とするメンズウェアブランド・ノアがタイメックスとのコラボウォッチの第2弾を発表した。この時計は2023年夏に発売されたヴィンテージテイストのアール・デコ風タンクウォッチの続編にあたる。前作と同様に段差のあるケースデザインを特徴としながらも、今回はクォーツ駆動でデイト表示とムーンフェイズ機能を搭載し、美しいブラウンレザーストラップが取り付けられている。価格は手ごろな198ドル(日本円で約3万円)に据え置かれ、ノアのウェブサイトで予約が可能だ。出荷予定は2025年6月上旬とされている。
 ゴールドカラーメッキが施されたステンレススティール(SS)製のケースは縦37mm×横25mmで、カルティエのタンク マストやタンク LCの最大サイズよりやや大きい。独特のケースデザインを持つこの時計は見た目にずっしりとした重厚感があり、カルティエのタンクよりもタフな印象だが、この厚みが魅力をさらに引き立てている。前作からの違いとしてはこの新作ではムーンフェイズムーブメントを搭載しており、月の29.5日周期の現在位置を表示する仕様となっている。これは前作のデイ&ナイトインジケーターに代わるものだ。ノアがムーンフェイズを選択したのは、伝統的なスタイルのドレスウォッチをさらに追求するためだったのかもしれないが、実際にはタイメックスが1作目のサン&ムーンムーブメントを廃止したことが背景にある可能性が高い。理由はどうあれ、この新作は技術的にはオリジナルよりも進化している。

 今年の6月にも述べたように、ノアは中価格帯の現代的なメンズウェアブランドとして独自の地位を確立している。シュプリームの元クリエイティブディレクターで、現在はJ.クルーのメンズクリエイティブディレクターを務めるブレンドン・バベンジン(Brendon Babenzien)氏と、エステル・ベイリー・バベンジン(Estelle Bailey-Babenzien)氏によって設立されたこのブランドは、ニューヨークとロンドンの影響を受け、若々しいスケート文化にインスパイアされつつ伝統的なスタイルを再解釈している。

 2024年においてはエメ・レオン・ドレを除き、ファッション、伝統的なメンズウェア、ストリートウェアをシームレスに融合させたブランドはまれである。ノアの美学はカジュアルでありながら洗練されており、スーツを着なくても上品さを表現できることを証明している。それはストリートウェアやスウェットパンツを捨て去るということではなく、それらをより洗練された形に再構築することを意味している。例えば、それらをゴールドのタンクウォッチと合わせるようなスタイルだ。
 ノア×タイメックスのムーンフェイズウォッチはノアの公式サイトで198ドル(日本円で約3万円)にて予約注文を行なっている。

我々の考え

2024年6月に1作目の受注生産が発表された際、その売れ行きは非常に早かった。あまりに早かったため、大半が転売業者によって購入され、すぐにeBayに出品されたようだ。特にこれらの注文が2025年4月配送予定の先行予約分だったと知ると、さらに苛立たしい。しかし初回発売時の盛り上がりに惑わされて冷静な判断を失わないようにしたい。
 この時計は依然として非常に優れた価値を提供している。私は前作のデイ&ナイト表示モデルを実際に手に取って試す機会を得た。予想していたよりも少し厚みがある印象を受けたものの、その価格帯では十分に魅力的なデザインだった。もし来夏まで自宅にムーンフェイズウォッチが届くのを辛抱強く待てる人であれば、今回予約を入れる価値は十分にあったと断言できる。

基本情報
ブランド: ノア×タイメックス(Noah×Timex)
モデル名: ノア×タイメックス ムーンフェイズウォッチ

直径: 37mm(縦)×25mm(横)
ケース素材: ゴールドカラーメッキを施したSS
文字盤色: ホワイト
インデックス: アプライド
夜光: なし
防水性能: 5気圧
ストラップ/ブレスレット: クロコダイルパターンのレザーストラップ

ムーブメント情報
キャリバー: クォーツ
機能: 時・分・秒表示、デイト表示、ムーンフェイズ

MB&Fは20周年を記念して、このアイデアを過去10年の傑作ともいえるふたつのモデルで復活させた。

2009年、MB&Fが初めてレガシー・マシンの開発を始めたときの最初のアイデアは、LM1に長くて彫刻的なデザインの(“ホーン”と呼ばれる)ラグを使うことだった。しかしストラップをケースに近い位置にするか、それともラグの先端にするか、どちらがしっくりくるのかが決まらず、結局そのまま計画はストップしてしまった。そのあとこのアイデアが再び動き出したのは2021年のこと。LM1の10周年を記念して、スティールケースとブラックダイヤルのプロトタイプが製作され、ラグには2つの穴を設けることでストラップのフィット感を調整できる仕様になった。この時計は同年に行われたフィリップスオークションにて27万7200スイスフラン(当時の相場で約3330万円)という価格で落札され、収益の多くが非営利団体のセーブ・ザ・ライノ・インターナショナルへ寄付された。

MB&Fは20周年を記念してスーパーコピーn級品 代引き、このアイデアを過去10年の傑作ともいえるふたつのモデルで復活させた。それが、2015年にスティーブン・マクドネル(Stephen McDonnell)氏が開発したLM パーペチュアルと、2024年に同じくマクドネル氏が手がけたLM シーケンシャル フライバックだ。どちらのモデルも驚くほど立体的で彫刻的なムーブメントを持ち、SS製ケースに収められている。サイズは共に44mmで、LMパーペチュアルは厚さ17.5mm、シーケンシャル フライバックは18.2mmと、厚さが少し異なる。

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ダイヤルプレートはロジウム仕上げで、ほかのパーツと同じく金属の質感を生かしたデザインになっている。ただしブラックラッカー仕上げのインダイヤルとブルースティールの針がアクセントとなり、全体的に少し違った表情を加えている。ブランドによると、このブラックラッカー仕上げは特に難しく、ほんの少しのホコリでもすべてが台無しになってしまうほど、繊細な作業が必要だそうだ。

この時計はとても印象的だが、名前の由来になっている“ロングホーン”ラグも同じくらい目を引くポイントだ。その違いを完全に言葉で伝えるのは難しいが、実際に見ると以前の記事で撮影したモデルとは明らかに違いがあるのが分かる。比較写真も下に載せているので、ぜひ確認して欲しい。さらにこのラグは、ストラップを取り付ける穴の位置を変えることで、手首の大きさに合わせてフィット感を調整できるようになっている。細い手首でも太い手首でも、快適につけられる工夫がされているのだ。
ムーブメントは相変わらずクールで、仕上げも見事だ。手仕上げによる面取りの角や磨き上げられた見返しリング、コート・ド・ジュネーブ装飾、手彫りのエングレービングなど、細部までこだわりが詰まっている。しかもこのクオリティが、限定生産の40本それぞれにしっかり反映されているのも驚きだ。今回のモデルはブランドの20周年を記念して、それぞれ20本ずつの限定生産だ。価格はどちらも同じで、税別16万8000スイスフラン(日本円で約2890万円)となっている。
我々の考え
スイス時計業界では、今年はいろいろな記念が重なる特別な年だと言われていた。そしてMB&Fの20周年は、ヴァシュロンの270周年にはさすがにおよばないものの、とても力強いスタートを切ったのは間違いない。さらにこれがまだ序章に過ぎないという話も出ていて、これからどんな展開が待っているのか、期待が高まるばかりだ。
このケースの形状を見た瞬間に、これは好きだと思った。最初に頭に浮かんだのは、ヴォーシェ社(Vichet)製ケースを使ったパテック フィリップのRef.2497 “フラートン”や、ちょっと変わった2497/2498、2498のデザインだ。どれも長いラグが特徴で、滑らかな傾斜を描くフォルムがとても印象的だ(もしピンと来ないなら、関連の記事をチェックしてみて欲しい)。“もしMB&Fがヴォーシェ製ケースだったら、こんな感じになるんだろう。すごくカッコいいじゃないか”と直感的に思えた時点で、これは間違いなく成功だと思う。実際にその感想をそのままマックス・ブッサー(Max Büsser)氏にメッセージで送ったくらいだ。こういう細かい部分にこだわるところが、マックス氏と彼のチームらしいと思う。
MB&Fにラグからラグまでの長さを教えてもらえないか聞いたところ、なんと親切にも改めて測ってくれた。クラシックなケースは全長50.37mm、新しいロングホーンは53.99mmで、3.5mm以上長くなっている。ただ数字だけではなく、ラグの傾きや手首へのフィット感も影響するため一概に長いとは言い切れない。いつか実物を試せる機会があれば、細腕の同僚タンタンと一緒に、自分たちの手首にどんな風にフィットするのか試してみたい。確かに写真ではモデルの手首からラグが少し飛び出しているが、MB&Fがつけにくい時計をつくるとは考えられない。
MB&Fでどれを選ぶか考えるとき、いつもEVOケースにするかスタンダードケースにするかで悩んでしまう。パーペチュアルは厚さ17.5mm、シーケンシャル フライバックは18.2mmと結構厚みがあるが、幅44mmのサイズ感にしては意外とつけやすい。EVOケースは防水性や耐衝撃性が高くて実用的ではあるものの、カラーダイヤルプレートにブラックのインダイヤルが少し浮いて見えるのが気になっていた。それにラッカー仕上げではないブラックダイヤルは、奥行きが足りない感じがする。正直、ブラックラッカーダイヤルがホワイトよりもはるかに難しい仕上げだとは考えたこともなかった。今回のモデルのように全体をシンプルなワントーンでまとめたデザインは、自分にとってほぼ完璧と言える仕上がりだと思う。
基本情報
ブランド: MB&F
モデル名: LM パーペチュアル(LM Perpetual)/LM シーケンシャル フライバック(LM Sequential Flyback)

直径: 44mm(LM パーペチュアル)/44mm(LM シーケンシャル フライバック)
厚さ: 17.5mm(LM パーペチュアル)、18.2mm(LM シーケンシャル フライバック)
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: 光沢のあるブラックラッカー、ロジウムメッキのベースプレート
インデックス: ホワイトインデックス、ブルースティール針
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: カーフレザーストラップ、SS製フォールディングバックル
LM パーペチュアル “ロングホーン”
LM シーケンシャル フライバック “ロングホーン”
ムーブメント情報
キャリバー: スティーブン・マクドネルがMB&Fのために開発した完全一体型永久カレンダー(LM パーペチュアル)、スティーブン・マクドネルがMB&Fのために開発した完全一体型デュアルクロノグラフフライバックシステム(LM シーケンシャル フライバック)
機能: 時・分表示、曜日表示、日付・月・うるう年表示、パワーリザーブインジケーター(LM パーペチュアル)/時・分表示、ふたつの独立したクロノグラフ、フライバック機能付き“ツインバーター”(LM シーケンシャル フライバック)
パワーリザーブ: 約72時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 1万8000振動/時(LM パーペチュアル)/2万1600振動/時(LM シーケンシャル フライバック)
石数: 41(LM パーペチュアル)/63(LM シーケンシャル フライバック)
クロノメーター: なし
追加情報: サファイアクリスタル(表面および裏蓋)は両面反射防止コーティン

時計広告に隠された巧妙な販売戦略

腕時計の広告、さらには最近の腕時計写真全般で最も顕著な特徴のひとつが時・分針の位置である。それが手ごろなスウォッチであろうと、最高級のパテック フィリップであろうと関係ない。針は例外なく10時10分、もしくはそれに近い位置にセットされている。そして驚くべきことに、この配置にはあなたがその時計を買いたくなるよう誘導する仕掛けが隠されているかもしれないのだ。


この隠されたメッセージの背後にあるのが“パレイドリア(pareidolia)”という現象である。これはギリシャ語に由来する言葉だ(特筆すべき用語はたいていギリシャ語が起源だ)。パラ(para)は“近しい”や“代わりに”という意味があり、エイドロン(eidolon)は“イメージ”や“形”を指す。この言葉は人間の心(おそらくその他の動物の心も)が、視覚的なイメージのなかに意味のあるパターンを見出そうとする傾向を表している。そうやって認識したパターンには実際に意味がある場合もあれば、特になく思い過ごしである場合もある。具体例を挙げるなら、雲を見つめているうちに顔や家畜の形が見えてくるうようなものだ。また、過去に火星の表面で観測された“運河”も思い浮かぶ。これもパレイドリアの典型例だ。火星にはこの現象を刺激する要素が豊富なようで、以前話題になっていた“火星の顔”もその一例だろう。

バイキング・オービターが1976年に撮影した“火星の顔”(写真中央上)。

2001年にマーズ・リコネッサンス・オービターによって再撮影された同じ地形(2007年公開)。
パレイドリアがなければ絵文字はうまく機能しなかった、あるいは少なくとも今ほど便利には使われなかっただろう。たとえば、?という絵文字について考えてみてほしい。私たちはこれをごく自然に、そして瞬時に“困惑”や“軽度の悲しみ”、“失望”を表現する顔として解釈する。この解釈は本能的すぎて、脳が実際にはどれほど少ない情報でそれを行っているかを意識するのが難しいほどだ。この絵文字には塗りつぶされた円が描かれている。しかし冷静に考えると、この幾何学的な円は人間の頭の実際の形とほとんど共通点がない。もしこの両者がイコールなら、コンパスさえあれば誰でもレオナルド・ダ・ヴィンチになれるはずだ。そこにふたつの点と左右非対称にカーブした1本の線が描かれているだけで、それ以上の情報はない。
 絵文字や少しでも“顔らしい”ものを目にしたときに起こるのは、顔認識に特化した脳の一部が活性化するという現象だ。この領域は“紡錘状回顔領域(fusiform facial area)”と呼ばれ、脳の下部後方(側頭葉の腹側面)に位置する(神経解剖学に興味のある人ならおなじみだろう)。興味深いことにこの紡錘状回顔領域は、実際の顔よりも絵文字のような単純な形状に対して素早い反応を見せるようだ。この現象は進化の過程で、人間がごくわずかな情報から表情を読み取り、感情を判断する能力を発達させた結果だと考えられている。

ロレックス オイスターの広告(1927年)。針が10時17分に設定された例だ。Image, Rolex.org
腕時計広告における針の設定が“10時10分”と関係する理由は一体何なのだろうか? 話はここからさらに深まる。2008年、ニューヨーク・タイムズでアダム・アンドリュー・ニューマン(Adam Andrew Newman)氏が同テーマについて執筆した記事で、この慣習が普及している実態について触れた。当時ユリス・ナルダンのマーケティング責任者であったスザンヌ・ハーニー(Suzanne Hurney)氏は、この記事のなかで「10時10分の針の配置はスマイリーフェイス(顔文字の笑顔)のような印象を与えてくれるので、可能な限りその配置を採用するようにしている」とコメントしている。ここでも再びパレイドリア(視覚的錯覚)が登場するわけだ。また、当時タイメックスの社長だったアダム・グリアン(Adam Gurian)氏はニューヨーク・タイムズに対して「弊社では常に針を10時9分36秒に設定して撮影している。たとえその配置によって、時計の一部の機能や特徴を隠してしまったとしてもだ」と語っている。

しかしながら、認知科学的な根拠が明確に示されたのは2017年のことである。この年、心理学の専門誌『Frontiers In Psychology』が「なぜ時計広告の針は10時10分に設定されているのかという心理学的実験(Why Is 10 Past 10 the Default Setting for Clocks and Watches in Advertisements? A Psychological Experiment)」と題した研究を発表した。この研究では「10時10分に設定された時計は、観察者の感情や購入意欲に対し顕著にポジティブな効果をもたらした。しかし8時20分に設定された時計は、感情や購入意欲に何の影響も与えなかった。また10時10分に設定された時計は、男性よりも女性において、より強い“喜び”の感情を引き出した」との結果が示された。
検証の方法はシンプルである。研究者たちは20種類の時計をそれぞれ10時10分、11時30分、8時20分に設定して撮影し、計60枚の写真を作成した。この写真を最初の実験では男性20人、女性26人、2回目の実験で男性11人、女性12人に見せた。その結果10時10分の配置がほかのふたつの設定よりも最も高い“喜び”の感情を引き起こすことがわかった。また10時10分は唯一、笑顔に見える配置として認識された。

検証の際に使用された時計の画像。ブラッドリー・ラング自己評価マネキンと対応。『Frontiers In Psychology』より。
正確を期すために補足すると、ジェームズ・ステイシーが指摘していた興味深い事実がある。それは時計の針を“10時10分”に設定すると口では言うものの、実際には針が“10時8分”から“10時10分”のあいだに設定されていることが多いという点だ。これは分針の先端がちょうどインデックスの上に来ると分針の先端が見えにくくなるうえ、微妙な非対称性が生じてスマイリーフェイス効果を損なう可能性があるためである。
10時10分の配置は時計を購入する際の抵抗感を減らす効果があるものの、この小規模な実験ではその配置だけで実際に購入を決断させるほどの強い効果は見られなかった。ただし競争の激しいアナログウォッチの販売市場では、どんな小さな優位性も活用する価値があるだろう。研究論文にはこう記されている。「この研究は、10時10分のようなスマイリーフェイスに見える時刻設定を用いることで、観察者の感情的な反応や時計の評価にポジティブな影響を与えられるという事実を初めて実証的に証明した。ただし観察者は、時刻設定がこの効果を引き起こしていることに気付いていない」

時計広告で針を10時10分に設定する習慣が一般的になり始めたのは、1950年代以降のことである。それ以前の広告では、時刻設定はもっと雑然としていたようだ。たとえば1927年のロレックスの広告(メルセデス・グライツのイングランド海峡横断泳を題材にしたもの)では、時計の針が10時17分に設定されている。この時代にも10時10分の設定が使われることはあったが、現在ほど広く普及していたわけではない。また“8時20分”という配置も人気の選択肢だった。これは少し不機嫌そうな顔に見えるものの、時計が贅沢品ではなく必需品だった時代には“時を刻むことは真剣な行為である”という印象を与えるのに役立っていたのかもしれない。さらにこの位置では、針がブランドロゴを隠さないという実用的な利点もあった。

デジタルウォッチについてはどうだろう? 網羅的な調査をしたわけではないが、驚くべきことにタイメックスのデジタルウォッチもアナログと同じく“10時9分36秒”に設定されている。一方、カシオのG-SHOCKはデジタルディスプレイの時刻が一律で“10時58分50秒”に設定されており、日付は常に“6月30日 日曜日”だ。アナログとデジタルが組み合わさったアナデジモデルでも日付は同じく6月30日だが、針の時刻は“10時9分36秒”に設定されている。この点ではタイメックスとの差別化が図られているといえる。

なぜ6月30日なのか? 最初はまったく見当がつかなかった。もちろん、6月30日にはいろいろな出来事が起きている。グレゴリオ暦が採用された1582年以降6月30日は実に440回存在しているし、ツングースカ大爆発のおかげで“国際小惑星デー”にも指定されている。しかしこの記事を公開する前に同僚のマイルズ・クサバが指摘してくれたのは、1957年6月がカシオ計算機株式会社の設立月であり、その年の6月30日は日曜日だったということだ。現在カシオに事実確認中だが(記事執筆当時)、ひとまずこの説で間違いないといえるだろう。Q.E.D.(証明終了)。

シリーズ第2弾となるデザインは、150本限定の特別仕様として鮮やかなカラーを採用した。

ニバダ グレンヒェンが2023年にアンタークティック ダイバーを発表して以来、そのラインナップは一貫して変わらず、ヴィンテージにインスパイアされたブラックダイヤルがスキンダイバーシリーズの唯一のSKUとして君臨していた。しかし同ブランドの動向を追っているならば、創業者のギヨーム・ライデ(Guillaume Laidet)氏が常にアーカイブやウェブサイト、さらには個人コレクションを探索し、ブランドの歴史的オマージュや復刻のインスピレーションを探し続けていることを知っているだろう。今回ギヨーム氏が参考にしたのは、ヴィンテージウォッチショップで見つけた1970年代のニバダ アンタークティック シーだ。オリジナルはよりユニークなクッションケースを採用していたが、そのエメラルドグリーンのダイヤルは現代版アンタークティック ダイバーのプラットフォームに受け継がれ、新たな限定モデルとして登場することとなった。

今回は、すべてがダイヤルに集約されている。とても鮮やかなグリーンであり、その彩度の高さによって暗い環境でも色が損なわれることはない。サンバースト仕上げが際立ち、明るい光の下ではダイヤルのメタリックな質感が、はっきりと見て取れる。この仕上げの強調により、暗い場所でもダイヤルは単調になることなく明暗のコントラストが生まれ、常に表情を変え続ける。正直に言うと、このカラーリングはチープに見えてしまうのではないかと心配していたが、実物を手に取るとその仕上がりは期待以上に印象的だった。


ダイヤル周囲には、プリントされたホワイトの分目盛りが配されており、その内側には大型の横長な長方形のインデックスが並ぶ。3・6・9・12時位置には厚みのあるファセット加工が施されたメタル製アプライドインデックスが採用され、それ以外の時間帯には、ブランドが“クリームラテカラーのパティーナ”と称する夜光インデックスが配置されている。だが実際に見るとコーヒーのような色味はなく、むしろグリーンイエローに近い印象を受ける。それでもすべてのインデックスは分厚くワイドに設計されており、このデザイン特有のユニークなプロポーションに貢献している。

これらのインデックスを引き立てるのはきわめてワイドな針だ。私がこれまで見たなかでも最も幅広い針であり、小振りな38mm径のケース内でその存在感が一層際立っている。時・分針は四辺が面取りされているものの、中央部分にはファセット加工が施されておらず、そのためダイヤル上での視認性が非常に高い。オリジナルのヴィンテージモデルから受け継がれたデザインとしては適切な選択だが、もしケースがラウンド型のクッションケースだったならば、このブロック状の針とのバランスがさらによくなったのではないかとも思う。ちなみに、これらの針は現行のアンタークティック ダイバーの標準的なブラックダイヤルモデルにも採用されている。しかし、今回のモデルでは長方形のインデックスと組み合わさることで、そのデザインがより効果的に機能しているように感じられた。


ヴィンテージからのインスピレーションはこれだけにとどまらず、オリジナルのタイポグラフィもこの現代版に受け継がれている。ニバダ グレンヒェンのブランドロゴ上に配置されたアイコンは、ヴィンテージのカタログリストに掲載されていたデザインを踏襲しており、6時位置の上には筆記体でAntarctic-Diver(南極ダイバー)とプリントされている。今回、自分が手に取ったのはノンデイト仕様だったが、ギヨーム氏はよりオリジナルに忠実なフレーム付きの日付表示モデルも展開している。ブラックダイヤルとは異なりこのモデルには、幸いにもサイクロップスレンズが付いていない。

それ以外の点は、基本的に標準モデルのアンタークティック ダイバーと同じだ。ステンレススティール製のケースは直径38mm、厚さ12.9mmで、ケースサイドはポリッシュ仕上げ、トップとボトムはヘアライン仕上げとなっている。ニバダの多くのモデルはエッジがシャープで明確なラインを持つことが多いが、このモデルはケースのトップからサイドへの移行がより滑らかで、人によってはややポリッシュが強すぎると感じるかもしれない。一方でCNC加工直後のような無機質な印象はなく、適度な仕上がりにまとまっている。ベゼルにはセラミックを採用し、この価格帯で一般的なアルミニウム製よりも高級感のある仕上がりだ。ベゼルは圧接式で、クリック機構のない双方向回転式。適度な抵抗があり、しっかりと固定されている。しかしこの時計を本格的なダイビングツールとして使用する人は、実際にはほとんどいないだろう。

この時計の全体的なサイズ感は非常に装着しやすく、200mの防水性能を備えた実用的なダイバーズウォッチとなっている。さらにトロピックラバーストラップが手首にしっかりとフィットし、快適なつけ心地を実現している。ムーブメントにはニバダの標準仕様であるソプロード製PO24キャリバーを搭載し、パワーリザーブは約38時間。ノンデイト仕様だと、ゴーストデイトポジションが生じる点は理想的と言えない。裏返すとペンギンの刻印が施されたデザインが現れる。こんな楽しいデザインなら文句はない。

今回のアンタークティック ダイバーは150本限定で、ノンデイト仕様とデイト表示付きモデルがそれぞれ75本ずつ製造される。販売価格は標準モデルと同じ995ドル(日本円で約15万円)に据え置かれており、グリーンダイヤルは限定モデルとしての個性を際立たせるユニークなカラーバリエーションとなっている。これが画期的かつ革新的なモデルかと言われれば、答えはノーだ。しかしニバダが手がけたハイパースタイライズドなデザインと鮮やかな発色は、定番とはひと味違うモデルを求める人にとってよい選択肢となるだろう。
ニバダ グレンヒェン アンタークティック ダイバー グリーン。ステンレススティールケース、直径38mm、厚さ12.9mm。ノンデイト仕様とデイト表示付きのグリーンダイヤル、ダブルドーム型サファイアクリスタル、両方向回転式セラミックベゼル、200m防水。ソプロード製自動巻きCal.PO24搭載。ストラップやブレスレットのバリエーションあり。価格は995ドル~(日本円で約15万円~)。